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『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第一章「自分の戦い方」

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第12話「使えない武器」

七戦目。


 試合開始前から、アキトは笑っていた。


『……なんか今日、機嫌いいな』


「分かります?」


『分かる。気持ち悪いくらい』


「ひどくない?」


 対戦相手――カイが刀を肩に担ぐ。


 戦績は三勝三敗。


 実力は、今のアキトとそう離れていない。


 ただし。


 今日の《凪》には、今までなかったものがある。


 右腕に一本。


 左腕に一本。


 二本のワイヤー。


『それか?』


「ん?」


『腕についてるやつ。新装備だろ』


「ああ」


 アキトは嬉しそうに右腕を上げた。


「ワイヤー」


『…………』


「…………」


『何に使うんだ?』


「またそれ!?」


『何が!?』


「みんな同じこと言うなと思って」


『いや、だってワイヤーだろ?』


「そうだけど」


『刀に勝てんの?』


「分かんない」


『分かんねえのかよ!』


 観客席から笑いが起きる。


 アキトは気にしなかった。


 分からない。


 だから今日、確かめる。


     ◆


『試合――開始!』


 カイが踏み込んだ。


 右から斬撃。


 見える。


 アキトは後ろへかわす。


 二撃目。


 今度は左へ。


 カイが追ってくる。


 いつもなら、ここから刀で応戦する。


 でも。


 今日は違う。


「試してみるか」


 アキトが右腕を向けた。


「射出!」


 バシュッ!


『何っ!?』


 ワイヤーがカイの横を通過する。


 狙ったのは相手じゃない。


 その後ろ。


 壁だ。


 アンカーが突き刺さる。


『固定確認』


「巻き取り!」


 ギュィィン!


 《凪》の身体が斜め後方へ引かれた。


『なっ――』


 カイの刀が空を切る。


「よし!」


 後ろでもない。


 横でもない。


 その中間。


 脚だけでは瞬時に作りにくい角度へ、《凪》が滑るように移動する。


 ワイヤー解除。


 そのまま踏み込む。


 アキトの刀が走った。


『くっ!』


 ギィン!


 カイが受ける。


 弾かれた。


 それでも。


 アキトは笑った。


「もう一回!」


 今度は左腕。


 射出。


 床へアンカーが食い込む。


「巻き取り!」


 《凪》が左前方へ引かれた。


『速っ――』


 一気に懐へ。


「もらった!」


 斬撃。


 カイがギリギリで身を引く。


 ガッ!


 刃先が胸部装甲をかすめた。


『うおっ!』


「惜しい!」


 でも。


 届いた。


 今までなら存在しなかった攻撃経路。


 走る。


 踏み込む。


 かわす。


 それだけじゃない。


 壁へつなぐ。


 床へつなぐ。


 そこから自分を引っ張る。


「これだ……!」


 アスレチックで感じたものと同じ。


 いや。


 それ以上だ。


 《凪》の動ける方向そのものが増えている。


「やっぱり使える!」


 アキトの声が弾んだ。


     ◆


『これは何だ!? アキト選手、両腕から射出したワイヤーをフィールドへ固定! その巻き取りを利用して機体を移動させています!』


 観客席がざわめき始める。


 右。


 射出。


 固定。


 巻き取り。


 方向転換。


 左。


 射出。


 固定。


 巻き取り。


 接近。


『ちょこまかと!』


 カイが刀を振る。


 アキトが避ける。


「そこ!」


 右ワイヤー。


 射出。


 ――外れた。


「あ」


 アンカーが壁をかすめる。


『固定失敗』


「もう一回!」


 狙い直す。


 その一瞬。


 カイが来た。


「待っ――」


 ギィン!


 慌てて刀で受ける。


「重っ!」


『ワイヤーばっか見てんじゃねえ!』


「分かってる!」


 刀を弾く。


 距離を取る。


 右腕を上げる。


 どこへ撃つ?


 壁。


 いや、角度が浅い。


 床。


 カイが邪魔だ。


 後ろなら――。


「くそっ!」


 考えている間にもカイは来る。


 今までなら。


 相手だけを見ていればよかった。


 足。


 肩。


 腰。


 視線。


 刀。


 予備動作。


 そこから次を予測する。


 でも今は違う。


 相手を見ながら。


 固定場所を探す。


 射出角度を決める。


 巻き取り出力を考える。


 自分の姿勢を作る。


 左右のワイヤーの状態も把握する。


「考えること……多っ!」


『知らねえよ!』


 カイの刀が迫る。


     ◆


「右!」


 射出。


 固定。


 巻き取り。


 《凪》が横へ引かれる。


 カイが追う。


「左!」


 もう一本。


 固定。


「右を解除して――左!」


 巻き取り。


「うおっ!?」


 予想以上に身体が振られた。


 重心が外へ逃げる。


 脚が床を滑った。


「まだ!」


 姿勢を戻す。


 右腕を向ける。


「射出!」


 バシュッ!


『させるか!』


「え?」


 カイが刀を振った。


 ギンッ!


 射出直後のワイヤーが弾かれる。


「ワイヤー狙った!?」


『何回見せるんだよ!』


「……そりゃそうか」


 アキトの口元が上がった。


「相手も考えるよな!」


『楽しそうだなお前!』


「楽しい!」


『試合中だぞ!』


「だからだよ!」


 次は見えにくい角度。


 左。


 射出。


 固定。


 巻き取り。


 《凪》が引かれる。


『また――』


 途中で止める。


 そこから自分の脚で踏み込んだ。


『!?』


「ワイヤーだけじゃない!」


 カイの反応が一瞬遅れる。


 斬撃。


 ギィン!


 受けられた。


 なら。


「右!」


 鍔迫り合いのままワイヤーを射出。


 壁へ固定。


「巻き取り!」


 ギュィィン!


『何だそれ!?』


 二機の位置が横へずれる。


 カイの体勢が崩れた。


「俺も今思いついた!」


『今!?』


「ここ!」


 アキトが刀を返す。


 角。


 あと少し。


『くっ!』


 カイが首を振った。


 ガッ!


 刃先が角の根元をかすめる。


「ああっ!」


『危ねえ!』


 離れるカイ。


 アキトは追う。


「今のいけた!」


 右ワイヤー。


 左ワイヤー。


 脚。


 刀。


 相手の動き。


 全部使えば。


「勝てる!」


     ◆


 ――その瞬間だった。


『右巻き取り機構、温度上昇』


「え?」


 警告表示。


 鉄三に言われた言葉が頭をよぎる。


 連続で高出力を使えば、熱を持つ。


「まだいける!」


 右ワイヤーを巻き取る。


『警告。出力制限』


「今!?」


 遅い。


 想定していた位置まで《凪》が届かない。


「まず――」


 カイが来た。


『もらった!』


「左!」


 反射的に左ワイヤーを巻く。


 その瞬間。


「あ」


 右を切っていない。


 右前方。


 左後方。


 二方向から《凪》が引かれる。


「しまっ――」


 機体がねじれた。


 重心が完全に外れる。


 足が浮く。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 《凪》が床へ叩きつけられた。


 起きろ。


 アキトが身体を起こそうとする。


 《凪》も立ち上がろうとする。


 だが。


 右腕から伸びたワイヤーが、まだ張っている。


「切断!」


 遅かった。


 目の前。


 カイ。


『終わりだ!』


「くそっ!」


 一閃。


 ガンッ!


 《凪》の角が宙を舞った。


     ◆


『決着――! 勝者、カイ!』


 歓声が響く。


「…………」


 負けた。


 ワイヤーを付けて。


 新しい動きができて。


 相手の角にも届きかけた。


 それでも。


 負けた。


『おい』


 カイから通信が入る。


「?」


『それ』


「ワイヤー?」


『ああ』


 少し間があった。


『めちゃくちゃ面倒だった』


「…………」


『次やったら、もっと面倒になってそうだな』


 通信が切れる。


 アキトは二本のワイヤーを見る。


 悔しい。


 当然だ。


 でも。


 ソウジに負けた時とは違う。


 あの時は。


 何をすればいいのか分からなかった。


 今日は違う。


 失敗した理由が分かる。


 射出が遅い。


 固定場所を探すのに時間がかかる。


 巻き取り出力が雑。


 姿勢制御が追いつかない。


 二本同時に使うと混乱する。


 熱管理も忘れた。


 そして何より。


 ワイヤーに夢中になりすぎて、相手を見る時間が減っていた。


「…………」


 アキトの口元が。


 ゆっくり上がった。


「直すところ、いっぱいあるじゃん」


 右腕に一本。


 左腕に一本。


 たった二本。


 なのに。


 まだ全然、使いこなせない。


 だったら。


 使えるようになればいい。


「次だ」


 アキトは顔を上げた。


 負けた。


 それなのに。


 昨日よりずっと。


 次の勝ち方が見えていた。

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