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第2話 剥がれて行く仮面

 やってみたい、か。

 いつからその言葉を言わなくなったんだっけ。


「始め!!」


 試合の合図で、意識は二人に戻された。


 最初に仕掛けたのは、ジオラス。


 ジオラスの体格は大きい。しかしスピードが落ちることはなく、むしろ速い。

 最初の踏み込みで勢いをつけ、加速し、突き技を放つ。素早く勝利をもぎ取る、ジオラスの戦法。わかっていても、そのスピードに反応することは難しいのだ。


 だが、リヒトはそれを避ける。


(俺と同じ避け方だ)


 そんなことを、不意に思った。


 リヒトはジオラスの心臓を狙った突き技を、体を横に大きく傾けて避けた。


 これが、次の罠である。


 ジオラスのスピードは目で追えない。避けれたとしても完璧に避けることは敵わず、皆バランスを崩す。


 そこへ、素早く体を切り返してきたジオラスが攻撃を仕掛けるのだ。


(勝負あったな)


 しかしリヒトは背後からの横薙ぎを、一本の足だけで支えた状態で、上体をエビのように逸らして避けた。


「——は」


 なぜ、避けられる。なぜ、無傷でいられる。


 ライはこの時、腕を盾代わりにすることで、剣を止めて回避した。


 なのに、リヒトは無傷。


 嫌な汗が頬を伝う。目を見開いたまま、体が固まった。


「やめて……」


 その呟きは、誰に聞かれるまでもなく、クラスの歓声に掻き消えていった。


「すげぇ!」


「なんだあれ、人間離れしてる!」


 皆拳を握り興奮する中、ライは祈るように手を合わせ二人を見る。


 目を離した隙にリヒトはジオラス攻撃を一通り回避し、二人とも最初の相対の位置まで戻っていた。


「やるじゃねェか。まともに剣を持ったことねェはずの、平民にしては」


「ありがとう」


 リヒトは笑顔で明るくそう言う。それに、ジオラスは舌打ちをした。


「次で仕留める」


 その言葉を最後にジオラスは消えた、と思えば次の瞬間、ジオラスはリヒトの後ろに現れる。


(リヒトが、負ける)


 全身の力が抜けて、祈っていた拳がほころびかけた時だった。


「——そこ!」


 リヒトはジオラスの剣を剣で防いだ。金属音が辺りに響く。


 ジオラスの目が見開かれると同時に、今度はリヒトの攻撃がジオラスを襲った。


 リヒトはジオラスの足を思い切り蹴り、ジオラスのバランスが崩れるとすかさず剣の先をジオラスの喉元へと突き立てた。


「————」


 あまりに突然。一瞬の出来事に、場を静寂が支配する。


「リヒトの、勝ち!」


 しかし審判の宣言によって皆がリヒトの勝利を認識すると、歓声が上がった。


「リヒト、やったな!!」


「あーあ。『孤高の天才』には負けてほしくなかったんだがなぁ」


 ある者はリヒトに駆け寄り、ある者はジオラスの敗北に残念がる。


「…………」


 ライは、何もしなかった。ただ、動かず、じっと。


 そんなライに駆け寄る人物が一人。


「ライくん……ライくん?」


「えっ、あ、あぁ。よかった、ですね。リヒトくん」


 リヒトの声で引き戻されたライは、リヒトに咄嗟に言った。リヒトとは目を合わせられないまま。


「……おかしい」


 それは、ジオラスの声。ポツリと、しかし皆が聞こえる声で言う。


「……おかしい。おかしい、おかしい!!」


 その声は段々とヒートアップしていき、ジオラスは頭を抱えた。


「俺様が、負ける、なんて……ああぁああ!! 違う! 違います! 何かの間違いなんです!」


 誰かに訴えかけるように叫び始め、挙動不審になりながら、周りを気にするように視線を巡らせる。


「じ、ジオラスくん? どうし——」


「…………」


 次は急に静かになったかと思えば、剣に手をかける。

 そのまま剣を手に持つと、力なく、剣を引きずって歩き始めた。


 そして、そのまま、素振りを始める。


「み、みなさん。今日の授業は中止です! 教室に戻って自習しててください!」


 そう指示が飛ぶと、皆困惑しながらも、大人しく教室へと戻り始めた。


「ライ、俺たちも行こうぜ」


「……うん」


 アベルに促され、やっと体は動いた。


 しかし、ライには聞こえていた。


「勝たなきゃ」


 ジオラスがずっと、呟いていたのを。


◇◆◇


「ライ、なぁ聞いてくれよ。ジオラスが……」


「…………」


「ライ?」


「えっ? あ、えと、どうしたの?」


 アベルは心配そうにライの顔を覗き込む。


「大丈夫かぁー? 寝不足かぁー?」


 うーん、と唸りながら手を顎に当てて、アベルのオレンジの瞳がライを見る。


「だ、大丈夫だよ。俺は元気だから」


「席につけー」


 そのタイミングで、先生が教室に入ってくる。


「ほら、早く席戻りなよ」


「お、そうだな。じゃ、あんま無理はすんなよ!」


 笑顔で手を振る。


「…………」


 ライの瞳に、光は反射しない。


「っ、あ」


 午後の授業に身は入らなかった。


 剣術の授業では剣が手から離れ宙を舞い。


 魔法の授業では魔法を暴発させ怪我を負い。


 座学では答えを間違えた。


「…………」


 違う。こんなの優等生じゃない。


 なぜ、自分は剣を離す。騎士になる者が剣を離すなど、言語道断だ。

 なぜ、自分は魔法を暴発させる。騎士に魔法はいらないからと、無意識に手を抜くんじゃない。

 なぜ、自分は答えを間違える。父は間違えない。いつもいつも、正しい判断を下すのに。

 なぜ、自分は1番になれない。騎士団長の息子でありながら。

 なぜ、自分は剣を避ける。ジオラスに負けた時からだ。騎士に、父のようになるはずなのに。

 なぜ、自分は友達が勝つのを喜べない。性悪のクソ野郎が。






 なぜ、なぜ、なぜ、なぜ?




(ああ、ほんと)


 自分を殺してやりたい。

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