2-03 ゲームな異世界学園へ転校しちゃった! —レベルアップで異能力者に無双する—
学校は増え過ぎた。
よって異能力者が少なく、存続する価値の無い学校は廃校にし、所属生徒の履修記録はその全てを抹消する。
その判断の基準として、我々は絶対的で不変のルールを定めた。
異能力を使用可能な球技、その勝敗である。
この球技は全校生徒が参加可能なものであり、学校同士の総力戦を模しているのだ。
この戦いは神聖なものである。
この試合はたとえいかなる理由があったとしても中断はされないし、その勝敗は揺らぐことはない。
貴校はこの度、その試合の対象として選ばれたのだ。
繰り返そう。
この試合は神聖な戦いである。
たとえいかなる理由があったとしても中断はされない。
勝敗は必ず決定し、片方の学校は廃校となるのだ。
理不尽? 学校とは理不尽を学ぶ場所である!!!
絶叫せよ!!!
絶叫せよ!!!!!
絶叫せよ!!!!!!!
スタジアムは静かだった。
静まり返っていた。
観客は多かった。しかし、誰一人として言葉を発することができずにいた。
太陽フレアの円型校章——零雲中学校には未だ得点がない。
それにも関わらず対戦相手——灯奏学園のグラジオラスの下には、「9」という震撼すべき数字が記されている。
そして、それは二桁になった。
零雲中学校。古くから最上位大学への高進学率を誇る、異能力教育で一般入試が狭き門となった現代でもその輝きを鈍らせていない正真正銘の名門校。
その学校を守るため、新時代修身推進局は精鋭部隊『十二の難行』を三十余枚の書類を使って形式上所属させていた。
その役目は「処刑人」。
無名校を蹂躙してノルマを達成し、統廃合計画から永遠に零雲の名前を消す——それが推進局の描いた未来絵図。
その青写真は、今まさに燃え落ちようとしているのだ。
☆★☆
試合前に時間を戻そう。
「この試合、前半で終わらせる。徹底的に潰せ」
彼らは『十二の難行』だ。下卑た笑いがロッカー室に広がる。
「なんだお前。ちゃんと相手メンバー調べてんのか? 真面目ちゃんかよ」
「女子探してんだよ」
「そういや、鷹崎ってのだけには一応注意すんだろ? サッカーをフォワードとして本格的にやってたとか」
「鷹崎? 結構後ろにいるぞ」
「おいおいおい。転向っすか。ゲームメーカーってヤツっすか」
「素人集団だから仕切れる奴がいないんだろ」
「俺ら以外、フォワードとミッドフィールダーは使い捨てになるだろうからな」
誰かが言い、全員が笑った。
それは間違いなく嘲笑であった。
☆
整列し、礼をする。
主審のホイッスルが高らかに鳴り響く。
彼らの認識上では、処刑が始まろうとしていた。
異能球技における絶対のルール。『ボールをキープしている者のみが、異能攻撃を使える権利を持つ』。
ボールを足元に収めた異能力者は、その瞬間にコート上の支配者となる。彼の内に宿る強大な力を使えば、貧弱な無名校の生徒など一瞬で消し炭にしてしまえるのだ。
(さて、どいつから血祭りに上げてやるか——)
薄ら笑いを浮かべる彼の目の前に、一人の男子生徒が立ち塞がる。
(まずはこいつか。バカが。ボールを持ってる俺の前に——ノコノコ出てくるとはな!)
異能を解放する。力をボールに集中し、このザコを吹き飛
力が集められない。
ボールが無いからだ。
(……は!?)
「おっと」
相手の男子生徒が小さく声を漏らした。
その足元にはボールがあった。
「なっ……!? ふ、ふざけんな!」
怒声と共に男子生徒に向かう。
しかし、男子生徒は——
「三矢原さん!」
「あげおん、ナイスパース!」
揚尾は前へとボールを上げ、華やかな印象のある女子がそれを受け取る。
「雄々宮っ!」
女子は更に前に——シュート圏内へ。
そこに彼はいた。
雄々宮澄春。
ボールの落下点へ寸分違わず滑り込み、最後のディフェンダーと向かい合う。
「な、舐めてんじゃねえぞ!」
ディフェンダーは冷静さを欠いていた。
ボールを介さず直接異能を放ち、澄春を無理矢理止めようとする。
異能攻撃は異能を扱えない者には不可視。整理対象に挙がる学校は無能力者が多いため、これを視覚できない。
澄春も例外ではない。少なくとも彼は鷹崎より推進局に軽視されていた生徒である。
そのはずだった。
「こんなもんか」
彼は避けた。避けたのだ。
澄春は敵選手をそのまま抜き去ると——
ブザーが鳴った。零雲側の壁型センサーにボールが衝突し、力無く転がる。
ゴールキーパーは、反応すらできなかった。
開始から僅か二分足らず。
灯奏学園は、「1」という数字を灯した。
☆
「雄々宮ナイッシュー! いえーい!」
三矢原はフィストバンプで澄春を迎えた。
「ねえねえでもでも、予定通り交代交代で60分までに運動部出すの? 出場時間延びない?」
「説明しただろ。推進局の心は確実に折れる。なら一人でも多く見せ場を作る」
「そっかー……」
「まあそこまで言うんだったら、三矢原お姉ちゃんに任せて俺は引っ込みますか」
「え、まじ、やったー! ハットトリック決めちゃうよぉ〜!」
「雄々宮ッ!」
澄春に怒声が飛ぶ。
「済まんな鷹崎。三矢原がドジって失点したら戻って120分最後まで付き合う。約束だ」
「サッカーは本来戻れないんだぞ!」
「だが戻れる。『来賓』の皆様のことを考えれば三矢原のような映えるキャラの見せ場は多い方がいい」
勝手な交代。しかし『来賓』という言葉を聞き、主将も苦虫を噛み潰した顔でこの主張を認める他なかった。
「くーっ……! 北上、行けるか?」
☆
5分 三矢原
7分 三矢原
9分 北上
11分 揚尾
13分 三矢原
14分 北上
16分 神野須
18分 喜多本
21分 桶河
☆
そして現在、観客席は完全に凍り付いたようになっていた。
10対0。
グラウンド上に立つ『十二の難行』たちは荒い息を吐き、そして虚ろな目で芝生に視線を落としている。
交代戦略に文句を言おうにも、本来異能球技は全校レベルの「戦争」を模した競技であるし、そもそも交代前に7失点を許してしまっている。
話が違う。
灯奏学園の選手は明らかに異能力を知覚しており、回避や防御を行っている。
これだけの実力があるのなら、おそらく部隊の編入ではなく異能力の専門校そのもので戦わなければ話にならないだろう。
いや、それすら危うい。彼らは明らかに全体の質が優れているのだ。だから交代交代で攻めることができている。
ブザーが響き、ホイッスルが鳴る。
神野須が11点目を入れ——零雲中がタイムを取る。
長い長い、タイムを取る。
☆★☆
「ずるいじゃん!!!」
三矢原が吠えた。
「卑怯な……!」
鷹崎も憤っていた。
得点システムのエラーにより無効試合。
それが大人の決定だった。
「零雲中は大人にとって潰すわけにはいかねえんだよ。それに零雲中の『本当の生徒』だっていい迷惑の被害者だと思うぜ」
一触即発の空気。澄春だけが冷静だった。
「そっちはわかるよ! だけど……」
「現実見ろよ。こんな試合最後までやらせてくれるわけねーだろ」
「おいまて、聞き捨てならんぞ」
鷹崎が遮る。
空気の変化を感じて三矢原は身を引き、全員が鷹崎と澄春二人の会話に集中する。
「雄々宮、お前これを予測していたのか?」
「まさか。30分保たないとは思わなかったぜ」
今度は彼らが凍り付く番だった。
「じゃあ、俺たちは何のために……」
「言ったろ?」
天を仰ぐ鷹崎に向かって、澄春はニヤリと笑った。
「『来賓』が見ているってな」
☆
両校のスターティングメンバーが横一列に並び、審判の合図に合わせて頭を下げる。
零雲は茫然自失であり、灯奏にも勝利の喜びはない。
しかし澄春の顔には、しっかりとした意志の輝きがあった。
彼は、灯奏側のまばらな観客席から目を離さない。
いや、違う。『来賓』は確かにいて、観客席を所狭しと埋め尽くしている。
『いや〜、くだらない試合でしたねセタンタさん!』
『全くだ。アレだけイキっていながらこの体たらくじゃなぁ』
(好き勝手言ってやがる)
澄春は苦笑した。
(まあ、この試合を乗り切れたのは『ボーダーユニバース』の恩恵あってこそだ)
整列が解かれ、選手たちはグラウンドを後にする。
(今回は確かに人類の無様を見せた)
(責任を取るべき者たちは見栄と保身のためにルールを捻じ曲げ、エリート風を吹かす連中はそれに乗っかるだけの操り人形)
(お前ら神話の化け物どもがこんなダサい世界に呆れるのも無理はねえし、お前たちに勝てる算段なんて存在しない)
その中で澄春だけは一人歩みを遅らせた。
灯奏側、彼らのみが見える『来賓』たちへと鋭い視線を向けたままだ。
(だが——全てがお前らの予定調和の中ってのは、却下だ)
(俺たちはもっと強くなる。お前らが高みの見物を決め込んでいられなくなるくらいにな)
(だから、まだ勝手にこの世界を終わらせるなよ。特等席でふんぞり返って待ってやがれ)
その内心に反して浮かべた笑みは心底楽しそうで、彼は軽やかに仲間たちの待つロッカールームへと足を向けた。
プロローグ ADVANCE WIN
気付いた人たちへ
Q:なんでサッカー系であの名称を使わないの?
A:主人公不在タイプのプロローグなので、心輪くんは出せませんでした。





