表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
79/87

第79話 魔王の役目

 グレイヴとカインは無事列車から降りて、バスに乗っていたのだが――


 そこはバスというよりトラックと言えるくらいにすし詰め状態だった。


「サイボーグってこんな扱いなのかよ!」


 あまりの苦しさと暑さにグレイヴはカインの足元で悲鳴をあげる。


「こら、()()()。ボロを出すな」

(あぁ、この役だけは死んでも嫌だと思っているというのに…)


 今度はグレイヴとカインは「最近手術を受けたばかりのサイボーグ兄弟」という設定で変装していた。これはグレイヴのリクエストである。バスはサイボーグ専用で雑な扱いを受けていた。カインは不満がある中テレパシーを始める。


『俺のように国民扱いされているのが大半だ。だが、俺たちの設定のように”業務上や軍事目的のサイボーグ”は大抵こんな感じだ』


 グレイヴは操縦のレバーから手を離さないようにして丸い体のバランスを整える。


『確かに使用人も軍を引退した安物だったな。――あっ、わりっ』

『構わん。むしろそうしないとあのときはいけなかったんだ』


 しばらく時間がかかりそうだったので2人はテレパシーで話を続けることにした。


『そういやさ、さっき何だった?』

『”さっき”?…具体的に質問してくれ』

『ほら時計屋だよ。何の話してたんだよ』


 カインはヘルメットの下で呆れた顔をする。それはグレイヴには見えなかった。


『お前、貴族でありながら魔王の役目も知らないのか』

『役目って?』


 しばらく間があった。カインは言いたいことが山積みだったが、必死に整理して話す。


『魔王はな、世界のバランスを安定させる任務を受け持つ創造神様の使いだ。決してあのアホ勇者の言うような支配者ではない』


 グレイヴが複雑な表情を浮かべるのをカインは透視で見ていた。さらに続ける。


『その役目の1つで”有害な異世界転生者の排除”がある。暗殺だな。――詳しくは話せない』


 ここでやっとグレイヴも質問を始める。このときのカインはどこか冷めていないような不思議な生ぬるい空気が流れているような気がした。


『お前って、命ってどう思う?』

『ただの輪廻転生の一部。俺は1つの魂に執着しない。…辛いだけだからな』


 カインは即答した。沈黙があった後、カインは話題を変える。


『アポローンの石化、審判の日の前日の夜に解除しておいた。メアリーにこのことは伝えてあるから彼女がなんとかするだろう』

『あれ?そーいや魔剣はどうした?』

『しっかり元の土地に瘴気を戻しておいた。浄化の責任はお前が持て。もしも何も変化がなければ――今度は呼吸の間も与えない』


 カインの液晶マスクの下で瞳は血のような赤色に染まる。それをグレイヴはなんとなく空気で感じて身震いする。


(…なんか急に寒気が)


 カインは腕を組んでさらに説明を加える。


『正直言って俺は異世界転生者を好むことはできない。永遠の命を持ってしても――』

『じゃあクロエさんは?』


 カインは少し考えてから答える。言葉に迷いはなかった。


『クロエは最初嫌いだった。だが同居という形で”監視”を続けていくうちに彼女に惹かれた』


 突然の恋バナにグレイヴは少し楽しくなる。思い返せば、カインの家庭の話はあまり聞いたことがない。


『なぁ、クロエさんのどこが好きなんだよ?』

『…そうだな。まず、この世界を”現実”として受け入れている。前世は魔法も魔族もない世界だったらしいが、この世界もまた現実であることを記憶を取り戻していても理解している』


 このときのカインの瞳は綺麗な琥珀色だった。


『次は、前にも言ったが俺の恩人。この顔も設計してくれた』


 カインは液晶部分を軽くあげてほんの少し覗かれた人口皮膚を金属の指でなぞる。


『結構綺麗だもんなぁ…。なんかモデルとかいるのか?』

『詳しくは知らんが、前世の”オシ”の男性アイドルだそうだ。声がそっくりだったらしい』


 カインは”オシ”を棒読みで話す。グレイヴは彼の足を備えられたマジックハンドで軽くつついた。


『なんだよ…』

『推しってのは人生のエネルギーになるくらいのお気に入りって意味だよ』


 カインはなんだか自分が年寄り扱いされているような気がして、思わずグレイヴを蹴った。


「うわっ!」


 機械本体は45°ほど傾いてバスの急カーブの反動で鈍い音をたてて元に戻った。カインはそれを無視して話す。


『最後は、俺が魔王だと知っても全く態度を変えなかった。金持ちでも人外でもある、この俺を受け入れてくれたのが何よりも嬉しかった』

(…っておい、スルーかよ)


 そこでカインは会話を止めた。そして短く言う。


『ローレライに別の魔王がいる。そいつによると、”参加するはずの俺が集合時間になっても来ない”らしい』

『…は?でも、エントリーはされたんだよな?東雲に』


 カインはうなづく。思考を巡らせて言葉にしていく。


『おそらくだが、偽物の俺として参加はしないのではないか』

『――というと?』


 カインはグレイヴの入った黒い箱を抱えて人混みでつぶれないように自分の体で覆う。


『目的は”約束を無断で破る”という事実だ。俺は今まで商談や仕事に遅れたことはない。キャンセルもだ』


 ここでグレイヴはようやく理解した。


『…この大きなパーティーでドタキャンすれば、月影様の評判はガタ落ちってわけか!』

『まぁ、評判よりも信頼度が傷つくだろう。俺は勇者騒動の唯一の当事者でよく思われないからな』


 カインは顎に指を当てる。


(そうなると、作戦に変更を加える必要が…)


 考える暇もなく、バスはローレライが止まる大きな港に到着した。

※この物語はフィクションです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ