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『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第二章「証明」

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第16話「十発」

『試合――開始!』


 開始と同時。


 アキトは右腕を上げた。


「まずは――」


 ワイヤーを射出しようとする。


 だが。


 ヒカルは、それより先に動いた。


『よっと』


 《トール》が巨大なブースターハンマーを床へ倒す。


「……?」


 何をする。


 アキトが警戒する中、《トール》は――。


 その上へ乗った。


「…………は?」


 巨大なハンマーの柄。


 その上に両脚を置き、膝を軽く曲げる。


「いや、何して――」


 ブースター点火。


 ドンッ!


「乗るの!?」


 ブースターハンマーが一気に加速した。


 その上に立ったまま、《トール》が突っ込んでくる。


「速っ――!」


 アキトは横へ走った。


 だが《トール》は落ちない。


 揺れるハンマーの上で膝を使い、腰を落とし、上半身をわずかに傾ける。


 巨大な機体の重心が移動する。


 それだけで。


 ブースターハンマーの進行方向が変わった。


「曲がった!?」


『そりゃ曲がるよ』


「どうやって!?」


『こうやって!』


「分かるか!」


 ヒカルが笑う。


 速い。


 それ以上に。


 おかしい。


 あの巨大なハンマーの上で。


 《トール》が完全にバランスを取っている。


 ヒカルはダイレクトモーションキャプチャーで、自分自身の身体を動かしている。


 膝。


 腰。


 肩。


 重心。


 そのわずかな変化を《トール》へ伝え、機体重量そのものを使って巨大なハンマーの進路を制御している。


 普通なら。


 乗った瞬間に振り落とされる。


『よーし!』


 ヒカルが観客席へ腕を上げた。


『今日もやるぞー!』


 歓声が爆発した。


「……何を?」


『みんな準備いいかー!』


『『『うおおおおお!!』』』


 アキトだけが分かっていない。


『じゃあ――』


 《トール》がブースターハンマーの柄を掴む。


『一発目!』


 ハンマーのブースターが唸った。


 次の瞬間。


 ドンッ!!


「っ!?」


 超重量ハンマーが跳ね上がった。


 ブースターによって強引に振り上げられ、その反動で《トール》の巨体まで宙へ浮く。


 普通なら。


 ここで姿勢が崩れる。


 だが。


 ヒカルは空中で身体を折った。


 《トール》の脚が動く。


 腰が入る。


 上半身を倒す。


 機体そのものをカウンターウェイトにして――。


 ハンマーの軌道を変えた。


「こっち向いた!?」


 巨大なハンマーヘッドが。


 空中で《凪》を捉える。


『いっくぞぉ!!』


 再び。


 ブースター点火。


 ドンッ!!


「うおっ!?」


 アキトが横へ跳ぶ。


 ズガァァァァン!!


 床が。


 爆ぜた。


「…………っ!」


 衝撃で《凪》が揺れる。


 砕けた床材が機体へぶつかる。


 直撃していない。


 なのに。


 それだけで姿勢を崩しかけた。


 そして。


 会場全体から。


『『『いーち!!』』』


「…………」


 アキトが固まった。


「何?」


 ヒカルが笑っている。


『いいねぇ!』


「いや、何が!?」


『一発目!』


「それは分かってます!」


『じゃあ次いこうぜ!』


「待って!」


 アキトが叫ぶ。


「なんで数えてるんです?」


『ん?』


 ヒカルが首を傾げた。


『ああ、知らないんだ』


「何を?」


 ブースターハンマーを担ぎ直す。


『こいつの攻撃用最大出力――』


 ハンマーを軽く叩く。


『十発で終わり』


「…………」


 アキトがハンマーを見る。


「十発?」


『そ。あの出力で振り回すと蓄電体がもたないんだよね』


「…………」


 十発。


 アキトの頭が。


 即座に回り始めた。


 あと九発。


 つまり。


「十発避ければ……」


『そうそう!』


 ヒカルが笑った。


『みんなそう思う!』


「…………」


『じゃ、二発目!』


「話終わり!?」


『終わり!』


 ブースター点火。


 超重量ハンマーが跳ね上がる。


 《トール》が浮く。


「なら!」


 アキトが右腕を向けた。


「射出!」


 アンカーが壁へ突き刺さる。


 巻き取り。


 《凪》が横へ引かれる。


 空中でヒカルが身体を傾ける。


 ハンマーの軌道が追ってくる。


「そこまで曲げるのかよ!」


 さらに巻く。


 急加速。


 紙一重。


 ハンマーが通過した。


 ドゴォォォン!!


『『『にー!!』』』


「よし!」


 避けた。


 アキトはすぐに左腕を上げる。


 もう一本。


 別方向の壁へ。


 アンカーを打つ。


 これで。


 二方向。


 脚だけでは作れない移動経路。


『三発目ぇ!』


「来い!」


 ヒカルが振り上げる。


 アキトは右へ。


 ヒカルが軌道を変える。


 途中で左ワイヤーへ切り替える。


 《凪》が鋭角に折れた。


 巨大なハンマーが空を切る。


『『『さーん!!』』』


「いける」


 ヒカルの攻撃は。


 速い。


 重い。


 当たれば終わる。


 でも。


「曲がれる」


 アキトには。


 ワイヤーがある。


 ヒカルが機体重量で軌道を変えるなら。


 こっちは。


 二本のワイヤーで、それ以上に急激な方向転換をすればいい。


『四発目!』


 右。


 巻き取り。


 回避。


『『『よーん!!』』』


『五発目ぇ!』


 左。


 射出。


 巻き取り。


 跳ぶ。


 ハンマーが真下を通過した。


『『『ごー!!』』』


「五発」


 アキトが着地する。


 半分。


 一発も当たっていない。


 いける。


 十発。


 全部避ければ。


 あのハンマーから最大出力が消える。


 そうなれば――。


「俺の勝ち筋ができる」


『おお』


 ヒカルが楽しそうに声を上げた。


『やっぱ面白いな、お前』


「そりゃどうも!」


『じゃあさ』


 ブースターハンマーを構える。


『もうちょっと遊ぼうぜ!』


「遊んでるつもりないんですけど!」


『俺はある!』


「でしょうね!」


     ◆


『六発目!』


 ヒカルがハンマーを振り上げる。


「右!」


 アキトはワイヤーを巻く。


 《凪》が加速。


 右へ。


 いつもの回避軌道。


 だが。


「……?」


 ハンマーが。


 追ってこない。


 巨大なハンマーヘッドが向かった先は。


 《凪》ではなく――。


「そこ!?」


 ワイヤーの固定点。


 ズガァァァン!!


 壁ごと。


 アンカーが吹き飛んだ。


『『『ろーく!!』』』


「うおっ!?」


 突然張力を失ったワイヤー。


 《凪》の姿勢が崩れる。


 アキトは身体を捻り、どうにか脚から着地した。


「何してんですか!」


『何って』


 ヒカルがハンマーを担ぐ。


『邪魔だったから』


「…………」


『壊した』


「そこ壊す!?」


『ダメ?』


「ダメじゃないけど!」


 アキトが砕けた壁を見る。


 前の試合。


 相手は。


 ワイヤーを避けた。


 だから。


 進路を限定できた。


 でも。


 ヒカルは違う。


 避けない。


 邪魔なら。


 壊す。


「…………」


 その瞬間。


 アキトの中で。


 何かが切り替わった。


     ◆


『七発目!』


 ブースター点火。


「左!」


 残ったワイヤーを床へ射出。


 アンカー固定。


 巻き取る。


 《凪》が斜め前方へ加速する。


 その先へ。


 ヒカルのハンマーが向く。


「読まれた!」


 違う。


 狙っているのは。


 また。


 アキトじゃない。


 ズガァァァン!!


 床が砕けた。


『『『なーな!!』』』


「くっ!」


 固定点を失ったワイヤーが跳ねる。


 アキトが走る。


 ヒカルは追わない。


 笑っている。


 まるで。


 最初から分かっていたみたいに。


「こいつ……」


 アキトは気づく。


 ワイヤー。


 壁。


 床。


 アンカー。


 自分が作ろうとしていた。


 戦場。


 その全部を。


「戦場ごと……殴ってやがる」


     ◆


『八発目いくぞぉぉ!!』


『『『うおおおおお!!』』』


 観客席が沸く。


 ヒカルが笑う。


 みんな笑っている。


 まるで。


 祭りだ。


 でも。


 アキトには、もう笑えない。


「考えろ」


 残り三発。


 十発使わせればいい。


 その条件は変わっていない。


 なら。


 まだ勝てる。


 ワイヤーを張るだけじゃダメだ。


 固定点を壊される。


 なら。


「張る前に使う」


 左腕を上げる。


 射出。


 ヒカルの後方。


 壁へ突き刺す。


『お?』


「巻き取り!」


 《凪》が一気に前へ出た。


 ワイヤーを戦場に残さない。


 移動だけに使って。


 すぐ回収。


 ヒカルとの距離が一気に縮まる。


「でかい武器なら!」


 さらに踏み込む。


 懐へ。


「振る前に入ればいい!」


 刀を抜く。


 《凪》が《トール》へ肉薄する。


「もらった!」


 振る。


 その瞬間。


 ヒカルが。


 笑った。


『いいね』


 《トール》がブースターハンマーを床へ滑らせる。


「え?」


 そして。


 乗った。


「また!?」


 点火。


 ドンッ!!


 ハンマーごと《トール》が前へ飛び出す。


「近距離でもそれ使うの!?」


『使えるなら使うっしょ!』


 機体を傾ける。


 《トール》の重量が移る。


 巨大なハンマーが。


 《凪》の側面へ回り込んでくる。


「くっ!」


 アキトがワイヤーを強制巻き取り。


 身体が後方へ引かれる。


 直後。


 轟音。


『『『はーち!!』』』


「っ……!」


 避けた。


 紙一重。


 だが。


 着地した《凪》の脚が震える。


 あと。


 二発。


 それなのに。


 アキトの呼吸は荒い。


 対するヒカルは。


 まだ。


 笑っていた。


     ◆


「……なんで」


『ん?』


「なんで数えるんです?」


 ヒカルが首を傾げる。


「十発しか使えないって、相手に教えてるようなもんじゃないですか」


『うん』


「だったら普通、隠すでしょ」


『なんで?』


「不利になるから!」


『そうかなぁ』


「だって俺は!」


 アキトが叫ぶ。


「十発避ければいい!」


『ああ』


 ヒカルが笑った。


『それね』


 ブースターハンマーを持ち上げる。


『みんな勘違いするんだよ』


「…………」


『十発しか撃てないって』


 残り。


 二回。


『違うんだよね』


 ヒカルが構える。


 笑っている。


 ずっと。


 同じ笑顔。


 なのに。


 アキトには。


 初めて。


 それが怖く見えた。


『十発――』


 ハンマーのブースターが唸る。


『あれば十分なんだよ』


「…………っ」


『だって』


 ヒカルが観客席へ片腕を上げた。


『俺、十発で絶対当てるから』


 一瞬の静寂。


 そして。


 歓声が爆発した。


『それにさ!』


 ヒカルが笑う。


『一人で数えるより――』


 観客席を見る。


『みんなで数えた方が楽しいじゃん!』


『『『うおおおおおお!!』』』


『あと二発!』


 ヒカルが叫ぶ。


『もっと盛り上がっていこうぜぇぇぇ!!』


 会場全体が揺れる。


『『『うおおおおおおおお!!』』』


 アキトは刀を握り直した。


 残り。


 二発。


 少し前まで。


 あと二発しかない。


 そう思っていた。


 今は。


 違う。


「……二発もある」


 ヒカルが笑う。


『九発目』


 ブースターが。


 点火した。

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