第86話 花火ショーの前に
額縁はガタガタ動いて少しずつ激しくなる。そして、勢い良くガラスからたくましい金属の拳が伸びて額縁をひっくり返す。
「なんか、やばくね?これ」
カイン以外青ざめる中グレイヴは1歩引いた。
「ああ、たぶんあれは写真の人物を再現する魔法薬――」
ルートが言い終える前にガラスの破片が一気に飛び散って写真から大男が現れた。ルートが落ちた写真に貼られていたプレートを読む。
「歴史上サイボーグの原点、『マサムネゼロ』…」
マサムネゼロはグレイヴたちを見ると腕に備え付けられたマシンガンを放つ。
「…っ、危ねぇ!」
カインは咄嗟に床に両手を付けて魔法陣を展開。薄い白い光が展示品を包む。弾丸は確実にそれらに当たったがショーケースごと無傷のままだ。
「ふぅ、これ以上被害額払うのは御免だからな」
「いや、俺らの心配しろよ!」
ギリギリ避けたグレイヴたちが怒る。すると、カインは宙返りをしてグレイヴたちが飛び出してきた壁の穴に入る。
「俺は船の奴らを避難させる。そいつのことは頼んだぞ」
カインはそのまま走り、螺旋階段を上がって持っていた万年筆を通りすがる一瞬の間に壁の火災報知器に刺して姿を消した。
――《警報、火災が発生しました。第6フロアより火災発生。速やかに避難を》
火災避難警報が船一体に鳴り響く。
カイン『これは俺が鳴らした。戦闘に集中しろ。現在客はウッドデッキに集合しているはずだ。船の構造上、そこには誰もいない』
テレパシーでグレイヴたちに状況を説明するとカインは戦闘服になり、魔法で穴を開けて姿を消したまま下の階に向かった。
*****
グレイヴたちは目の前の敵に集中する。
「花火ショーまで、あとどんくらいだ?」
マグネはグレイヴの問いかけにフロアの時計を見る。
「30分くらいですね」
短すぎる。その事実が彼らの胸を締め付ける。目の前のサイボーグはルートよりも背が高く動きも俊敏でまるで鋼の体と一体になっているようだ。しかし、カインと違って攻撃は備えられた弾丸をマシンガンやミサイルで放つだけ。カインのように自身の魔法と融合させた技はない。
「…ああっ、クソッ!思ったより強ーぞ、こいつ」
相手は元は写真だったこともあり黙ったままだが、攻撃に隙がない。
「説明があった。読むぞ…」
ルートが部屋の倉庫からマサムネゼロに関する資料を手にして戻ってきた。丁寧に白い手袋をしている。
(マジの刑事みてー…)
グレイヴは一瞬、推理ドラマで探偵に事件の概要を説明する刑事の姿と、このときのルートの姿が重なった。
「まず、そのサイボーグは元は人間の傭兵らしい。攻撃は当時の優れた軍事兵器を改造したもの。チートはなし」
グレイヴはその説明の合間にマサムネゼロに近づいて関節にナイフを刺した。だが、少し動いただけで簡単に折れてしまった。
「物理的な力だけで、魔法はそこまで強くないらしい。それと、本物は手術後の3日後に発作を起こして死亡」
グレイヴは投げ飛ばされて壁にぶつかる。チェルルがルートに近づいた。
「発作?」
チェルルの質問にルートはすかさず答える。
「金属アレルギーだったんだ。当時金属どころか、アレルギー自体知られてなかった。当時は呪いだなんだと囁く連中が多かったが…」
ルートは現在暴れているマサムネゼロを見る。
「あいつは偽物だ。これだけ暴れられるとなると、アレルギーはないだろう」
そのとき、吹き抜けの上の階の壁に新たなひびが入った。
「…えっ」
そのひびはみるみる広がって、チェーンソーのついた巨大なハサミが飛び出してきた。ハサミは黒光りしていてもう1つ現れた。壁を広げるように大きな穴を開けると、顔がブラウン管テレビのようなエビのロボットが出現した。その液晶の光は白くてどこか柔らかいが吸い込まれそうな感覚がする。
「な、なんかこいつの光見てると何も考えられなくなる…」
「何でしょうか?魅力ではなさそうです」
すると、ルートがグレイヴとマグネの目を塞いだ。自分のサングラスをかけて。
「こ、こいつだ!こいつの光で動けなくなったんだ!」
このロボットは、ルートたちの動きを停止した存在だったのだ。マグネはこのとき全て理解した。
「なるほど、これだけ特徴的なら将軍のおっしゃったように百目鬼のあなたの注目を変えられますね!」
巨大ロボットはマサムネゼロを飲み込むように液晶を床につける。すると、ロボットは機械音をたてて変形して巨大な戦車の形になった。上部の液晶がやや上を向くと、キャタピラは吹き抜けの壁を重力があるかのように登っていく。
「ま、まずい!あのまま船から出られたら花火ショーを見ている客に被害が!」
グレイヴは大穴があいて、ぐにゃりと曲がった変装用の機体を起こして何度か殴った。しかし、内部のモニターは映らない。
「完全に壊れちゃったね…」
チェルルは残念そうにグレイヴの肩に乗る。しかし、この男にはまだ手札があった。
「カインと作った、マジッククラフトがあるじゃねーか!」
グレイヴは機体の穴に手を入れて、小さな飛行機を出した。そして、スプレーを吹きかけて原寸大にする。
「これで上に上がるぞ!」
ルートはアルセーヌにまたがり、アルセーヌはコウモリのような翼を広げる。
「俺はアルセーヌで行く。壁のキャタピラを破壊して落とすんだ!」
こうして4人は強大な脅威に立ち向かうのであった。
※この物語はフィクションです。




