第70話 勇者城攻略
アブソリュート・ソレイユは城の近くまでやってきていた。だが、周りを動く石像がうじゃうじゃ徘徊している。マグネはグレイヴの肩で解説した。
「これは将軍の使い魔ですね」
「使い魔?」
エリックが質問すると、マグネは小さな指で示す。
「どの石像にも同じ魔法陣の紙が貼られている。そしてオーラで将軍が操っているかと」
「なるほどね…」
その一方でグレイヴはマジホに険しい顔をしていた。
(メールを見逃した場合のビジネス対処法…。『自分のクビ』!?――できね~)
「おい、グレイヴ!」
ルートの声でマジホから目を離した。とても真剣そうだ。
「こいつらは言わば”動く監視カメラ”。下手に近づけない」
グレイヴもうなづく。
「…だからって元は国民。破壊もできないな。戦闘は避けるぞ」
そのとき、全員の体が浮かんだ。
「?」
左右に分かれて落ちると、その真ん中に赤い太いレーザーが通り過ぎた。熱い空気が一瞬辺りを立ち込め、汗を誘う。
「あっぶねーな、おい」
地面に落ちたグレイヴが呟くと、チェルルは黒焦げのスクラップに近づいて破片を抱えて涙ぐむ。
「…チェルルの車が~」
「申し訳ございません。レーザーが来たので浮遊させました」
「…マグネかよ」
そのとき、石像が一斉にアブソリュート・ソレイユに集まりだした。アンジュは構える。
「気づかれたか…」
「グレイヴ、お前は先に行け!」
グレイヴ以外のメンバーが石像を食い止める。壊れないように注意しながら。
「んなこと…」
「これは僕らの問題じゃないよ。国の問題の責任はグレイヴが持って」
エリックも真っ直ぐな言葉にグレイヴは心を動かされる。そして背を向けた。
「…わかった。生きて帰って来いよ」
「ワガハイはグレイヴと行きます。将軍のことでサポートできるかもしれません」
「ああ、いいぜ」
グレイヴはマグネを引き連れて城を目指した。
「将軍は城の奥の中庭にいるようです」
「じゃあ突っ切るぞ」
しかし、そう簡単にはいかない。建物に入ると、瓦礫で中が崩壊している。奥の扉も塞がれてしまっていた。
「道が…」
「他の道だ。この城は7階建てだから、屋根に確か滑り台があったはずだ」
グレイヴは思い出していた。この城は小さい頃までは住んでいた。だが5歳で手放し、別荘でカインを雇ったのだ。住んでいたとき、父親に作ってもらった長い滑り台が屋根にあったことを思い出したのだ。滑り台は中庭に出るようになっている。
グレイヴは階段を駆け上がる。しかし、3階で崩れていた。
「戦機の中から行けそうです」
ちょうど階段に刺さった戦機に通気口があった。グレイヴは狸になってその中をトテトテと入り、内部に侵入した。
「スゲー、複雑」
中はSFに出そうなコンピューターやモニターだらけ。その中にある画面があった。
「『エクリプス計画』?」
資料のロックは外れていたので容易に開けた。その内容にグレイヴとマグネは息を飲む。
◇◇◇◇◇
――内容を要約するとこうだ。
まず、国民――アポローンの国境内にいる者を全て石化。次に魔剣でアポローンに眠る全ての瘴気、及びその原因となる霊魂を吸収させる。最後にその魔剣からカインにそれらを送り、彼の暴走でその瘴気を浄化させる。後はアポローンでただ1人の貴族、グレイヴによって瘴気を器ごと破壊すればよい。
◇◇◇◇◇
グレイヴはデスクに置かれた両手を強く握る。
「カイン、お前は…」
マグネの頭の上に雫が落ちる。グレイヴはマグネが声をかける前に立ち上がった。
「こうしちゃいられねー。あいつを止めるぞ」
「時間も書いてある。ワガハイがガイドしますね」
「よろしく頼んだ!」
グレイヴは内部のエレベーターや非常階段で戦機を駆け上がる。しかし、外に出ると――
「ここ、5階じゃねーか!」
「階段はダメですね…」
階段も壊れて、戦機は空間部分は5階までしかなかった。しかし、グレイヴは折れない。
「バルコニーから伝って、柱を登るぞ」
「できるんですか!?そんなこと」
「元は俺の家。ジャングルジムだと思えば簡単だよ」
グレイヴは長い廊下に歩き出し、立派な大理石のバルコニーに目をやる。
「確か、この赤い壺から…。1、2、3、――6!ここだ」
飾られたひび割れた壺の位置から柱を数え、6つ目で外に出た。ちょうど壁の装飾がボルダリングのようになっている。
「これを上がれば、6階の俺の部屋…」
グレイヴは人型で壁を横と縦に器用に登って、6階のベランダに着いた。窓は鍵がかかっていたが、グレイヴは魔法で一時的な穴を作って入った。胸いっぱいに空気を吸い込む。
「ああ、懐かしい匂いだな~…」
しかし、思い出に浸らず、部屋のドアに向かった。だが、瓦礫が邪魔で外に出られない。グレイヴは踵を返してベッドの下に潜り込み、マジホのライトで照らす。
「う~んと、ここに確か、抜け穴が――あった」
グレイヴはマグネをジェスチャーで呼び、狸に戻ってベッドの下の小さな穴から5階に降りた。
「5階ですよ!ここ」
「いいんだ。中にさえ入れれば」
慌てるマグネに対してグレイヴは平気そうだ。2人は5階のキッチンに入ると暖炉を探った。
「マグネ、この近くに隠し階段はないか?俺あまり覚えてないんだ。暖炉に行くところは覚えてるんだけど…」
「なんでこんなの知ってるんだい?」
疑問だらけのマグネにグレイヴは鼻を鳴らす。
「昔、借金取りが来たときの逃げ道、全部覚えたからな」
マグネは苦い表情だ。そして、グレイヴはシンクの壁のタイルを剝がしてレバーを発見した。
「見つけたぞ!」
レバーを倒して天井の換気扇が傾いて階段が出現する。
「よし、これで大丈夫だといいんだが…」
階段を上がったが、瓦礫も崩壊も少なく無事6階に上がれた。
「これでやっと6階ですね」
「7階に行く前に、あれを取らなきゃな」
「”あれ”?」
グレイヴは6階のある部屋に着いた。薪が大量に置かれた、倉庫みたいだ。
「ここはな、世界中の財宝があったらしいんだ。でも俺が生まれたときは既にこんなんでさ」
グレイヴは床のカーペットをめくって、裏に張り付いたおもちゃの鍵を取り出す。
「それは?」
「これはな、屋根の滑り台の鍵だよ。滑り始めに小さなドアがあってさ。壊しても良かったんだけど、思い出がさ」
グレイヴはどこか寂しい顔をしている。鍵をしまうと、部屋の壁を押して回転させる。
「ここが7階の入り口だぞ」
「え?」
「階段は6階まで。7階は屋根の構造そのものだから、隠し扉を使うんだ」
「借金取りですか?」
「…お前もわかってきたな」
壁から屋根の梁の上に辿り着いたグレイヴたちは、グレイヴの先導の元進んでいった。そして滑り台に到着した。
「よかった、どこも壊れてない」
「結構垂直ですね」
「スリルあるだろ?」
中庭に目をやると、中央の東屋でカインが短剣を握っていた。マグネが慌てだす。
「あれは、資料にあった、魔剣!あれを肉体に刺すと暴走するのは間違いない!」
「時間は?」
「あっ、あと5分!」
「い、急げ~」
グレイヴは鍵を開けて、滑り台を狸で転がりながら滑る。マグネはその上を玉乗りの要領で乗っていた。
(…ま、間に合え!)
滑り台を滑り降り、中庭に到着した彼らはすぐに東屋に向かった。
――しかし、着いた頃には、もう手遅れだった。
※この物語はフィクションです。




