第82話 合流
グレイヴは1人、船のゴミ捨て場に来ていた。
「…ったく、カインいなくなっちまったよ。――まっ、しょうがねーか。転生者の件を片付けないといけねーし」
グレイヴはモニターの時計を確認する。
「…そろそろかな」
すると、チェルルとマグネが遠くからやってきた。
「おーい、グレイヴ~!」
「そっちは大丈夫です?」
2人とも元気そうだ。グレイヴもマジックハンドで手を振った。
「そっちはちゃんとできたか?」
チェルルとマグネはある目的を遂行した。それは後に効果を発揮する。
「うん!」
しかし、マグネが何やら慌てだした。
「大変です、グレイヴ!」
「何が?」
グレイヴはきょとんとした顔でマグネに尋ねる。
「アルセーヌが、いなくなりました!」
それにグレイヴは一瞬ぼんやりしていたが、すぐに目を丸くした。
「え!?」
マグネは詳しく説明する。
「実は、さっき笛の音が聞こえたのです。そしたらアルセーヌが尻尾を振ってあの部屋に…」
「なんで追いかけなかったんだ!」
グレイヴはマグネを問い詰める。しかし、マグネは何かを嚙み締めるように首をぎこちなく横に振る。
「無理です。ここで動けば目的が達成できません」
グレイヴはマグネが指示した方向を辿ると、先にあったのはキッズステーションだった。中が見えないので入るしかなさそうだ。すかさずカインにテレパシーで事情を伝える。
グレイヴ『カイン、聞こえるか?』
カイン『…何度も言わせるな。脳内に直接送られているからテストの必要はない』
グレイヴ『いいじゃん、雰囲気作りたいんだよ』
カイン『…用件は』
グレイヴはカインの冷たい対応に眉をひそめたが、話しだす。
グレイヴ『――ってなわけで、アルセーヌが単独行動したんだ』
カイン『キッズステーションか…。あそこは警備員はいないがロボットがいる。だが、そのフロアの場合、現在は物置になっていて来客用のプレゼントがぎっしり入っているはずだ。絶対に触るな。それとついでになんだが大きな備え付けの遊具の最深部に行ってくれないか?』
グレイヴ『…別にいいけど、どうして?』
カインは手元で何やら操作をしていたがテレパシーを正確に送る。
カイン『そこに壊れた空中ドローンがある。そいつがウラヌスと関係がある場合を考えて調べたい』
グレイヴ『了解っと』
テレパシーを終えて、3人はこっそり部屋に入っていくことにした。中は暗かったが意外にも広くカインの言う通りラッピングされた箱が積み上げられていた。
「箱見ると開けたくなるね~」
「でも、爆弾とか入ってるかもしれない」
そんなことを話しながら進んでいったが箱の山を抜けてもアルセーヌはいない。気がつけば遊具まできてしまった。遊具は天井にぶつかりそうな程高く、子供向けとはいえ構造も複雑だ。
「こりゃあ、一旦降りるしかねーか」
グレイヴは機体から降りて人型になり近くのカウンターの下に隠す。遊具の中に入ろうとしたそのとき
――グシャッ…
チェルルが何か踏んでしまった。恐る恐る見てみると…
「…キャンディーの包み紙?」
このときグレイヴは思い出した。ルートはいつも空腹を満たすために食べると膨らむ完全栄養食の特別なキャンディーを食べていたことを。全員背筋が凍る。おかしいのだ。ルートは洗脳されていて列車で他の洗脳者ごと湖に落としたのだから。
「こっから湖まで結構あるぞ…。でもルートは魔獣使い。笛でも持ってるか?アルセーヌが尻尾を振っていたことにも説明がつくし…」
グレイヴは悩みながらもキャンディーの包み紙をポケットにしまって遊具に入った。
「とりあえず、将軍の依頼をこなしましょう。データはワガハイらで転送する」
マグネの助言を受けて、グレイヴたちは遊具の最深部まで行くことにした。ドローンの形のイメージはカインがテレパシーで既に送っている。遊具は年季が入っていたが、頑丈でそっと歩けば軋みはするが普通に進めた。
「こういう遊具、アポローンにもあったら良さそうだな」
グレイヴは先頭でそんなことを考えていると、また包み紙が落ちていた。
「え…」
今度は毛も落ちている。グレイヴはそれを拾い上げて匂いを嗅いだ。
「色と匂いからして、アルセーヌだ。それとキャンディーの匂いとなんか別の匂いが…」
グレイヴは狸であることもあって鼻が良かった。おかげで探索がスムーズになる。グレイヴはそれらもポケットにしまって遊具の最深部にたどり着いた。
「ドローンってこれだな?」
マグネは我先にとドローンを拾い上げて状態を確認する。そしてマジホをかざした。
「えっと、これをこうしてって――あれ?」
マグネは目覚めたばかりなのでマジホの操作に慣れてなかった。代わりにチェルルが操作する。
「待ってね…。よしできたよ」
チェルルはあっという間にデータを転送して任務を終えた。マジホはリアーナの最新式で本体が変形して接続がスムーズになるものだった。カインがこの日のために全員のマジホをそれにした。グレイヴは任務を終えて来た道を戻ろうとしたそのとき――予想外の人物がいた。
「ルート…」
ルートが遊具の壁のネットに張り付いていたのだ。しかもアルセーヌが捕らえられている。
「…やっと見つけたぞ。天照寺」
息を切らしたルートがグレイヴたちを睨む。そして柱になっていたパイプを握ってゆっくり曲げ始めた。
「まずい、入られる!」
グレイヴたちは遊具の別の道を走ることにした。だが、狭すぎて4つんばいじゃないと動けない。
「一旦、狸に戻ってください!今のワガハイならガイドできます!」
グレイヴはうなづいて狸に戻って走り出す。ルートは壁を走って追いかけている。
「ルートって、あんな力あったっけ?」
チェルルの疑問に答えるようにカインからテレパシーが来た。
カイン『どうやら見つかってしまったようだな…』
グレイヴ『どういうことだよ、カイン!ルートは列車で遠ざけただろ!』
少し間があってカインは答える。
カイン『…ワープだ。洗脳者はただ洗脳されるだけでなく特殊な魔法薬で肉体を強化されているんだ』
グレイヴ『だから壁を床みたいに走っているのか!』
グレイヴは全て納得したが危険なのは変わりない。
グレイヴ『ああ!どうすりゃいいんだよ!』
カイン『殺すか逃げるかの2択だ…』
グレイヴ『そんなの…』
「――逃げるの1択しかねー!」
グレイヴたちは遊具の隙間を見つけてそこから飛び降りた。グレイヴは毛玉になって落ちてきた2人を受け止める。ルートも飛び降りたが、グレイヴはコインをルートに投げつけた。
「これでも喰らえ!」
「…っ!」
煙が一気に放たれる。カインからいくつかもらった噴煙コインだ。煙が晴れるとグレイヴたちは既に部屋にはいなかった。
「あぁ、間一髪でしたね…」
3人はキッズステーションからかなり離れた地点の壁にもたれかかり、荒い呼吸を整える。
「でも、アルセーヌは助けられなかった」
またしても仲間を救えなかった。グレイヴは心に深い穴が開いたような感覚がして人型でうずくまる。
「俺は、英雄になれないのか…?」
機体の無事を確認したチェルルとマグネは機体をグレイヴの近くに置く。
「本当に、チェルルたちは無力、だね…」
全員気持ちは同じだ。そこへテレパシーが来る。
カイン『失敗したか?』
カインはこのことを予想していたらしく、明るそうだった。それが彼らの傷口に塩を塗る。
グレイヴ『他人事で済ませられるお前が羨ましいよ…』
グレイヴたちの周囲の空気がジメジメし始めたそのとき、カインはよどみなく伝えた。
カイン『作戦聞いてなかったのか?』
グレイヴ『へ?』
カインはおそらくため息をついていた。
カイン『その魔獣はおそらくルートの指示を受けている。だがメモは間違いなく洗脳される前のもの。だから、魔獣に発信機を仕掛けたじゃないか』
マグネ『あっ、そういえば餌に小型の機械入れてましたね!』
カイン『指示が洗脳前か後かの判断は難しかった。だがもしかすると魔獣使いの技で盗聴器になってる可能性がある。だから魔獣を引き離せ、とお前たちに説明したんだが?』
ここでグレイヴたちはフラッシュバックした。カインの説明を聞き流していたことを。
グレイヴ『ごめん、忘れてた…』
カイン『――だと思った。だが、おかげで周りの状況や位置がはっきりわかる。情報はその都度俺が送る』
グレイヴ『あっ、うん…。今度から人の話聞くよ…』
カイン『是非そうしてくれ。俺以外にもだ』
カインは反省するグレイヴを説教する。そして気を取り直してテレパシーを続けた。
カイン『…これで本格的に行動できる。今ローレライ全体の魔力の情報を読んだ』
チェルル『どうだった?』
全員が期待する中、カインは慎重に伝える。
カイン『警備員全員が洗脳者だというのは間違いない。それと――今俺はカジノルームで招待客に成りすましているんだが…。ディエゴを見つけた』
グレイヴ『ディエゴってウラヌスの親玉!?』
カイン『そうだ。それで現在、尾行している。実は船の中に大量の爆弾が発見された。これも転生者あるあるの1つ、”大きな爆発で目立ちたがる”だ。もしかしたら――』
グレイヴ『ウラヌスと関係が…?』
カイン『まぁ、そんなところだ。俺は尾行を続ける。現在カジノのルーレットにいる』
グレイヴたちはカインのことを助けたい一心だったが、カインの冷静な声がその心を冷ました。
グレイヴ『俺たちは作戦通りに進めるよ』
カイン『…そうしろ。あとA-1537の魔王に会っても絶対に協力させるな』
マグネ『どうしてです?』
カイン『人数が増えると計画が狂う』
それだけ伝わるとカインは離脱した。グレイヴはポケットの包み紙とアルセーヌの毛を掴んで握りしめる。
「俺たちは俺たちで、できることを――いやそれ以上のことをするぞ」
3人の決意は固まったのだった。
※この物語はフィクションです。




