第74話 リアルにイレギュラーは付き物
数日が経ちカインは個人的にパーティーのことを調べていた。ここはアレゴールにある大きな造船所。カインはそこでカモメの姿になり潜入していた。
(この造船所、見習いが多いな…)
カインは次にトンビにゆっくり変化して焼きそばパンを食べている休憩中の作業員目掛けて突っ込んだ。
「うわっ!」
作業員は突然視界に現れた物体にひっくり返る。その一瞬の隙にベルトに備え付けられたキーと会員証を奪い取る。そのまま立ち去った。作業員は起き上がって腰のキーより別のものに目が向いた。
「…焼きそばパンの焼きそばだけない!」
カインはカモフラージュのため焼きそばもすったのだ。人目を盗んで戦闘服姿に戻り口いっぱいの焼きそばをすする。
(…意外と美味い)
カインは壁をヤモリのように張り付いて登り体を透明にする。そして、盗んだキーで特別な部屋に入り、中の情報を高速で見ながら暗記していく。瞳には字も形を成さないほど、速く流れていたがカインはそれらを瞬時に覚えてしまう。これはサイボーグではなくカイン個人の力だ。
(列車の駅は、これか…)
アレゴールはリアーナのはるか南の国でリアーナ同様に科学の発展で有名な国だ。しかし、アレゴールは列車や船など、大型のもので栄えている。そのため、駅と港は毎年変わり、その適切な条件に合うものがかなり多く絞りにくいのだ。
(攻略するには、まず相手より地形から…)
そして、カインは目当ての情報を発見した。
(切符の予約ページの親はこれだな?)
カインは休むことなく指を動かす。切符の登録者の人数に3人追加した。
(数だけで助かった。念のため、ダミーの顧客情報も入れておこう)
別の画面で3人、存在しない人物の偽情報を流した。しかし、そのとき――
「…!」
足音が聞こえた。誰かが入ろうとしている。そこでカインは機転を利かせてテレパシーで別の男性の声を送る。
『先輩、先輩!監督がお呼びですよ。至急第5クレーンまで来てください』
それを男は耳元で囁かれたと勘違いしてドアから去った。カインは安堵する。
(…念のため通気口から出よう)
カインは用が済んで、コンピューターのアクセス痕跡も削除して天井の通気口から部屋を出た。
*****
カモメの姿でカインはアレゴールの昼の空を飛んでいる。
(あと、行くポイントは…)
入ったのは大きな駅前のホテルだった。そのダクトにネズミに化けて入り、地下のコンピューターで同様に細工して予約をとった。顧客情報を入れるタイプだったので少しハードだった。
さらにそのホテルのコンピューターでもう1つ手に入れた。
――パーティーの招待状を1枚
セキュリティのため担当しているホテルに招待状のデータが入るのだが、それを知ってしまえば簡単に発行できてしまう。
(パスワードが”4649”のままだからな。これだから狙われる)
かっこよくやってるが、カインのやっていることはれっきとした犯罪である。絶対に真似してはいけない。
カインは地下のドアをゆっくり開ける。地下は決められた人物しか入れないため、埃がかぶってカビ臭い。人がいない――はずだった。
「何をしている!?そこを動くな!」
なんと警備員が1人いた。カインは無言で両手を挙げる。顔は周囲が薄暗くタートルネック状に隠れていたので気づかれてない。カインは警備員の声で会話する。
「…お疲れ様です」
「動くな!」
「動いてませんよ」
カインは目を細めて警備員がある程度近づいたところで――回し蹴りをした。早すぎて警備員は気付かなかった。後ろに飛ばされた警備員にカインは尋ねる。
「その格好、このホテルの従業員ではないですね」
「…!」
「一見すると警備員です。でも帽子の刺繡が違います。私はここに詳しいので」
警備員は顔をしかめていたが、電撃の走る警棒を抜いた。
「全ては、主様のため…!」
警備員はウラヌスの幹部見習いだったのだ。警備員は突撃してきた。――だが、カインは構えることなくその場で上手投げをして床に叩きつけた。警備員はそのまま水たまりになってしまった。
「システムは同じか…。燃やすのはやめたようだな」
カインは警備員――ウラヌスの幹部見習いの服を手に取り、長くて暗い廊下を歩き出した。手にあるその服は既に乾いていた。
*****
カインはリアーナのビルの屋上にカモメの姿で降り立ち、元の姿に戻って着地した。そして、すかさずマジホでグレイヴにチャットを送る。
カイン『すまない、工作に行ったが危うく感づかれるところだった。予約も切符も全て消されているだろう』
グレイヴ『噓だろ!?お前でもこんなに苦労するのか』
カイン『あぁ、それと俺の招待も勝手にキャンセルにされた』
グレイヴ『なんでだよ!?』
カイン『正確には”俺が承諾してないのに何者かが俺の代わりに参加することになった”が正しい』
グレイヴ『全然違うじゃねーか!――てことはもう、不可能なのか?』
”不可能”という言葉にカインは唇を噛む。
カイン『諦めるか?』
グレイヴ『そんなわけないだろ!?』
グレイヴ『俺も作戦考えたんだ。見てくれ!』
カインは「一応見てやるか」と下のリンクに触れる。バイトの募集ページだった。内容は極めて単純だった。
グレイヴ『どうだ!あそこのバイトになって入るんだ。なんか清掃員と警備員が空いてるらしいぜ』
カイン『あのな、あいつらはこういう雑魚から洗脳して芋づる式に仲間を増やすんだ。相手の思う壺だぞ』
しかし、カインは即席でファイルを作り直して送る。
カイン『やるなら、こうした方がいい。これなら安全だ』
ファイルは新しいロードマップだ。細かく丁寧に盛り込まれていてとてもわかりやすい。
グレイヴ『…そうした方が良さそうだな』
カイン『なんだ、乗り気じゃねぇな』
グレイヴ『いやまぁ、なんか俺の扱いがさ…』
カイン『やめるか?元は俺の火の不始末の始末をするだけ、お前はいなくてもいい』
グレイヴ『行くよっ!俺もエリックたちを助けなくちゃいけねー。そうだ、カイン』
カイン『なんだ』
グレイヴ『実はアポローンにアルセーヌだけ来たんだ』
カイン『洗脳の心配はないぞ。魔族限定だからな』
グレイヴ『そっか、良かった。ルートのメモを加えてきたんだ。ダイイングメッセージみたいな』
カインはそこで指を止める。わずかな電撃が彼の中を走り、口をゆがめた。
カイン『メモの真偽は俺が判断する。それと今アンジュから連絡もあった。洗脳はサイボーグには効かないからな。連絡先登録してよかった』
グレイヴ『マジ!?じゃあ戦力増えたな』
カイン『では今週末、アポローンの天照寺邸に戦闘要員を全て連れて集合だ。アンジュは現在あまり動けないらしい』
グレイヴが「OK」のスタンプを送るとカインはマジホをしまう。そして夕暮れの空を見上げていた。
(しかし、なぜ俺まで…相手は何も不審に思わなかったのか。だが、それにしても妙だな…)
カインの思考は止まることを知らない。彼の視界には各コンピューター前に設置した紙狐の視界が砂嵐になって映っていた。
※この物語はフィクションです。




