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『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第一章「自分の戦い方」

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第13話「勝ち筋」

負けた。


 次も。


 負けた。


 その次も――負けた。


     ◆


「右!」


 ワイヤーを射出。


 固定。


 巻き取り。


 《凪》が右へ引かれる。


 相手の斬撃を回避。


「左!」


 もう一本。


 アンカーが壁へ食い込む。


 巻き取り。


 方向転換。


 以前なら、ここで姿勢を崩していた。


 今は違う。


 引かれる方向へ先に重心を移す。


 《凪》の脚が床を蹴った。


「いける!」


 加速。


 刀を振る。


『甘い!』


「なっ――」


 読まれた。


 相手が一歩下がる。


 刀が空を切る。


 直後。


 伸びたワイヤーを踏まれた。


「あ」


 動けない。


 返しの一撃。


 角が飛んだ。


     ◆


『決着!』


「…………」


 アキトは宙を舞う角を見送った。


「なるほど」


『何がなるほどだ!』


 通信から鉄三の怒声が飛んでくる。


「ワイヤー踏まれると動けない」


『見りゃ分かる!』


「次から気をつけます」


『毎回それ言ってんだろ!』


     ◆


 次の試合。


 射出。


 固定。


 巻き取り。


 今度はワイヤーを相手の足元へ通さない。


「よし!」


 右へ。


 相手が追う。


 左へ切り返す。


 相手が止まる。


「そこ!」


 踏み込む。


 刀を振る。


 ――届かない。


「え?」


 距離が足りない。


 返しの一撃。


「うわっ!」


 回避。


 右ワイヤー。


 射出。


 外れた。


「あ」


 斬撃。


 角が飛んだ。


     ◆


 また次。


「今度こそ!」


 右。


 左。


 右。


 左右の巻き取りを切り替える。


 《凪》がフィールドを駆ける。


『速い……!』


「見えてきた!」


 相手の背後。


 刀を構える。


『右リール、温度上昇』


「今かよ!」


 出力低下。


 速度が落ちる。


『そこだ!』


「あっ」


 角が飛んだ。


     ◆


 負けた。


 また負けた。


 それでも。


 最初とは違った。


 射出する場所を探す時間が短くなった。


 アンカーを打ち込める角度が分かってきた。


 巻き取り出力を、毎回最大にしなくなった。


 引かれる前に姿勢を作れるようになった。


 二本のワイヤーを使いながら、相手を見る余裕も少しずつ戻ってきた。


 負けるたび。


 一つ失敗して。


 一つ覚えた。


     ◆


「鉄三さん」


「今度は何だ」


「巻き取り、最初から全開にしなくていいかもしれない」


「……やっと気づいたか」


「知ってたんですか!?」


「機械なんだから当たり前だ!」


 鉄三は《凪》の右腕を開き、リールを確認していた。


 無精髭を指で掻きながら、口には火のついていない煙草をくわえている。


「お前、今までゼロか百だったろ」


「速い方が強いかなって」


「馬鹿」


「否定できない」


「必要な時だけ出せ。三十でいい時は三十。六十なら六十。百が必要な時だけ百だ」


「そうすれば熱も抑えられる」


「ワイヤーへの負担も減る」


「なるほど」


 鉄三がワイヤーを指で弾いた。


「あと、お前」


「はい」


「最近、巻き取る前に脚使ってるだろ」


 アキトが鉄三を見る。


「分かります?」


「誰が整備してると思ってんだ」


 鉄三は《凪》の脚を軽く叩いた。


「前より脚部の負荷が増えてる。その代わり、肩の負荷は減った」


「先に自分で動いてから巻いた方が自然なんですよ」


「そりゃそうだ。全部ワイヤーにやらせる必要はねえ」


「……全部ワイヤーにやらせる必要はない」


「そうだ」


 鉄三がアキトを見る。


「道具に使われんな」


「…………」


「お前が使え」


 アキトは《凪》を見上げた。


 右腕に一本。


 左腕に一本。


「俺が使う……」


 何かが。


 少しだけ。


 つながった。


     ◆


 そして。


 十五戦目。


 戦績――五勝九敗。


     ◆


『試合開始!』


 相手が踏み込んでくる。


 アキトは動かない。


『どうした!?』


「…………」


 見る。


 相手。


 フィールド。


 壁。


 床。


 距離。


 今までなら。


 最初からワイヤーを撃っていた。


 新しい武器を使いたかったから。


 でも。


「違う」


 ワイヤーを使うことが目的じゃない。


 勝つために。


 必要な時だけ使う。


     ◆


 相手が斬り込む。


 アキトは脚でかわした。


 追撃。


 刀で受ける。


 ギィン!


『ワイヤー使わないのか!?』


「まだ」


『何?』


「まだ、いらない」


 刀を弾く。


 相手が一歩下がる。


 追わない。


 見る。


 一度。


 二度。


 三度。


 相手は距離を取る時、わずかに右へ流れる。


「……やっぱり」


 アキトが左腕を向けた。


「射出」


 バシュッ!


 アンカーが壁へ突き刺さる。


『そこ!?』


 相手から遠い。


 攻撃には使えない。


 それでいい。


 アキトはワイヤーを回収しなかった。


 そのまま。


 残す。


『……?』


 再び斬り合う。


 ギィン!


 ギンッ!


 アキトが押される。


 後退。


 相手が追う。


 そして。


 また右へ流れた。


「やっぱり、そっちだ」


 残しておいたワイヤー。


 相手がその近くへ入る。


「巻き取り」


 ギュン!


 《凪》が突然、横へ引かれた。


『なっ!?』


 相手が振り向く。


 その時には、アキトはもう走っている。


 脚で加速。


 右腕を向ける。


「射出!」


 反対側の壁へ。


 アンカー固定。


 でも。


 まだ巻かない。


 相手がアキトを追う。


 右へ。


 左へ。


 また右へ。


「…………」


 アキトの視線が。


 相手から。


 少しずつフィールド全体へ広がっていく。


     ◆


 右ワイヤー。


 残っている。


 左ワイヤー。


 残っている。


 二本の線。


 ただの移動手段。


 だったはずなのに。


『ちっ……邪魔だな!』


 相手が一瞬、足を止めた。


「え?」


 アキトも気づく。


 床を横切るワイヤー。


 相手は、それを避けた。


 たった半歩。


 でも。


 進む方向が変わった。


「…………」


 今。


 俺。


 こいつを動かした?


 アキトの目が見開かれる。


     ◆


『行くぞ!』


 相手が迫る。


 アキトは左へ。


 相手が追う。


 なら。


 右ワイヤーを少しだけ巻く。


 《凪》の軌道が変わる。


 相手も追って軌道を変える。


 その先。


 左ワイヤー。


『ちっ!』


 相手が避ける。


 まただ。


「……そうか」


 アキトの口元が上がる。


「俺が動くだけじゃない」


 二本のワイヤーを見る。


「相手も動かせるんだ」


     ◆


 そこから。


 アキトの戦い方が変わった。


 無理に速くしない。


 最大出力も使わない。


 脚で走る。


 必要な時だけワイヤーで引く。


 刀で受ける。


 そして。


 使ったワイヤーを、すぐには回収しない。


 戦場に残す。


『くそっ、邪魔だ!』


 相手が避ける。


 一歩。


 アキトが望んだ方向へ。


「そこ」


 踏み込む。


『っ!?』


 相手が逃げる。


 でも。


 そっちは。


「もう一本ある」


『なっ――』


 相手が止まる。


 右。


 ワイヤー。


 左。


 《凪》。


 後ろ。


 壁。


 残ったのは。


 前。


 相手が飛び出す。


「そこしかないよな」


 アキトは。


 もう動いていた。


 脚で踏み込む。


 同時に。


「巻き取り!」


 ギュン!


 脚力。


 ワイヤー。


 二つの加速が重なる。


 相手が目を見開いた。


『待っ――』


 一閃。


 ガンッ!


 角が宙を舞った。


     ◆


『決着――!』


 一瞬遅れて。


 歓声が爆発した。


『勝者――アキト!』


「…………」


 アキトは動かなかった。


 勝った。


 六勝九敗。


 でも。


 それよりも。


 今。


 何をした?


 相手を見た。


 地形を見た。


 ワイヤーを残した。


 自分が動いた。


 相手も動いた。


 逃げる場所を減らした。


 そして最後に。


 相手が来る場所が分かった。


「…………」


 これまで。


 ワイヤーは、自分を動かすためのものだと思っていた。


 違う。


 これは。


「戦う場所そのものを……変えられる」


 アキトはフィールドを見る。


 二本のワイヤーが残っていた。


 たった二本。


 それなのに、相手の動きを変えた。


「…………」


 もっと使える。


 もっと、できることがある。


 今度は負けたからじゃない。


 勝ったから。


 次を試したくなった。


 アキトは二本のワイヤーを見て、笑った。


「見つけた」


 まだ名前すらない。


 完成には程遠い。


 それでも。


 初めて。


 アキトは、自分だけの勝ち筋を見つけた。


     ◆


 その頃。


 観客席の上段で、一人の男が立ち上がった。


 試合が終わり、観客たちが出口へ向かう中。


 男だけはフィールドを見ていた。


 正確には。


 二本のワイヤーを回収している《凪》を。


「へえ……」


 男の口元が、楽しそうに吊り上がる。


 強い。


 そんな感想ではなかった。


 速いわけでもない。


 技術が飛び抜けているわけでもない。


 戦績を見れば、六勝九敗。


 負け越している。


 それでも。


 最後の一撃。


 相手は自分から逃げ道を選んだつもりだった。


 だが実際には。


 選ばされていた。


「なんか――」


 男が笑う。


「面白い戦い方する奴、現れたな」


 それだけ言って。


 男は人混みの中へ消えていった。


 アキトはまだ知らない。


 自分が見つけたばかりの戦い方を。


 見ていた者がいたことを。

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