第75話 ローレライアルバイト潜入作戦
――アポローン、天照寺邸
カインは転移魔法で邸宅の庭に到着した。既に全員来ている。
「今日は普段着?」
「別にいいだろ。立派な服だと怪しまれる」
カインはスーツではなく長袖のシャツにジーパンだった。眼鏡をかけて髪もまとめている。カインは眼鏡を正しグレイヴに尋ねる。
「それで、まずはお前の計画のプレゼンからだ」
「プレゼン?」
「…発表という意味だ」
カインは嫌な顔をしそうだったが椅子に座って一息つく。グレイヴはカインの前に立って説明した。
「ローレライにはバイトがあったんだ。それに参加して潜入だ」
「…それだけか?」
グレイヴはきょとんとしている。
「そうだけど?」
カインは深いため息をついて持参してきたノートパソコンをテーブルに置いてバイトページを開いた。
「…おい、計画するならちゃんと調べろ。――ほら、ほとんど資格か経験者の条件があるぞ」
「…えっ」
グレイヴはショックを受けていた。さらにカインは話を続ける。
「それに汽車はどうする。ローレライまで行く方法が完全に絶たれているんだぞ。この間抜け」
床に狸姿ですすり泣いているグレイヴにカインは呆れる。すると、アルセーヌが1枚の紙をグレイヴに渡した。
「…そ、そういや読んでなかった」
――『エリックとリリーに声は届かなくなった。俺も意識が薄れ始めている。奴らの話だとラピスラズリ・ローレライで夜の花火で外のデッキに集まった瞬間を狙って一気に洗脳光線を放つらしい。あと、わかったことだが光線を受けた奴らは” 音”に弱い』
これより後ろは激しく乱れているのでよく読めなかった。
「光線、か。音に弱いとは初めて知った。だがどういう音なのかは滲んで読めないな」
そのとき、バイトのページを動かす指を止めた。
「いいのがあった。清掃員だ」
「清掃員なら条件なさそうだな!」
「よし、これを人数分――あっ」
カインはある部分に目を止めた。
「このバイト、”サイボーグ限定”と書いてある」
少し考えていたグレイヴだったが、立ち上がって自信に満ちた青い目を見せた。
「大丈夫だ!俺が変化する」
カインは首を振った。
「いや、仮に外皮のみをつけても動きで気づかれる。――こういうのがいい」
カインはある画像を見せた。
「俺なら大丈夫そうだな。でもチェルルとマグネは?」
「そいつらはアンジュに頼んで荷物にまぎれさせる。アルセーヌも大人しいならいけるが…」
「全然ほえないから大丈夫だぞ」
「…そうか、ならこれを組み立てるぞ」
カインがリュックからいくつかの分厚い冊子を取り出した。
「それは?」
「ペーパークラフト。リアーナで開発された”実際に乗れる”マジッククラフトというシリーズだ。これを使って上手く潜入する」
カインは持っていたキットをテーブルに並べる。グレイヴは1つ1つ手に取り見ていった。
「…っと、『ウォーター:モーターボート』『電車:客室』『飛行機:レトロタイプ』『ウォーター:潜水艦』――色々あるんだな」
「まぁな、クロエが”ぷらもでる”とやらが趣味で同居してたときから作っていた。リアーナでは全世代に人気だ」
カインは小さめの工具箱を取り出す。ワンタッチで蓋を開くと、中には折り畳み式ナイフ、ピンセット、小さな筆付の接着剤まであった。
「これらを全て組み立てるが、――お前もやるか?」
カインは顔をグレイヴに向けずに耳を赤くする。グレイヴはカインの誘いが嬉しくてカインに抱き着いた。
「やる!やりたい!」
「…丁寧にやれよ。遊びじゃない。他の奴らも手伝え」
カインは冊子に目をやると、1つ手に取った。そしてその取扱説明書の両端を掴んで左右に引っ張ると、彼の両手にはそれぞれ同じ冊子があった。
「…増やした。作る度に2つにする。分担するぞ」
カインはグレイヴに一冊渡して、接着剤とピンセットを人数分渡す。
それから皆は組み立て始めた。カインは1人で、グレイヴは心配なのでチェルル、マグネ、アルセーヌを付かせた。カインはグレイヴに何度か組み立てながら注意する。
「おい、山折りと谷折り間違えるな。できるだけ皺や折れ目を減らせ。構造がもろくなる」
「わかってるって」
カインは慎重に説明書と照らし合わせて組み立てるのに対して、グレイヴはどこかガサツで背中を向けてても正直カインは怖かった。
(あいつは、他の奴らに任せているが、念のため呼びかけておくか…)
「…細かい部品なくすな。切り離すときバリを残すな。残ったらナイフで切れ、破くなよ。手汗で――」
「大丈夫ですよ、将軍。ワガハイらもいますので」
「…そうか」
さらに組み立てる。カインがグレイヴに任せた部品を見て再度呼びかけた。
「おい、接着剤は均一になるように塗れ。こうすると駆動が――」
「さっきからうるさいよ」
「…すまん」
チェルルの冷ややかなセリフで、それ以降カインは黙ってしまった。カインははみ出した接着剤をティッシュで拭い組み立てを進めていった。
(こうなるなら、俺とクロエでやれば…。いやクロエは産後でダメージが大きい。俺1人で…)
しかし、思ったときには既に遅かった。
「完成~したけど…」
「小さい…」
「チェルルとマグネでも乗れないぞ、これ」
完成すると、それらは全てミニチュアサイズだった。よくあるラジコンくらいの大きさだ。カインは説明書の使い方ページを見せた。
「使う時は別売りのスプレーをかける。この紙は頑丈で水濡れも対策されているから完成品を持ち運べばいい」
「スプレーは?」
「…ある。これだ」
カインはリュックから塗装用スプレーを出した。
「これをかけて地面、水面に置けば冊子に記載された人数分の大きさになる」
「リアーナってスゲー…」
カインは目を輝かせるグレイヴにカタログを渡す。
「今度、また作ろう」
グレイヴは嬉しすぎて狸姿で踊っていた。そこでカインは口を開く。
「なぁ、今更なんだが…」
「――ん?」
「いつから耳と尾を隠せるようになった」
「今それ聞く!?」
「だから言ったろ。”今更なんだが”と」
カインとグレイヴの仲は少し縮まったのであった。
※この物語はフィクションです。




