第73話 ローレライ乗船作戦!
翌日、リアーナの月影商会の最上階の自室ででカインはスーツに青いマントを羽織って1人チェスをやっていた。
「この駒を、こう動かすと…。隙が多いな…」
彼の前の黒い大きなドアにノックがされた。
「…開いてる、入れ」
清潔感のある雰囲気の部屋に赤い上着のサイズが大きめの貴族服を着たグレイヴが入ってきた。その側にチェルルとマグネもいる。カインはチェス盤を浮遊させて移動し、窓辺から部屋の中央のソファに座る。グレイヴたちも向かいの椅子に座った。
「…それで、今回の件だが」
カインは1枚の紙を前のガラスのテーブルに配置する。
「この度はアポローンでの暴動、お詫び申し上げます。天照寺様」
「あぁ、この俺だからこそ防げた。だが、次はないぞ」
そこで全員噴き出した。カインでさえ肩を小刻みに動かしている。
「…ふっ、あはは!なんだその堅苦しい礼!お前だと綺麗過ぎて逆に笑えるw」
「お前こそ、何が”次はないぞ”だ。弱者らしくて腹が痛い」
「お前痛みないだろw」
「…ばれたか」
わけのわからないまま釣られて笑うチェルルとマグネをよそに2人は笑う。しばらくしてやっと落ち着いて、全員姿勢を崩す。
「形としては国家の談判だが、堅苦しいと笑いがな…」
「普通に、普段通り喋ろう」
カインは咳払いして先ほど置いた紙に指を添えた。
「これは『誓約書』だ。どちらにせよ、俺が暴れたのは事実。石化は回復次第、解除しよう」
グレイヴはそれに目を通した。
――『私、カイン・月影はアポローンで暴動を起こし、危害を加えたことを深く謝罪しグレイヴ・天照寺と正式な契約を”友人”という形で結ぶことをここに誓う』
「…これだけ?」
「短い方が対等だろ…」
耳を赤くするカインにグレイヴは目に見えて明るくなり、近くの羽ペンで署名欄にサイン。そして狸に戻ってその横に肉球スタンプを押した。
「これでいいんだな?」
カインの顔には不敵な笑みがわずかにこぼれている。
「いいのか?裏もあるぞ…」
「え?」
グレイヴは慌てて人型で裏を確認する。
――『友人としてなら協力する。だから『ジル』ともう呼ぶな。それと使用人と主人の関係は絶たれていること、忘れるなよ』
カインのささやかな気持ちだった。
「カイン、ツンデレ~」
「こら、せめて”月影様”と呼んでください!」
「マグネだって、”ショーグン”じゃん」
チェルルとマグネが小さな言い争いを始める。しかし、カインはそれを片手で制した。
「…構わん。俺のことは好きに呼べ。ただし『ジル』や『天照寺の次男・使用人』は論外だ。あとこんな神聖なる場所で喧嘩するな」
カインはもう1枚紙を取り出す。
「それで、ラピスラズリ・ローレライのパーティーには?」
「無理だった」
カインは対して驚かない。
「まぁそうなるよな。お前の先祖は世界各国で借金のネットワークを編み出してきた。――誰も招待するわけがない」
グレイヴはわかりやすくしょげている。そんな彼の目に届く位置に手に持った紙を置いた。
「参加したいんだろ?仲間たちを取り戻すため」
「あ、当たり前だろ!」
グレイヴは紙を手に取る。
「あれに乗るにはいくつか方法がある。『貴族として参加』、これは先にアウトだ」
カインは続けた。
「一般人として入る方法がある。福引でもあるが、それは極めて困難だ。そこで、――俺の裏のパイプを使おうと思う」
カインの甘く毒のあるような声にグレイヴは顔を硬直させた。彼が持っていた紙は、ある店への地図だった。だが、切れていて肝心の場所がわからない。
「その店主、なんでも売ってくれるんだ。ルシファーからの付き合いでな。――そいつのおかげで俺はアポローンとの縁を完全に絶てた」
グレイヴは何かを飲み込む。
「なんか、すごい対価でもあるのか?」
「…いい質問だ」
カインは木札をいくつか出した。
「その質問を答えるには条件がある。その選択で決定しろ。さもないと教えられない」
グレイヴは考えた。
(これはかなり真っ黒だぞ…。だからって、どこにそれ以外の選択肢がある?)
「やる!やります!」
チェルルとマグネもうなづいていた。カインは口角を上げると木札を見せた。グレイヴはそれを奪い取り確認する。しかし、――それを見て言葉を失った。
「…っ!」
何も書かれてなかったのだ。前でカインは優雅に微笑んでいる。
「その店はな、100年前の話だぞ?既に店主が亡くなって閉店している。それに俺は情報は自分で得たもの以外、信じない主義だ」
まんまとグレイヴたちは騙された。カインは年季のあるそれらしい木の板を持っただけだったのだ。
「だ、騙しやがったのか…」
悔しそうに顔を真っ赤にして涙と鼻水を大量に出すグレイヴにカインは両手を挙げる。
「…おっと、怖いなぁ。なんだよ、せっかくユーモアを含ませたというのに…」
「お前って、たまに年上感が出るよな…」
カインは代わりに大きな紙を1枚テーブルに広げた。
「まぁ、こうやってだましたのは”奴らに立ち向かう覚悟があるのか”ということを確かめるためだった。許せ。――これはアポローン、リアーナからローレライまでの具体的な道順だ」
――『まず、リアーナの航空便で西にあるアレゴールに向かう。次に魔導列車で港へ(ここで予約が必要。途中ホテルに泊まるのでその予約も)、最後にローレライに乗る(招待状、パスポートが必要)』
「これが必須条件だ。それにウラヌスが関与するならここからだろう」
カインはロードマップの最初のコマを指さす。グレイヴは息を飲んだ。
「さっきの洗脳された奴らのことか?」
カインはうなづいた。そこでマグネが手を挙げる。
「…質問です」
「いいぞ、遠慮なく疑問は言え」
「…さっきから聞いているとウラヌスが関係していることが前提ですが、なぜですか?」
カインは姿勢を正した。
「…すまん、説明不足だったな。俺が個人的にパーティーのことを調べた結果、何者かがアクセスした形跡が残っていた。それで確認したところ、見られたのは金庫情報ではなく、顧客情報と警備員の配置図。防犯システム全般、さらに航路」
チェルルはテーブルに飛び乗った。
「それでなんで”うらぬす”なの?」
「あぁ、それは――これだ」
カインは左目を魔眼に変える。赤紫色の邪悪なそれがグレイヴたちをにらみつけ、やがて元に戻った。
「俺の魔眼は過去をも見通す。その結果、幹部の東雲という男が関与していた。…ここまで来ればクロ確定だろ」
グレイヴはそこで口を開く。
「東雲って海賊の格好のやつか?」
「そうだ。あいつは情報屋だが、かなり葬っている手練れだぞ…」
カインは話を進めた。
「それで招待状、予約の件だが、俺が裏で操作して辻褄を合わせよう、と言いたいところだが…」
カインはロードマップにチェスの黒い駒を浮遊させて置いていった。初めから順番に”ルーク”、”キング”、”クイーン”になっている。
「あいつらも警戒を強めてくる。だから、俺たちも対策する必要がある」
カインはロードマップを裏にして白紙を見せた。
「舗装された道では必ずやられる。”新たな作戦”を練ろう」
グレイヴはカインの真顔を見つめる。
「作戦って?」
「それは、これから調べて考える」
静かな部屋により緊張感が彼らの胸を突き刺した。
※この物語はフィクションです。




