第84話 反撃タイム
カインは部屋の壁にべったりと背をつける。ディエゴは自由な両手を広げてみせる。
「足1本で勝利気分?…どんだけおごり高ぶっておるんや――」
すると、部屋の照明が全て切れた。真っ暗で何も見えない――が間もなく再び点いた。
そのときディエゴは目を疑った。
「なんや、これ!?」
彼の体はテグスのようなもので絡められていたのだ。カインはプラン変更時の変装になりサングラスを外す。
「お前、先代とは何か違うな…。転生者ではないようだが、お前は何者なんだ?」
カインはサングラスを胸ポケットにしまうともう片方の手でテグスをはじく。
「まぁ、お前に聞きたいことなんてない。このままお前は…」
カインはディエゴに歩み寄って睨み彼に頭から何かをかけた。その独特な匂いがディエゴの汗を誘う。
「が、ガソリン!?」
カインは背後に浮かばせて隠しておいたタンクを見せてディエゴの怯える顔を楽しんでいた。カインはそのまま右手を銃口に変えてそこから炎が上がる。カインの笑みに死神が宿る。
「このまま火がつけば――お前は…」
その瞬間、天井の板が破壊されてカインに一撃蹴りを与えた。
――バキッ!
カインの右肩から嫌な音がした。カインはだらりと下がった右腕に舌打ちした。天井から現れたその男はナイフでディエゴのテグスを切って解放する。
「主様。お怪我は」
男は東雲だった。呆然と床を見ている堕天使を彼らは見ている。ディエゴは余裕そうだ。
「…テグスで擦れてできた傷だけや。…それよりもガソリンまみれや…シャワー室とかあったか?」
東雲は手帳を開く。
「この先の階段の下の手前から2つ目のドアです。男性用なのでご心配なく」
ディエゴはスキップをしながら部屋のドアに向かった。東雲もついていく。カインはまだ俯いたままだ。
「あの、ルシファーはどうなされますか?」
「どうせ拘束してもすぐ出られるんや。逃げるが勝ちやで~」
ディエゴは我先にと出て行ってしまった。東雲は影の落ちたカインの顔を見ると、目を合わせることもなく逃げるように部屋を後にした。
そこでカインはテレパシーを送った。
カイン『ディエゴに逃げられた。同時に右腕が破損』
グレイヴ『は?大丈夫なのかよ!?』
カイン『スペアを持ってきている。それと東雲もいた。爆弾もほとんど解除したから普通に進めろ』
マグネ『将軍…もしかして嫌なことありました?』
カインは思わず体を起こす。
カイン『…ちょっとな』
グレイヴ『…あんま無理すんなよ』
カイン『なってもいない兄貴面するな』
そこでカインはテレパシーをやめた。
「…俺は、カイン・月影。ただの大富豪」
そう自分に言い聞かせてカインもドアを開けた。当然だと思っていたが既に2人の姿はなかった。
*****
――天照寺邸、作戦会議中
「「「発電機!?」」」
グレイヴたちはカインの話に驚いた。
「あぁ、100年前は洗脳するときに特殊な魔法薬を使った」
「魔法薬?」
カインは小さな小瓶を取り出す。
「これがレシピから再現したものだ。性能は丸っきり同じだが蓋に強力な防御魔法をかけておいた。俺でも開かないようになってるから安心しろ」
瓶をグレイヴに渡す。中身は星雲のような色のとろりとした液体だ。
「そいつは液体で体内に入れば方法は何でもいい。東祭のメモにわずかだが同じ成分が検出された。おそらく――こうだな」
カインは壁に映し出していた画面を切り替えた。
「光線はフェイク、もしくは判断を鈍らせる効果があり使用。彼のような目に関連する魔族は”光”を強く感じるからな」
チェルルの上に乗ったマグネは身を乗り出す。
「つまり、七宝はそれを利用してわざとメモを…?」
カインは目を細めた。
「あくまで仮説だがな。――それで洗脳だが…」
今度はミストシャワーの映像を見せた。
「これはリアーナのショッピングモールにあるミストシャワーでな。こうやって水を撒いて打ち水の効果を発揮する。すぐに蒸発されて濡れないことが特徴だ」
チェルルは口を尖らせた。
「なんで自分の国の自慢話?」
カインは「あっ…」と言いかけて口を塞ぐ。頬がほんのり赤い。
「…要するにだ。光線を浴びている間に本来の目的である薬をこれに似た何かで撒布して洗脳したのではないか、ということだ」
全員話に納得してカインは船の地図を見せた。
「分担して発電機が設置、もしくは不審なコードなどを外す。どちらも相当な電力がいるからな。しかし船の電気を全て使用すれば船はその場で立ち往生。せっかく手に入れた仲間を孤立、それどころか自分たちまで帰れなくなってしまう」
グレイヴは目を見開いた。
「そうか!それで発電機を使うわけか!」
「お前もわかるようになったな」
*****
――現在
そういったわけでグレイヴたちは不審な緊急用発電機を全て破壊した。破壊とはいえ、爆発はさせられないため活動を停止させガソリンのポンプを魔法でがっちり固めただけだ。
「これで最後ですかね…」
マグネが発電機のランプが消えるのを見届けるとグレイヴは額の汗を拭う。
「魔族に合わせてサイズとタイプが違ったから大変だったな。ま、でも後2時間で花火ショーが始まるし早く行こうぜ」
そんなときだった。ドタドタと足音が近づいてくる。それも2,3人ではない。
「――はぁ…やっと見つけたぞ」
なんとルートが何人もの洗脳者やアシガルを連れてやってきたのだ。狭い廊下で完全に包囲されている。
「なんでここがわかった!」
グレイヴたちは身構える。しかし、剣や魔法陣を出すことはできなかった。ルートは息を切らしてにらみつける。
「そりゃわかるだろ!俺は百目鬼だぞ!船内は全て目視できる!」
「「「えー!」」」
誤算だった。グレイヴたちはカインに頼りすぎてしまったせいで周知しているはずの仲間の能力を行動に落とし込むことができていなかったのだ。洗脳者たちは次々に襲い掛かる。しかし、グレイヴたちも負けてはいない。雷魔法や氷魔法で洗脳者を1体ずつ確実に倒すが数分遅れてそれらは水溜りになっていく。アシガルはそれを踏んで泥の塊になって溶ける。
「これじゃルート君を倒せないよ~」
水浸しの床でチェルルはグレイヴの肩に乗る。壁や天井、床をグルッと確認すると全て目があった。彼らには冷や汗が一筋。
「…こ」
「…これは」
グレイヴはこのときカインに相談する気力もなかった。そしてゆっくり回れ右をする。
「逃げろ!」
グレイヴは狸に戻り機械に入ってチェルルとマグネを乗せて猛スピードで逃げた。それをルートが追いかける。蛇行を繰り返しながら人のいない道を動き続ける。
カイン『アクシデント発生。何者かが俺たちの情報をリーク。そのせいで発電機はいくつか再起動した。遮断したセキュリティも復活している』
カインがグレイヴの機械のモニターに緊急信号を送った。セキュリティは脆弱だったが念のため最初にチェルルとマグネが遮断させておいたのだ。グレイヴは思い出す。
(えっと、もしもばれたらミュージアムルームへ、だったから…。ここの廊下を右だな)
グレイヴはモニターの地図を頼りに進みだす。そして一通メッセージを送った。
グレイヴ『今第6フロアのホテルルームでルートに追いかけられているんだ。振り切るか?』
即座に返事はきた。
カイン『それなら今送るナビに従え。――なんとかなるかもしれない。そのまま追跡させろ』
緊張感が迫る中、グレイヴたちは逃亡を続けた。
※この物語はフィクションです。




