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『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第一章「自分の戦い方」

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第11話「誰にも分からない武器」

「ワイヤー付けられます?」


「…………は?」


 翌朝。


 アキトは《凪》の整備区画にいた。


「だから、ワイヤーです」


「聞こえてる」


「《凪》の両腕に一本ずつ」


「それも聞こえてる」


「じゃあ――」


「何言ってるか分からねえんだよ」


「なんで!?」


 メカニックは持っていた工具を置いた。


「昨日まで刀一本で戦ってた奴が、朝っぱらから飛び込んできて『両腕からワイヤー出したいです』だぞ」


「はい」


「何に使うんだ?」


「移動です!」


「…………」


「移動」


「二回言わなくていい」


 アキトは端末を取り出した。


「昨日、アスレチック行ったんですよ」


「帰れ」


「まだ何も説明してない!」


「二十一にもなってアスレチックで遊んできた報告を、なんで俺が聞かなきゃならん」


「そこじゃないんですって!」


 アキトは端末に簡単な図を描く。


 《凪》。


 その腕から伸びる一本の線。


「ロープにつかまって移動する遊具があったんです」


「あるな」


「やってみたら、走ってないのに身体が動いた」


「そりゃそうだろ」


「これです!」


「何がだよ!」


「だから!」


 アキトは《凪》を指差した。


「《凪》も走らなくていいんですよ!」


「…………」


「腕からワイヤーを撃つ。壁とか地面に固定する。巻き取る。そうしたら――」


 アキトは両手を大きく動かす。


「ギュン!」


「…………」


「ギュンって!」


「擬音で説明すんな!」


 整備区画に怒声が響いた。


     ◆


「まあ……」


 メカニックは腕を組み、《凪》を見上げた。


「付けるだけならできる」


「本当ですか!?」


「近い近い!」


 アキトが詰め寄る。


「両腕いけます?」


「いける」


「巻き取りも?」


「できる」


「左右別々に?」


「できる」


「最高じゃないですか!」


「だから待て!」


 メカニックがアキトの額を押し返した。


「付けられるってだけだ。強いなんて一言も言ってねえ」


「でも、できるんですよね?」


「できる」


「じゃあお願いします!」


「話を聞け!」


 アキトがようやく止まる。


「何ですか?」


「ワイヤーは万能じゃない」


 メカニックが端末を操作した。


 《凪》の簡易図。


 右腕から一本の線を伸ばす。


「まず射出方向」


「はい」


「基本的に腕を向けた先へしか撃てない。刀で斬り合いながら好きな方向へ好き放題撃てると思うな」


「なるほど」


「次。アンカー」


 線の先に固定具が表示される。


「撃てば必ず刺さるわけじゃない。角度が浅ければ弾かれる。表面が脆ければ引っ張った瞬間に抜ける。硬すぎても食い込まない」


「じゃあ固定する場所を選ぶ必要がある」


「そういうことだ」


 アキトが頷く。


「次。長さ」


「長い方がいいですよね?」


「そう思うだろ?」


「違うんですか?」


「長くすれば、それだけワイヤー自体が重くなる。収納するリールもでかくなる」


「あ……」


「巻き取り機構も必要だ。腕に積める重量には限界がある」


「じゃあ、とりあえず使える範囲で」


「最初はそうしろ」


 メカニックが次の図を出す。


「それから一番勘違いしそうなのが巻き取りだ」


「?」


「お前、昨日ロープで自分の身体を動かしたんだろ?」


「はい」


「お前は何キロだ?」


「…………」


 アキトが《凪》を見る。


 巨大な機体。


「あ」


「そういうことだ」


 メカニックが《凪》の脚を軽く叩いた。


「こいつは人間とは質量が違う」


「強いモーターを積めば――」


「重くなる」


「ですよね」


「しかも、引っ張られるのは機体全体だ」


 右腕から伸びたワイヤー。


 そこへ矢印が表示される。


「例えば右腕のワイヤーを固定して、最大出力で巻き取る」


「はい」


「最初に負荷を受けるのは?」


「右腕」


「そこから肩、胴体、腰、脚へ力が伝わる」


「…………」


「姿勢を作らずに巻いたら、お前が思ってるような格好いい動きにはならん」


「どうなります?」


「たぶん転ぶ」


「地味」


「下手すりゃ肩が壊れる」


「地味じゃなかった」


「二本同時に巻けばもっと面倒だ。左右から違う方向へ引っ張られる」


「途中で片方だけ止めたら?」


「その瞬間に力の向きが変わる」


「巻き取りながら刀を振ったら?」


「知らん」


「え?」


「そんな戦い方する奴いねえよ」


「…………」


 アキトの口元が上がった。


「おい」


「はい?」


「なんで今笑った?」


「いや」


 アキトは《凪》を見上げる。


「誰もやってないんだなって」


「そこに可能性を感じるな」


「だって面白いじゃないですか」


「俺には嫌な予感しかしねえよ」


     ◆


「あと」


 メカニックが続ける。


「ワイヤーそのものにも限界がある」


「切れるってことですか?」


「当たり前だ」


 端末に一本のワイヤーが映る。


「張った状態で機体を引けば、こいつが《凪》の質量を受ける」


「はい」


「急激に方向を変えれば瞬間的な負荷はもっと大きくなる」


「はい」


「巻き取りながら機体が逆方向へ動けば、さらに増える」


「…………はい」


「何度も繰り返せば?」


 アキトは少し考えた。


「傷む」


「そういうことだ」


 メカニックが頷く。


「見た目に問題がなくても、内部では少しずつ疲労が溜まる。擦れれば摩耗する。曲げれば癖もつく」


「じゃあ、ずっと同じワイヤーを使うのは無理?」


「無理」


「どれくらい持ちます?」


「知らん」


「またそれ?」


「使い方が存在してねえんだからデータもねえんだよ!」


「ああ……」


「普通に引っ張るだけなのか、急制動するのか、機体を振り回すのか。それで全然変わる」


「機体を振り回す……」


「そこだけ拾うな」


「いや、ちょっと面白そうだなって」


「やめろ」


「まだ何もしてないですって」


「その顔で言われても信用できん」


 メカニックはため息をついた。


「とにかく覚えとけ。ワイヤーは消耗品だ」


「消耗品」


「使えば傷む。無茶すれば切れる」


「はい」


「それと巻き取り機構にも熱限界がある。連続で高出力を使えば止まる」


「なるほど……」


 射出。


 固定。


 長さ。


 重量。


 巻き取り出力。


 姿勢。


 重心。


 熱。


 ワイヤーそのものの耐久。


 アキトは指を折りながら数えた。


「……制限多くないですか?」


「だから何に使うんだって聞いてんだよ!」


「それをこれから考えるんです!」


「順番が逆なんだよ!」


     ◆


 数日後。


「おお……!」


 整備区画へ入ったアキトの顔が輝いた。


 《凪》の両腕。


 前腕部に、小型の装置が追加されている。


 右に一基。


 左に一基。


 それだけだった。


「…………地味」


「外すぞ」


「嘘です! 格好いい!」


「調子いいな、お前」


 アキトは《凪》へ近づいた。


 右腕。


 一本。


 左腕。


 一本。


「先端はアンカー。左右独立で射出、巻き取り可能」


「はい」


「緊急時はワイヤーを切断できる」


「切っちゃうんですか?」


「引っ掛かったまま動けなくなるよりマシだ」


「なるほど」


「それと」


 メカニックがアキトを見る。


「最初から無茶すんな」


「しませんよ」


「信用できん」


「なんでですか」


「四勝一敗で四強に挑んだ」


「…………」


「反論は?」


「ないです」


「よし」


 メカニックは《凪》の腕を叩く。


「まずは射出と巻き取り。どのくらいの角度ならアンカーが噛むか。どの出力なら姿勢を保てるか。それを身体で覚えろ」


「分かりました」


「いきなり二本同時に使うなよ」


「はい」


「最高出力で巻くな」


「はい」


「変なこと思いついても、まず俺に聞け」


「はい」


「返事だけはいいんだよな……」


     ◆


 訓練区画。


 アキトが右腕を上げる。


 《凪》も同じように右腕を上げた。


「まず……壁」


 狙う。


 射出。


 バシュッ!


 一本のワイヤーが空間を走る。


 アンカーが壁へ突き刺さった。


「おおっ!」


『固定確認』


 アキトの顔が緩む。


「本当に出た……!」


『出るように作ったんだよ!』


「分かってますって!」


 ワイヤーを見る。


 《凪》と壁をつなぐ。


 一本の線。


 昨日。


 アスレチックで見たものと同じ。


「じゃあ」


 ゆっくり。


「巻き取り」


 ギュィィン――。


 ワイヤーが縮む。


 右腕が引かれる。


 肩。


 胴体。


 腰。


 そして。


 《凪》全体が右へ動いた。


「……動いた」


 たった数歩分。


 速くもない。


 派手でもない。


 それでも。


 アキトは笑った。


「走ってない」


 もう一度。


 少しだけ出力を上げる。


 ギュィン!


「おっ!」


 さっきより速い。


 さらに。


「もうちょっと――」


『上げすぎんなよ』


「分かってます!」


 出力を上げる。


 ギュィィン!


「うおっ!」


 身体が右へ持っていかれる。


 アキトが反射的に踏ん張る。


 《凪》も脚を開く。


「なるほど……」


 腕だけじゃない。


 引かれる方向に合わせて。


 身体全部で姿勢を作る。


「これなら――」


 アキトが左腕を見る。


「もう一本も」


『おい』


「ちょっとだけ!」


『さっき何て言った!?』


 左腕。


 射出。


 バシュッ!


 反対側の壁へ。


 固定。


「右と左……」


 二本のワイヤー。


 《凪》が二つの壁につながる。


「これで右を巻いて――」


 右。


 ギュィン!


 身体が動く。


「ここで左!」


 左を巻く。


「うおっ!?」


 引かれる方向が一気に変わった。


 重心が遅れる。


「待っ――」


 ドンッ!


 《凪》が肩から床へ転がった。


「痛ってぇ……!」


『だから言っただろ!』


「思ったより難しい!」


『それも言った!』


 アキトは起き上がる。


「でも……」


 右を見る。


 ワイヤー。


 左を見る。


 もう一本。


 さっき。


 一瞬だけ。


 右へ引かれていた身体が。


 左の巻き取りによって。


 自分の脚では作れない角度へ動いた。


「…………」


 もう一回。


『聞いてんのか!?』


「もう一回やります!」


『少しは反省しろ!』


「反省してます!」


『絶対してねえ!』


 アキトは笑っていた。


     ◆


 刀ではない。


 銃でもない。


 盾でもない。


 相手の角を切ることさえできない。


 しかも。


 射出する場所を選ぶ。


 外れる。


 抜ける。


 巻き取りにも限界がある。


 姿勢を間違えれば転ぶ。


 使い続ければ熱を持つ。


 ワイヤーそのものも傷み、いつか切れる。


 不便なものだった。


 こんなもの。


 何に使うんだ。


 メカニックがそう言った意味も。


 少し分かった。


 それでも。


「…………」


 アキトは二本のワイヤーを見る。


 右に一本。


 左に一本。


 他の誰かが見れば。


 ただの補助装備かもしれない。


 でも。


 さっき。


 《凪》は確かに。


 今までにない動きをした。


「もう一回」


 アキトが構える。


 今はまだ。


 まともに扱うことさえできない。


 この二本で。


 何ができるのかも分からない。


 だけど。


 だからこそ。


 試したい。


 失敗して。


 考えて。


 また試す。


 そうやって。


 誰にも価値の分からない二本の線を。


 自分の強さに変えていく。


「行くぞ、《凪》」


 右腕を上げる。


「射出!」


 バシュッ!


 一本目のワイヤーが。


 アキトの知らない戦い方へ向かって伸びていった。

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