第90話
『シミ取り』について重苦しい空気となったが、検証方針と資料の保管方法について決まった。
これから物に対して行う検証についても中止になるかと思った。
しかし、危険であるかを判断するには『シミ取り』が本当に名前通りの魔法陣なのか確かめる必要がある。
そう判断した伯爵様は、物に限ってと言う条件で検証をするよう指示を出した。
話が終わったところで伯爵様達は執務に戻ると言うことで席を立った。
部屋を出るところで『検証はくれぐれも安全に、それと結果は必ず報告してくださいね』と念を押された。
「…柴田様、検証内容に変更はございますか?」
「いえ、無いです。今回は危険性がある検証ですので追加の検証も実施しませんし、危険と感じた時点で中止にしようと思います。」
「それが良いと思います、準備していた道具を持って庭に行きましょう。」
「そうですね、行きましょうか。」
庭についた僕達は改めて『シミ取り』の検証内容を確認した。
[ 検証内容 ]
・布についたシミを取り除けるか
・布についたシミ以外の汚れを取り除けるか
・布の染料を取り除けるか
・布を木材などにした時も取り除けるか
・魔道具の魔法陣を取り除けるか
・食塩水から塩を取り除けるか
足りない観点はあるがまずはベースとなる『シミ取り』について確認をし、布へと観点を拡張する。
そして布以外にも幅を広げて検証を行う。
冒険はしていない。
「では柴田さん、準備が出来次第やっていきましょう。」
「そうですね、安全第一で行きましょう。」
僕たちは順々にテストケースを消化していった。
まずはコメント通り、布のシミ取りから検証だ。
バリーさんが魔法陣を発動すると、布についたシミはみるみるうちに薄れ、やがて完全に消えてしまった。
一言も発してはいないが皆息を呑んでいる。
次に汚れや落書きについても試したが同様に消えた。
やはり、言葉通り『シミ取り』ではないか…より慎重に検証しなければ。
次は染料だ。
バリーさんが青く染められた布に魔法陣を発動する。
…変わらない?
つまりは染料については対象外ということだな。
少なくとも何でも消す魔法陣ではないらしい。
しかし、染められた布は何かしらの条件から『シミ取り』の対象外となったのか?
…考察は後にして次は布以外だ。
布以外、木材や金属に対しての検証を行った。
結果としては木材の煤や金属の錆、さらにはそれぞれインクで描いた落書きを取り除けた。
「うーん、今のところ平和利用しか思いつきませんね。でも、柴田さんの言う通りこの魔法陣の本質が『取り除く』なら…嫌な予感しかしません。」
「確かに、その場合は危険ですね。しかし、危険性がなければ屋敷のメイドに魔道具化したものを渡したら喜ばれると思われます。」
「そうですね、危険性を十分確認が出来ましたら作りましょう。いつもお世話になっていますので。それでは引き続き検証を行いましょう。」
「次は魔道具の魔法陣ですね…柴田さん今更ですが先ほどの金属に落書きした検証と別にした理由は何でしょうか?」
「ウィルさんが以前魔道具の説明をしてくれた時に魔法陣はインクに魔石を砕いたものを混ぜた特製のモノで描くと仰られたかと思います。僕は魔石の無い世界から来ましたので別物として考えました。」
「…なるほど、魔石が何かしらの影響を与えるかもしれないと言うことですね?」
「はい、後は刻印を押した時に淡く光るのでそちらも合わせて確認します。」
「刻印を押していない状態の魔法陣を用意出来るのは柴田様しかいませんね。」
「はい、そのつもりで2つ用意しました。まずは刻印を押していない方から検証をしましょう。」
まずは刻印を押していない方からだ。
…魔法陣が消えた。
「…消えましたね。」
「では、刻印をした魔法陣も検証しましょう。」
刻印をした方はどうだろうか?
バリーさんが魔法陣を発動させる。
……消えない。刻印をしたことで『シミ取り』の条件から外れるのか?
「刻印の有無で変わりましたね…」
「理由は不明ですが検証結果がそう示していますね…」
「…これは刻印自体も改めて調べてみた方が良いかもしれませんね。」
確かに、この検証が終わったら刻印に鑑定の魔法陣をかけてみよう。
魔法陣よりも、刻印そのものに秘密があるのかもしれない。
刻印は単なる起動処理ではなく、魔法陣そのものを別のモノへ変化させているのかもしれない。




