第15話「証明」
ソウメイにスカウトされた。
《群雄割拠》。
プロチーム《百花》。
普通なら、喜ぶところなのかもしれない。
でも。
アキトは断った。
理由は簡単だった。
まだ――行けない。
◆
「四本?」
「はい」
「何が」
「ワイヤー」
「聞こえてる。なんで増えてんだって聞いてんだ」
整備区画。
《凪》の前で、アキトは両腕を広げた。
「二本で相手の逃げ道を減らせたんですよ」
「だから?」
「四本なら、もっと減らせる」
「…………」
「六本なら――」
「待て」
「はい」
「増やさねえぞ」
「なんで!?」
鉄三は盛大に顔をしかめた。
「お前、二本まともに扱えてんのか?」
「…………」
「扱えてんのか?」
「……一回勝ちました」
「質問に答えろ」
鉄三が無精髭を掻く。
口元には、いつもの火のついていない煙草。
「機体ってのはな、付けりゃいいってもんじゃねえ。リール増やせば重量も増える。電力も食う。熱も出る。腕の中に入れる場所だって必要だ」
「じゃあ――」
「二本でやれ」
「…………」
「二本を使い切ってから言え」
アキトは《凪》を見る。
右腕に一本。
左腕に一本。
「……分かりました」
「やけに素直だな」
「じゃあ、この二本が強い奴に通用するか試してきます」
「おう。そうしろ」
「四強とか」
「おう――」
鉄三が止まった。
「…………」
アキトも止まる。
「…………」
「今、なんつった?」
「四強」
「馬鹿かお前」
「なんで!?」
「六勝九敗だろうが!」
「でも六勝してます!」
「なんで勝った方だけ見るんだよ!」
「だって九敗見ても増えないし」
「何が!?」
「自信」
「当たり前だ!!」
整備区画に、鉄三の怒声が響いた。
◆
でも。
アキトは本気だった。
ソウメイに言われた。
『あなたは、自分の強さをまだ勘違いしています』
意味は分からない。
だったら。
確かめればいい。
俺は今、どれくらい強い?
ワイヤーを手に入れた。
負けた。
負け続けた。
それでも少しずつ使い方を覚えた。
そして十五戦目。
初めて、自分だけの勝ち筋を見つけた。
だったら。
次に試す相手は――。
◆
アキトは端末を開いた。
《一騎》ランキング。
その上位。
四人の名前。
四強。
ソウジ。
ウル。
シヴァ。
そして――。
「ヒカル」
一人ずつ眺める。
ソウジ。
あの突きは今でも覚えている。
初撃を避けた。
二撃目。
三撃目。
逃げるたびに速くなった。
最後には、逃げる場所すらなくなった。
「ソウジさんは……」
もう一度やる。
絶対に。
でも。
最初じゃない。
今のワイヤーがどこまで通用するのか。
まずは。
別の四強で試したい。
「ヒカル……」
戦績を見る。
当然。
自分とは比べ物にならない。
「…………」
アキトの指が止まる。
対戦申請。
《一騎》では年間三十試合。
対戦は、自分から申請するか。
相手から届いた申請を受けるか。
申請すること自体はできる。
問題は。
相手が受けるかどうか。
六勝九敗。
新人。
四強が、そんな相手と戦う理由なんて――。
「まあ」
アキトは笑った。
「送るだけならタダだし」
押した。
――対戦申請を送信しました。
「…………」
送ってしまった。
「まあ、断られるか」
端末を閉じようとする。
ピコン。
――対戦申請が承認されました。
「…………」
アキトが固まった。
「早くない?」
送ってから。
何秒だ?
もう一度画面を見る。
間違いない。
対戦成立。
対戦相手――ヒカル。
「…………」
口元が、ゆっくり上がっていく。
「マジか」
心臓が鳴る。
怖くない。
と言えば。
嘘になる。
四強。
ソウジの強さを知っているからこそ、分かる。
同じ場所に名前を並べる人間が。
普通なわけがない。
でも。
それ以上に。
「やれる」
試したい。
二本のワイヤー。
自分が見つけた勝ち筋。
どこまで通用する?
ソウメイに言われたからじゃない。
誰かに認めてもらいたいわけでもない。
「証明してやる」
自分に。
「俺が、どこまで強くなったのか」
◆
数日後。
試合会場。
『続いての対戦カードを発表します!』
歓声が響く。
『まずは――現在六勝九敗! しかし前戦では、ワイヤーをフィールドへ残すという異色の戦術を披露!』
《凪》がフィールドへ入る。
『アキト――!』
歓声。
以前より。
少しだけ大きい。
「……増えたな」
アキトは小さく笑った。
十五戦。
勝った。
負けた。
また負けた。
それでも。
見てくれる人間が、少しずつ増えている。
『そして――!』
実況の声が変わった。
会場の空気も。
一瞬で変わる。
『対するは――!』
歓声が爆発した。
『《一騎》四強が一人――ヒカル!!』
「……っ」
アキトが入場口を見る。
巨大な影。
最初に見えたのは。
機体ではなかった。
武器。
「……何だ、あれ」
巨大。
長い。
《凪》と比べても、明らかにおかしい。
超重量ハンマー。
しかも。
その後部には。
「ブースター……?」
付いている。
そして。
その巨大なハンマーを担ぎ、一機のキジンが姿を現した。
《トール》。
歓声がさらに大きくなる。
『ヒカル選手! まさか新人からの対戦申請を即座に承認! これはどういうことでしょうか!』
公開通信。
ヒカルの声が会場へ流れる。
『んー?』
軽い。
想像していた四強の声とは、全然違った。
『だってさ』
《トール》が《凪》へ顔を向ける。
『こいつ、面白そうじゃん』
「…………」
アキトが眉を寄せる。
『この前の試合、見てたよ』
「え?」
『ワイヤー二本で、相手の逃げ道なくしたやつ』
「…………」
十五戦目。
『あれ、面白かった』
ヒカルが笑う。
『だから申請来た時、ラッキーって思ってさ』
「ラッキー?」
『うん』
四強。
《一騎》トップクラスのファイター。
新人からの挑戦。
普通なら。
胸を貸す。
そんな言葉が出てもおかしくない。
でも。
ヒカルは違った。
『俺さ』
《トール》が巨大なブースターハンマーを持ち上げる。
『面白い奴と戦うの、好きなんだよね』
アキトの口元が上がった。
「奇遇ですね」
『ん?』
「俺もです」
『ははっ!』
ヒカルが笑う。
『いいじゃん』
《トール》がハンマーを構える。
その瞬間。
空気が変わった。
「…………っ」
アキトの笑みが消える。
ただ構えただけ。
なのに。
分かる。
あれを。
まともに受けたら――。
まずい。
◆
『両者、準備完了!』
アキトは《凪》の両腕を見る。
右に一本。
左に一本。
たった二本。
でも。
これで勝った。
これで。
自分の戦い方を見つけた。
なら。
四強にも。
どこまで届くのか。
見せてやる。
「俺は――」
刀を構える。
「強くなった」
ヒカルが笑った。
『じゃあ』
巨大なブースターハンマーを肩へ乗せる。
『見せてよ』
アキトの目が細くなる。
『試合――開始!』




