第76話 決戦前夜
――アポローン
グレイヴは石像だらけの町を歩き、ある場所に立ち止まった。カインがヘリコプターで降り立った噴水広場だ。そこでグレイヴは思い返している。
(カインがあのとき何も言わなかったら、今頃俺は何も知らずに死んでた)
グレイヴはカインに胸倉をつかまれた感覚を思い出す。あの黒く温度のない目には思い出すだけで体が縮まる感じがする。そして1枚の写真を見ていた。
「エリック、リリー、ルート…」
1番最近のアブソリュート・ソレイユの集合写真だ。3人の笑顔がグレイヴの胸を突き刺す。写真を大事に自分の財布の奥にしまい、大きな青白い半月を仰ぐ。
「お前たちのこと、無駄にはしないからな…」
夜風がグレイヴの燃え上がる心を冷ましているのであった。
*****
――リアーナ
カインは自分のタワーマンションの自室で1人、ペーパークラフトの最終確認を行っていた。
「最後の組み立ては俺がやったが、細部はわからないな…」
プロペラを指で回転させ、潜水艦の窓を全てしめ、タイヤの軸の位置を正す。ここは異常なかった。
「軸のバランス、よし。回転にブレはない。完成図と同じ部品は――あるな」
全て確認すると大きな車輪のついた何かにそれらを詰めた。
(…クロエ、俺がパーティーに行くと思っているようだな)
カインは昼間にクロエに言われたことを思い出す。
『カイン、今週末は例のパーティーでしょ?』
『…?――あ、あぁ…』(また騙されてるだなんて知ったら、クロエ泣くな)
『船の上なんてロマンティックね~』
『行きたいのか?』
『…ううん、子供にこういう贅沢はまだ早いと思うし。カインの仕事の邪魔したくないもの』
『…そうか、別に邪魔とは思ってないが』(何を言ってるんだ、俺)
『そう?ありがとう。でもやめとくわ』
(あのときは焦った。あれで『そこまで言うなら』と言われたらあいつらに人質取らせることになる)
カインは子供たちの寝室をドアから少しだけ覗いた。中ではティアとノア、そして最近生まれたフワフワの白くまの魔族のエースが川の字になって眠っている。とても可愛らしい光景だ。
「…いい夢を」
カインは主寝室でクロエの隣に充電器を首の後ろに繋げて眠ったのであった。
*****
――まだ明け方のアポローン
太陽も上がらないアポローンの天照寺邸に1羽のトンビがバルコニーに降りた。それに気づいたマグネは熟睡しているグレイヴとチェルルを叩き起こす。
「お、起きてください!決行の日ですよ!」
しかし、誰も起きない。チェルルはアルセーヌが嚙みついて激しく振り回したので無事起床。しかし、グレイヴは全く起きる傾向が見られない。
「起きてー!」
「…もう3時間」
「長っ!」
それを見かねたトンビはゆっくり元の――カインの姿に戻って窓を開けてベッドに近づくとカインは手のひらに氷の塊を生み出してそれを――グレイヴの顔面に放り投げた。
「う、うわあああ!!?」
「…起きろ、寝坊常習犯」
白い目で見ているカインをグレイヴは狸のまま怒っている。
「もっと普通に起こせよ!」
「起きなかったんだ。何が『もう3時間』だ。今日は審判の日だぞ」
カインはそのまま中の階段を降りて行った。グレイヴも身支度を整えて門の前に集まる。カインは通る声で杖を勢いよく突く。
「…点呼開始、1!」
続いて人型のグレイヴが手を挙げる。
「2!」
次にチェルルがアルセーヌに乗ってグレイヴたちに近づく。
「バウッ!」
「3、4!」
最後にマグネがチェルルの上に仁王立ちする。
「5です」
全て聞くとカインは拳を上に掲げる。
「これより、ラピスラズリ・ローレライ洗脳阻止計画を実行する!」
「さらわれたリーたちも助けるぞ~!」
グレイヴとカインは顔を見合わせて一回うなづいた。そして、2人拳を掲げる。
「「えい、えい…」」
全員が暗い空にそれぞれの拳を掲げた。
「「「オー!!!」」」
こうして決戦の火蓋がよどみなくすっぱりと切られたのであった。
――全てを平等に照らす太陽と裏の存在がある月。2人の異なる”正義”がこの計画で1つの点の交わる。
※この物語はフィクションです。




