第72話 孤独な太陽
リアーナの病院にカインたちは到着していた。カインは修理されている。アレックスがそんなときにやってきた。
「兄貴!看護師さんから聞きました!戻って来られたのですね…ってうわっ」
カインの姿にさぞ驚いただろう。カインの左目は空洞で頭から毛に混じって配線が出ている。さらに両足が破壊されて歩けなかった。カインは自身と繋がった画面に文字を表記する。
『アレックス、言っただろ。”そっちに行く”と』
「無事に戻ってきて欲しかったんです!せめて両腕は直してください!」
アレックスは涙目でガラス越しに怒鳴る。
『どういうことだ』
「今、奥さんが出産の真っ最中なんです!元気な父親の姿を見せてください!」
隣にいたグレイヴが代わりに大声で驚いた。
「えー!出産!?子供何人目?」
「3人目で男の子だそうです――ってあなたはアポローンの貴族、天照寺さんですか?初めまして、俺アレックス・松原と言います。ワイルド・ジョーカーのデザイナーで兄貴の1番弟子です」
「あ、どうも…」
自己紹介を済ませてグレイヴは近くの作業員に尋ねた。
「あとどのくらいかかるんですか?」
「あと――2時間は…」
「間に合わねーじゃんか!」
「大声出さないでください!」
「あ、すいません…」
グレイヴが戸惑う一方で、ベンチの下からピンク色の懐かしい存在が彼の顔にぶつかる。
「グレイヴ~」
「チェルル!?お前無事だったか!」
チェルルだった。チェルルは短く説明する。
「実はね、戦ってたら突然お空からセメント落ちてきたの。それでルートがチェルルを蹴り飛ばしたの」
「それで助かった、というわけですね」
「じゃあなんでリアーナに?」
「魔法陣に入ったの!すごい?」
チェルルはえっへんという顔をしている。そこにアレックスが車椅子を押してきた。
「とりあえず、兄貴は両腕の修理が終わったそうなので、包帯で隠しながら奥さんの病室に向かわせます」
「ああ、気を付けてくれ」
そしてアレックスはグレイヴたちに見送られながら廊下を早歩きしていった。完全に見えなくなると、グレイヴは泣き出す。
「うぅ…。ウラヌス…」
チェルルも同様だ。2人が泣く中、マグネはため息をつく。
「憎いのはわかりました。じゃあどうするんです?」
2人とも同じことを即答した。
「「ウラヌスと戦う!」」
*****
クロエは傍らの赤子を見守りながら、体力を回復させていた。
「カイン、来るかしら…」
隣のティアとノアは既に対面して満足そうだ。
「パパなら大丈夫」
「アレックスお兄ちゃんも言ってた!」
純粋な彼女たちの言葉にクロエは落ち着く。病室のドアが開かれた。
「クロエさん、兄貴が来ましたよ」
クロエは満面の笑みを、途中でやめた。
「何、その顔…」
カインは喋れなかった。アレックスは気まずい。
(そうだよな。仕事帰りの旦那がこんな姿だったら…)
アレックスはすぐにその場の空気を和ませる。
「実は兄貴、足の調子が悪いのに階段を5段飛ばしで登ったそうで…。そのとき転んでビルの30階から1階まで真っ逆さまに」
車椅子が自動的にベッドに近づいた。そして包帯からわずかに覗かれた右目で子供を見ると、そのまま去ろうとした。しかし、クロエはそれを止めた。
「カイン、抱っこできる?」
『できるが、なぜだ?』
クロエは前のめりになって真剣な眼差しで貫く。
「理由なんて、あなたが父親だからよ!」
『こんな姿でもか?』
「姿なんて関係ない!足がないから?目が1つしかないから?全身ひび割れてるから?そんなのこの世には腐るほどいるじゃないの」
カインは画面を消して再び車椅子を近づけて、赤子を膝に載せるように抱えた。続いてティアとノアもカインの車椅子に近づいた。カインのこのときの表情は見えなかった。
*****
――3時間後
カインはやっと完全に修理できた。2本足でちゃんと歩けている。
「…せっかくのめでたい日をこんな形で」
「だからいいわよ。階段は気を付けてね」
「あ、あぁ…」
クロエと話す中、グレイヴからチャットが届いた。
『話があるから屋上に来てくれないか?チェルルとマグネも一緒だぞ』
カインは病室を後にして屋上に向かった。屋上は夜空に照らされたビルの照明が綺麗だった。夜風の中、端の方で黄昏ているグレイヴたちを見つけて近づく。
「なんだ、こんなときに。まさか――」
「ウラヌスだよ」
カインの予想は怖いくらいに当たっていた。カインは近くの柵に寄りかかって煙草を吸う。
「お前、吸うのか?」
「まぁな、サイボーグ用の煙でないタイプだから、子供がいないところで」
「いいお父さん♪」
カインは舌打ちしたが、それを加えて語りだす。
「グレイヴ、お前はよく祠を復活させたな。それは褒めてやる」
「…でも、お前のメールは見落とした」
「まぁ、そこはまだまだだな。――紙じゃないのかとか文句ないのか?」
グレイヴは少しだけ黙ったが、よどみのない言葉を発する。
「言っても意味ない。それに冒険者でアポローンのどこなのかもわからないからな。届け先ないし、それに今の時代メールだろ」
「…お前も変わったな」
2人は少し笑っていると、チェルルがグレイヴの頭の上に飛び乗る。
「それで、ウラヌスに連れてかれちゃったリーたちはどうやって助ければいいの?」
「おい、失礼だろ」
グレイヴがチェルルを両手で掴んで注意しているとカインは加えるのをやめて真っ直ぐグレイヴたちの方を向いた。
「いいだろう。ウラヌスのこと、俺の知る全てを話す」
グレイヴたちは聞こうとしたが、マグネがくしゃみをした。さっきまで感じなかった寒気がする。
「…中で話さないか?それとこの後雨が降るようだ」
カインの提案で屋上の階段部屋に入った。そこで全てが語られる。カインはマジホの描画機能を使って説明した。
「まず、ウラヌスだが。彼らは”魔王覚醒組織”でな。ボスが魔王になるために部下を従え、悪行を行うという間抜けで最悪な集まりだ」
「じゃあ、カインはなんで入ったんだ?」
「…理由は簡単。金がなかったんだ。最初は幹部見習いで指示に従ってたが、バイトしてる間に昇格になって【幹部・ルシファー】になった」
カインはさらに続ける。
「ウラヌスにはな。ランクがある。1番下の使い魔【アシガル】、その上に【幹部見習い】、さらにその上に【幹部】、最後にトップがボスだ。当時50万はいたが――」
「カインは全員殺した…」
驚きを隠せないグレイヴにカインは首を横に振る。
「いや残っていたんだ…」
「うえぇっ!?」と皆声をあげたので、カインは人差し指をゆっくり口の前に持っていく。
「次期ボス候補だった、ディエゴ・七宝という女郎蜘蛛の男だ。写真あるぞ」
カインが液晶マスクを装着して画像を見せた。
「おー」
「はっきり映ってますね」
「…美味しそうな焼肉」
チェルルだけどうでもよかった。これは襲われる前に焼肉店で食べていたときに撮ったものだ。正面から煙のない瞬間を高画質で収めている。カインはマスクを外す。
「この男が先日、俺を襲ったサイボーグパーツ狙いだ」
沈黙の中、カインはマジホを別の画像に変える。
「それでウラヌスから仲間を助ける方法だが…。無事なら余程の幸福物だな」
「コウフクってラッキーってこと?」
「どういうことだよ」
カインは自分のこめかみに銃のように指を当てる。
「…洗脳されるんだ。それかあいつなら体の改造なんて線もある。そうなれば――」
「もう、助けられない」
マグネの静かな言葉で凍りつく。
「洗脳の解き方は知らん。力になれず、本当にすまない」
カインは画像を切り替えた。クルーザーだった。
「これは?」
「こいつは、”ラピスラズリ・ローレライ”という船だ。ここで来月貴族や富裕層を集めたパーティーが開かれる」
「それでどうしたの?」
カインはマジホをグレイヴに渡して両腕を組む。
「そのパーティーは一般客も入れてセキュリティがかなり緩い。そこにウラヌスが入れば――」
皆、黙っている。
(わからないのか…)
「入れば、彼らを洗脳して世界規模の経済ネットワークを手に入れられる。さらに派手なことをしても隠滅できる有力な味方ができるしな」
ここでグレイヴは理解した。
「――つまり、奴らはこの船にやってくる可能性が高いってことか?」
「まぁな…」
この情報にグレイヴたちは喜んだ。
――だが、カインにはわかっていた。これにはタイムリミット付の複数の試練があることを…。
※この物語はフィクションです。




