第69話 エクリプス
――話はサミットに遡る
カインはこのとき、初めて瘴気の解決方法を口にした。
「解決策は2つだ」
皆の注目の中、カインはプロジェクターを表示する。
「1つはアポローンの破壊。瘴気の原因はマサムネ、もしくはその子孫たちが起こした数ある問題により生じた――言うなれば魔法のバグだ。しかも、アポローンにはその被害者の魂が悪霊となって、ずっと呪い続けている。これが環境問題の主な原因だ」
1人の女性が手を挙げる。
「それでは、その霊を全て祓うのは?」
「いい質問だ。それが最も平和的だ。だが、その魂の数があまりにも多すぎる。かつての俺ならできたかもしれないが、今はな…」
しばしの沈黙。カインは続けた。
「ただ、この方法は感覚の麻痺した国民ごと消さねばならない。言霊も瘴気の原因だからな。それに消したとしても彼らが新たな悪霊になる可能性だってある」
カインはプロジェクターを切り替えた。
「もう1つは瘴気、悪霊の自然消滅。この作戦は前に言った霊を全て祓う方法の次に平和的だ。俺自身もこれを勧める」
会議室は小さな歓喜の声に包まれる。ところどころ笑顔も見える。しかし、1人カインの顔には影が落ちていた。
「しかし、問題はその方法だ。あれだけの瘴気と魂、言霊を消滅するには、”器”が要る」
誰かが声を出す。
「器とは?」
「つまり生贄だ」
会議室の空気は一気に冷えた。
「ある人物にアポローンに眠るそれらを全て取り込ませてその人物を暴れさせる。器には条件がある」
カインは指を立てた。
「『アポローンと縁がある』『勇者が憎い』『膨大な魔力を持つ』『怨念に耐えられる体』。これらがその最低条件だな。失敗すればそいつが爆弾のようになって最悪国外にもばらまかれる」
参加者の誰かが立ち上がった。
「それでは、どちらも不可能。打つ手なし、ということですか?」
その瞬間カインは黙った。杖を突きながらしばらくグルグルプロジェクターの周りを歩いている。そして、止まった。
「…いるんだ。その適合者が」
カインは杖を自分の喉元に向けた。その瞬間、人々は息を飲んだ。
*****
――現在、アポローン
カインは剣型の戦機に1人乗り込み、天照寺家が最近手放した城にいた。カインは石造りの白い壁をなぞる。
「随分と年季が…。そうか、もう600年だもんな、早いな」
カインは乗り込んだ機体から1つの直方体の箱を取り出す。彼は目を細めて蓋をゆっくり開けた。
「…アポローンとリアーナ、双方の、そして世界のため」
箱の中にあったのは黒い刀身の短剣だった。
*****
一方で、グレイヴは8つ目の祠の場所で汗をかいていた。突然起こったことにパニックなのだ。
「…あぁ、やばいやばいやばい!」
エリックはマジホのニュースを見ていた。
「大変だ。アポローンがリアーナの要求を無視したことでリアーナが強行手段に出たんだって!グレイヴ、もしかして月影様から連絡なかった?『瘴気の問題解決しろ』みたいな」
グレイヴは恐る恐るマジホのメール画面を開き、一気に血の気が引いた。
「…ある」
『グレイヴ・天照寺
この度は突然申し訳ない。リアーナに其方の国の瘴気が国境を越えて広まっている。だから、それを
なんとかしてくれ。隣接した他国でも似たような被害は多い。風の噂だが、其方の国を破壊することを
考えている国もあるそうだ。瘴気の浄化方法は自分で調べろ。私はリアーナの代表者、そして其方の”
友人”として忠告する。
いいか、これは国家問題だ。もう少し自覚を持て。もしもこれを無視して2日経ったら、こちらが強
行手段に出る。よろしく頼んだぞ。
カイン・月影』
「がっつり既読スルーじゃないか!件名に『重要』と書いてあるだろ!」
「本当にごめん!」
「謝るのは私らじゃないよ」
グレイヴは重要な国家案件を見事に無視してしまったのだ。そして今に至る。グレイヴは車に乗り込んだ。
「俺、カインと話し合ってくる。チェルル、車出してくれ」
「え?でも…」
目をきょろきょろさせるチェルルにグレイヴは真剣になる。
「手遅れかどうかだなんて、まだわからねーだろ!俺は、またジルを――あいつを傷つけたんだ」
(…ジルって誰?)
そのとき、空が真っ暗になった。
「?」
「…なんだ、突然夜に」
その瞬間、近くの祠のクリスタルが黄緑色の光をじんわりと放ち始めた。他のクリスタルも同じような輝きを放ち、天に向かって1本の光の柱を生み出す。
「なんだ?」
「…これは、将軍のお力!」
マグネの発言の後、真っ黒の空に神秘的な鮮やかなオーロラが現れた。全員うっとりしている。
「…おぉ」
「綺麗ですぅ…」
しかし、それも束の間。その光の帯が地面に壁のように刺さった。それはゆっくり動いて近くの村を通り過ぎる。そして光に触れた者は――
「…!」
全員目を見開く。なんとオーロラに触れた人々は石像になってしまった。必死になって逃げる村人を容赦なく石にする。マグネは先導した。
「ワガハイも味方する。こちらです」
「わかるのか?」
「はい、ワガハイも妖精なのでガイドならできます。石化しない道を案内する」
「お前、敬語かため口どっちかにしろよ…」
そんなこんなでグレイヴたちは車に乗り込んでマグネの指示に従い、旧勇者城に向かったのだった。
*****
この様子をカインは紙狐を通して見ている。
「正義ごっこか…」
短剣を指先で回しながら、カインは戦機のコンピューターを操作していた。
※この物語はフィクションです。




