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『負けず嫌いを極めたらいつの間にか世界を救ってた件 ―俺と29人の仲間の物語―』  作者: まろじろう
第一章「自分の戦い方」

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第10話「走らなくていい」

負けた。


 それだけなら、初めてじゃない。


 デビュー戦でも負けた。


 テツにも負けた。


 でも。


 今回は、違った。


     ◆


「…………」


 アキトは自宅で、ソウジ戦の映像を見ていた。


 一撃目。


 避ける。


 スパイク。


 方向転換。


 二撃目。


 また避ける。


 スパイク。


 三撃目。


 四撃目。


 五撃目。


 逃げるたびに《神突》は速くなる。


 そして最後には、逃げ場そのものを失った。


 映像を止める。


「…………」


 戻す。


 もう一度。


 一撃目。


 二撃目。


 三撃目。


「ここで右じゃなくて……」


 巻き戻す。


「いや」


 左。


 駄目だ。


 その先で追いつかれる。


「だったら前に……」


 駄目。


 長刀の間合いに入る。


「もっと早く動けば……」


 それも試した。


 早く動けば、ソウジはその方向へ軌道を変える。


 しかも。


 次はさらに速くなる。


「…………」


 映像を止めた。


 分からない。


 何度見ても。


 答えが出ない。


 アキトは椅子の背にもたれた。


 天井を見る。


「……何が四勝一敗だよ」


 笑えてくる。


 勝率八割。


 三連勝。


 新人注目株。


 そんなもの。


 四強の前では、何の意味もなかった。


「全然じゃん……」


 自分は強くなったと思っていた。


 テツに勝った。


 その後も勝った。


 予測だけじゃなく、相手を見て戦えるようになった。


 プロでもやれる。


 そう思った。


 なのに。


 何をしてくるか分かっていたソウジに。


 何もできなかった。


「…………」


 端末を伏せた。


 今日はもう。


 見たくなかった。


     ◆


 翌日。


 呼び鈴が鳴った。


「…………」


 無視。


 もう一度。


 無視。


 さらに。


 連打。


「うるさい!」


 アキトが玄関を開ける。


「おはよう」


「何だよ」


 アンが立っていた。


 やたらと元気そうな顔で。


「行くよ」


「どこに」


「外」


「嫌だ」


「はい、決定」


「会話成立してないだろ」


「着替えて」


「嫌だって」


「じゃあそのまま行く?」


「どこにだよ!」


「着替えたら教える」


「なんでだよ!」


 三十分後。


 アキトはアンの隣を歩いていた。


「…………」


「いい天気だね」


「帰りたい」


「駄目」


「俺、試合の分析したいんだけど」


「昨日ずっとやってたでしょ」


「まだ分かってない」


「だから今日はやらない」


「は?」


 アンが振り返る。


「今日、《戦》のこと考えるの禁止」


「無理」


「禁止」


「無理だって」


「じゃあ罰金」


「誰に払うんだよ」


「私」


「絶対嫌だ」


 アンは笑う。


 アキトはため息をついた。


 負けた。


 それだけで。


 ここまで気持ちが沈むとは思わなかった。


 養成施設では負けなかった。


 プロになって初めて。


 負けるということを知った。


 しかも今回は。


 自分が強くなったと思った直後だった。


 だから余計に。


 腹が立つ。


     ◆


「着いた」


「…………」


 アキトは目の前を見た。


「アスレチック?」


「うん」


「俺たち何歳?」


「二十一」


「知ってるよ!」


 木々の間に作られた巨大なアスレチック。


 吊り橋。


 丸太。


 ネット。


 ロープ。


 子供たちが走り回っている。


「帰る」


「駄目」


「なんで二十一歳にもなってアスレチックやるんだよ」


「運動」


「普段してる」


「気分転換」


「家でできる」


「できてないから連れてきたの」


「…………」


 何も言い返せなかった。


「ほら」


 アンが先に歩き出す。


「行くよ」


「……はいはい」


 仕方なく。


 アキトも後を追った。


     ◆


「ちょ、待て!」


「遅い!」


「これ揺れすぎだろ!」


「アキト、へた!」


「うるさい!」


 吊り橋が大きく揺れる。


 アンはさっさと先へ進んでいく。


「なんでお前そんな速いんだよ!」


「子供の頃よく来たじゃん!」


「二十代と小学生を一緒にすんな!」


 次。


 ネット。


 丸太。


 壁。


「待って……」


 アキトが膝に手をつく。


「疲れた?」


「キジン動かす方が楽……」


「それ自分で動いてるからね」


「分かってるよ……」


 でも。


 少し。


 気分は軽くなっていた。


 ソウジ戦の映像を見ていた時より。


 ずっと。


「次、あれ」


「まだやるの?」


「来たんだから全部やる」


「元気だな……」


 アンが指差した先。


 高い足場から。


 一本の太いロープが斜めに伸びている。


 ロープにつかまり。


 反対側へ渡る遊具。


「うわ」


「何?」


「地味に怖いやつ」


「四強に挑んだ人が?」


「それとこれとは違うだろ」


「はい、先どうぞ」


「お前が行けよ」


「怖いの?」


「…………」


 アキトはロープを掴んだ。


「行けばいいんだろ」


「頑張れー」


「その言い方腹立つな」


 ロープを握る。


 足場の端。


 下を見る。


「結構高いな……」


「早くー」


「分かったよ!」


 アキトは地面を蹴った。


 身体が浮く。


「おっ――!」


 ロープに引かれ。


 一気に前へ。


 走っていない。


 足も動かしていない。


 ただ。


 ロープにつかまっているだけ。


 それなのに。


 身体は前へ進む。


 しかも。


 自分で走る時とは全く違う軌道。


 ロープを中心に。


 身体が弧を描く。


「うおおお――!」


 反対側。


 着地。


「おっと!」


 数歩よろける。


 止まった。


「…………」


 アキトは振り返った。


「どうだった?」


 アンが向こう側から叫ぶ。


「…………」


「アキト?」


 ロープを見る。


 斜めに伸びた一本の線。


 今。


 自分は。


 走っていない。


 なのに。


 移動した。


「…………」


 頭の中で。


 何かが引っかかった。


「もう一回」


「え?」


「もう一回やる!」


「急にどうしたの!?」


 アキトは走って戻った。


     ◆


 二回目。


 ロープを握る。


 飛ぶ。


 身体が引かれる。


「…………!」


 今度は。


 移動ではなく。


 自分の身体を見る。


 足じゃない。


 ロープ。


 ロープが。


 自分を動かしている。


 着地。


「もう一回!」


「ええ!?」


 三回目。


 今度は身体を少し横へ振ってみる。


 軌道が変わる。


「…………」


 着地。


「もう一回!」


「ちょっと待って!」


 アンが止めた。


「何?」


「何じゃないよ! さっきまで帰りたいって言ってたじゃん!」


「これ面白い」


「知ってるけど!」


「違う」


 アキトはロープを見る。


「そうじゃなくて……」


 頭の中。


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