第89話 最後の花火
グレイヴたちはなんとか戦車と繋がっている太いコードのあるエネルギールームに到着した。カインは部屋のドアの横で両腕を組んでいた。視線の先には激しく喜ぶ狸とスライムがいる。
(…あんな喜ぶことなのか?――まぁ、後は自分でやれ)
カインは来た道を引き返した。彼は背後を全く振り向きもしなかった。振り向く理由なんて、なかった。
それを知らないグレイヴたちはコードを抜くために刺さっている電源に近づいた。壁にドラム缶のような太いコードが突き刺さっている。
「よし…」
彼らはコードを掴んで引っ張ったが、びくともしない。
「う、動かない…」
今度は剣を隙間に刺して、てこの原理を使ってみた。だが、剣が短すぎて全く動かせない。
「ちょっと、壁を壊してみるか…」
壁の中で何か引っかかっている可能性を考え、彼らは壁の金属の板を1枚1枚剝がしていった。すると、根本に巨大なリングがはまっていて引き抜けないようになっていた。
「こ、これって魔道具だね」
そう話し出したチェルルにグレイヴは驚く。
「わかんのかよ」
「…まあ、リーとずっと一緒だったからね。――リー、無事だよね…」
急に寂しくなってきた。ルートは奪還したにせよ、まだアブソリュート・ソレイユの戦力は欠けたまま。それに戦力もだが「初めての仲間」である彼らをグレイヴはとても大切にしていた。
「しんみりしてないで、早く解除しよう。そうしないとあいつらが戻ってこねーよ」
「そ、そうだね」
彼らは戦車で時間稼ぎをしているルートたちのためにも一刻も早く今の事態の解決をすることにした。
まず魔道具を引っ張ってみた。もちろん外れない。
「魔法で壊すか?」
「いやこの魔道具、魔法を吸収してパワーアップするタイプだよ。攻撃は物理で…」
チェルルが体当たりしたが弾かれて、その上電撃を浴びてしまった。
「いっ!」
「大丈夫か?火傷してるぞ」
「だ、大丈夫…」
グレイヴはチェルルを部屋の角で休ませて剣に力を込める。彼の全身から輝くオーラが溢れ出す。
(俺にだってプライドがある…。でも勇者とか関係ねぇ…)
グレイヴは高く剣を掲げると垂直に太い大きな光の剣になった。
(これは…。俺のプライドは――)
剣を勢い良く魔道具に向かって振り下ろす。
(――『仲間を守って、一緒に笑顔でいること』、だ)
しかし、そんな彼の気持ちは剣技に反映されず剣は大きく標的からそれた。
「はにゃ?」
あまりにも当たりそうですごい雰囲気が漂っていたのでチェルルの開いた口が塞がらない。グレイヴも顔が真っ赤だ。
「そこでずれる?」
「うっさい」
しかし、なぜか魔道具にヒビが入って紋様は光を失った。すると魔道具はチリになって消えてしまった。
「…ど、どうだ!俺の実力!」
グレイヴは剣を床につけて高笑いを引きつりながらしているが、チェルルの目は白い。
「いや、関係ないでしょ」
「と、とにかく!これでコード抜けるから抜こう!」
グレイヴは急いで壁のコードを引っ張るとあっさりと抜けた。
「あはは、さてとルートとマグネに連絡をしよう」
グレイヴはマジホで連絡しようとしたとき持っていたコードが急に動き出した。コードは勝手に引っ込められる仕組みだったようだ。グレイヴはコードにしがみついたまま天井に吸い込まれる。チェルルも咄嗟にグレイヴにしがみついた。
2人はどんどん上に上がっていき、戦車のある屋上に到着した。よく見るとルートが戦車にしがみついており片足がコードの近くのボタンを押していた。
「こ、これコード収納用だったのか!?」
ルートはものすごく驚いている。マグネはアルセーヌの側におり怪我は回復されていた。戦車はコードが抜けてタイヤの動きを止める。だが、双方のマシンガンからまた黒いボールがいくつも飛んできた。グレイヴたちは避けるが埒が明かない。
「流れ玉が観光客にも当たっちまう…!」
バリアが若干色が薄くなり反射も小さくなってきた。時間経過で限界を迎えたのだろう。そこでルートはマグネに声をかけた。
「マグネ、念動力で砲台動かせるか?」
しかし、マグネは顔を曇らせる。
「…できます。でも2つ同時には――」
「大丈夫だ。俺がなんとかしよう」
ルートは手に握られたエネルギーを確かめ軽くストレッチする。そしてマグネとルートが両手を砲台に向けると砲台はお互いを打ち出した。
「な、なにすんだ?」
砲台は駆動を失いしばらく撃っているとボールが互いの銃口にはまってしまった。1つでも詰まると弾が撃てなくなる仕組みだった。さらに現在コードが抜けてパワーも衰えている。
程なくして砲台は「ウーン…」という音を立てて爆発した。グレイヴたちはデッキの端で防御壁を展開したおかげで助かった。
「戦車破壊成功!そんじゃカインと合流…」
ほっとして剣を鞘に収めたグレイヴは笑顔を向けた瞬間、マグネが目を見開く。
「大変です!早くこの場から逃げてください!」
「え?なんで?」
チェルルが質問するとマグネは花火と反対側のプールのある方向に向かう。
「内部から強い魔力の膨張を観測しました。後20秒足らずで間違いなく爆発します!」
グレイヴたちは声を上げるよりも先に足が動いた。
全員がプールに飛び込むのと入れ替わりに戦車は爆発した――と思われたが…。
――船のセキュリティルームでカインがキーボードの操作をしていた。だがその一瞬の合間に片方の手が指をはじいた。
爆発の閃光がバリアを満たすとバリアは一気に小さくなった。そのまま天高く登り、大きな花火になった。
「まあ、最後の最後でこんなものまで…」
「今年はとても豪華だな」
デッキの観光客がその花火に感動した。ちょうど花火ショーが終わって誰もが夜空から目を離そうとしたタイミングだったのでインパクトが強かったのだ。
「あんな花火用意してましたっけ?親方」
「いや、もう全部打ち上げ終わった」
花火職人たちが互いの顔を見合わせる中、一番老けた「親方」と呼ばれた男がその花火の光露を見つめて「だが…」と続けた。
「来年はあんな花火も打ち上げたいな」
その言葉に周囲の人物は全員うなづいたのだった。
――一方でグレイヴたちは…
「ぷは~、危なかった~」
全員プールから外に出ていた。グレイヴはマジホでカインに連絡する。
グレイヴ『戦車片付けたぞ。そっちは?』
そのメッセージにカインはセキュリティルームを立って見渡す。そこには大量のアシガルやサイボーグが横たわり、泥とオイルが床と彼のボディを汚していた。
「…まあ、隠す理由もない」
カインは呟くと返信した。
カイン『こっちも大丈夫だ。船にかかっていたロック用の魔道具破壊しておいたから探索しとけ』
グレイヴはそれに驚いた。
グレイヴ『地下のわっかもか?』
カイン『船に地下などない。最下層のエネルギールームのリングなら消したぞ』
カインは外へ歩き出してプールのグレイヴたちの前に現れた。しかし、彼の顔に笑みはなく下から見てるからか影が深く落ちていた。
「お前たちに悪いニュースがある。聞くか?」
グレイヴたちは顔を見合わせたが聞くことにした。カインは「…そうか」とグレイヴたちの目の前にあるものをどさりと置いた。それにグレイヴは目を疑う。
「これは紛れもない、アンジュの兜だ」
置かれたのは和風の鎧兜。しかもオイルまみれの。黙ったままの彼らにカインは順に説明する。
「セキュリティルームに向かい、アシガルたちやサイボーグと遭遇した。そのときアンジュが俺に薙刀を向けてきた」
カインはその場であぐらをかいて兜を揺する。
「サイボーグはなんとか破壊せずに済んだが、アンジュは…全て話した。『全て主様のため』…。つまりアンジュはお前らの暗殺を企むスパイだったわけだ。――だから、始末した」
グレイヴはやっと言い返した。怒りの感情が込みあがってくる。
「なんで言ってくれなかったんだ!アンジュはお前の愛した女だろ?」
「過去の話だ。今愛してるのはクロエと子供だけだ」
あまりのドライさにグレイヴは立ち上がる。
「お前ってさ、そういうとこだよな!?」
「なんだ、具体的に喋ってくれないか?内心を読んで人の傷口を広げたくない」
カインは表情の変化はなく首を傾げる。
「…だからさ、思い出を切り捨てるのかよ!?」
「ああ捨てるさ。不死身が永遠に思い出に残すと疲れる。それにあれはアンジュの模倣品――」
「黙れ!」
ルートは間に入って「まあまあ」と落ち着かせるように促す。グレイヴは顔が濡れていた。それがプールの水か涙なのか誰もわからなかった。
「パーティーは明日まである。お前らの登録もしておいたから明日は好きに楽しめ。俺は今晩中に片付けてくる」
そのままカインは背を向けて転移した。このときカインはエリックたちのことを掴めなかったことを言わなかったことに酷く後悔を覚えていた。
グレイヴは怒りが収まらないまま、カインがおいていった部屋の鍵を拾い上げてルートに手を添えられてその場を後にした。
※この物語はフィクションです。




