第68話 類は友を呼ぶ
旅館の方はアランの訴えにより、見事に倒産。地主としての地位も剝奪され、さらにリアーナからも追放となった。追放はネットの力である。
カインはクロエと中庭でゆっくり茶を飲んでいた。クロエもすっかり落ち着いている。
「お姉ちゃん、離婚して良かったわね」
「ああ、まさかだいぶ前に離婚届を提出したとはな…」
「まあ、記入済みの離婚届を旦那が脅しに使ってたらしいから自業自得ね。子供たちは皆孤児院に入ったのは残念だけど」
「しょうがないだろ。7人の女子なんてどこも引き取れない」
クロエは外で遊ぶティアとノアを見て、お腹をさする。
「私はいい母親になる。この子たちのためにも」
決意のある優しいその目にカインは微笑む。
「…そうだな、俺もかん――」
カインが言いかけたそのとき、大きな衝撃が伝わった。
――ドガーン、ガッシャーン!!
「うわぁーー!!」
あまりの衝撃でカインたちの体が一気に浮かぶ。お茶もひっくり返してしまった。
家の中から義父が走ってきた。
「どうしましたか、お義父さん」
「突然、空から大きなが、がしゃ…」
「がしゃ?何言ってるの」
義父は随分と慌てていて家の奥に逃げてしまった。カインは縁側を立ち上がる。
「…外で確認してくる。茶と子供たちを頼む」
「ええ、気を付けて!」
カインは一礼すると、玄関の黒いロングコートを羽織って外へ出た。音がした家の裏手に向かうと大きな黒いガシャ玉があった。
「何なんだこれは…」
カインはしばらく観察してると、玉から金属の柔軟性のある足が生えた。全部で10本。それらは手当たり次第に周囲のものを破壊し始める。この正体不明の物体はカインは魔眼で全て気づいた。
「…ディエゴ」
これはディエゴの仕組んだ機械兵器だった。カインは襟を正すと一気に走り出す。しかし、拳も刃も振るわない。迫りくる足を体をひねらせて次々に回避する。そして1本掴んで、胴体にぶつけた。
兵器はバランスを崩す。
「あまり頭は良くないようだな…」
カインは地面を滑りながらコートからあるものを取り出す。
「これを試すか」
カインは手で何かを握るともう一度走り出す。兵器もカインに身構えた。複数の足がカイン目掛けて襲い掛かった瞬間を狙って、カインは真下に滑り込む。
「間一髪、か」
カインの目の横には短い黒い髪が数本ゆっくり落ちている。そして兵器の真下に向かった。そして握っていた白い玉を地面にぶつけてそのまま逃げた。
――ボシュー…
カインが使ったのはけむり玉。だが、ただの煙ではない。カインは少し離れた地点で両手を勢い良く合わせて構える。
(…効いてくれ)
煙はだんだん濃くなる。
やがて兵器自体見えなくなり、煙が晴れると――
そこにパトカーのサイレンが聞こえた。警官が1人やってくる。
「月影様!」
「あぁ、ごくろうだな。さっきの謎の兵器ならどっかに行った。被害は?」
「…はい、初めの衝突で器物損壊が多く、怪我人はいますがいずれも軽傷です」
「そうか、俺も事情聴取に参加しよう」
警官は礼をすると、パトカーに乗り込み去っていった。そのときカインは微笑んでいた。彼の視界にはあるメッセージが。
――『カイン、7つ目攻略したぞ!次で最後だな』
グレイヴからの祠の報告だ。カインはけむり玉を叩きつけた場所に歩き出す。
(…この国のためだ。あいつらには燃え尽きてもらう)
そこにはわずかに光の細い筋が消えていった。
*****
――アポローン、8つ目の祠
グレイヴたちは祠の台座の前にいた。
「今回はトラップないね」
「7つ目の感電は大変でしたぁ」
グレイヴはコンパスをはめようとした瞬間、何かが手をかすめた。
「ん?――ってあー!」
グレイヴは自分の手を見て驚く。
「どうしたの?」
「コンパスがない!」
見上げると1羽の烏がコンパスを掴んでいる。
「おい返せ!」
しかし、その台座の前に煙が立ち込めた。一瞬で辺りを白くする。
「うぇ…」
「何なんだ…」
一同、口を覆う。煙が晴れると――
「なにこれ?ロボット?」
「胴体の模様が変わってるな。…ガシャ玉のようだ」
リアーナに出現していたはずのウラヌスの機械兵器だ。
烏の目が怪しく光る。
実は烏は紙狐が変化したものだ。カインはある目的のためコンパスを奪わせ、さらに兵器をアポローンのグレイヴたちの目の前に送り込んだのだ。
つまりカインの使ったけむり玉は、”転移機能付き噴煙”だったのだ。
兵器は目に映る台座に足を上げる。ルートがボウガンを構えた。
「危ねぇ!」
矢が足に当たったがびくともしない。
(…さあ、早くそれを壊せ)
烏は念力を発動してロボットを無理やり操作する。しかし、ロボットの体は浮き上がった。
「壊しちゃダメです…」
リリーがロボットの足を引っ張っていた。ロボットはじりじりと後ろに下がり始める。そこでルートは気づいた。
「もしかして、知能がないのか…」
エリックはその隙に引き金を引く。
「これで、どうだ!」
使ったのは粘度の高い接着剤。足の交差した部分を次々に接着する。しかし、――
「…って、うわあ!」
エリックに1本足が後ろから来た。真っ直ぐ鋭く尖っている。
それは、グレイヴの一閃で切り落とされた。額の汗を拭って一息つく。
「ちょうど手首のところが弱くて助かった」
背後に切り落とした足が鈍い音をたてて落ちる。それをルートがすかさず持ち上げた。
「尖っている…。これは使えそうだ」
ルートは怯えてたチェルルのところに向かう。
「チェルル、ちょっといいか?天照寺も」
「?」
グレイヴとチェルルはルートに注意を向ける。
「――という作戦だが、大丈夫か?」
グレイヴは自信満々に胸を張る。
「それならできるよ」
「チェルルも~」
話し終えたところでリリーが大きく飛ばされて3人の前に落ちた。疲労困憊の様子。
「…もう、ダメですぅ」
兵器は接着剤だらけのおぼつかない足で台座に向かい始める。
このまま自分の重みで壊すつもりだ。この時点でカインは操るのをやめている。兵器がターゲットを確定したからだ。
そのとき、グレイヴが宙返りした。
「…変化!巨大パチンコ」
パチンコになったのはいいが、性能が悪すぎてゴム紐が伸縮しない。そこでチェルルが体を細長く伸ばす。
「チェルル変化~」
可愛くパチンコのゴムに引っかかる。
「大海、花屋敷!疲れてるところ悪いが、パチンコの根本押さえてくれ!」
ルートの言う通り、皆掴むとルートはパチンコに切り落とした足をセットする。アンジュも押さえるのを手伝った。
「角度、座標、速度…。これで大丈夫だ。アルセーヌ!」
アルセーヌはルートの指示でチェルルにバフをかける。速く縮まるようにするためだ。
「…よし、離すぞ!」
パーツは、そのとき手から離された。
一直線に向かったそれは見事兵器を貫通。その場に倒れて動かなくなった。
*****
ロボットが破壊され、グレイヴは台座の無事を確認して安堵した。烏は消えてコンパスはちょうどグレイヴの前に落ちる。
「ああ、助かった」
そして、コンパスは最後の台座に無事はめられると、コンパスが光り出した。
「…うわ、なんだこれ」
全員目を固くつぶる。光が消えると目の前に妖精がいた。若い男性で褐色の肌で藤色の髪に青い羽、タキシードを着ている。顔は――普通だ。
「ようやく目覚めることができました。お礼申し上げます」
丁寧にお辞儀している。状況が飲み込めない皆は互いの顔を見る。
「なあ、あんた誰?」
妖精は驚いている。
「まさか、あなた、あのマサムネのご子息ですか?」
しばらく独り言をぶつぶつ思いつめた顔で言っている。
「…あいつは悪魔、絶対に悪い。あ、でも良い悪魔も…って矛盾してるじゃん!」
心が落ち着いたのか、再び向き合った。礼儀正しさはなく、同僚みたいな感じだ。
「まず、ワガハイはマグネ。昔、プラリネ様に仕えていた妖精です。奇襲で無理やり彼女にコンパスに変えられてました。何年くらい眠っていました?」
リリーが首を傾げる。
「そうですね。ざっと600年でしょうか」
マグネは手を挙げてわかりやすく喜ぶ。
「じゃあ、あいつは爺さんになって死んだか!」
しばらく喜んでいたが、周りの空気でマグネは咳払いした。
「ベルゼ将軍はどうしましたか?」
「ベルゼ?知らねぇな」
謎の人物の名前が出て、聞いてもないのにマグネは誇らしげに語りだす。
「ベルゼ将軍は魔王です。彼をプラリネ様が拾い、一気に将軍として小さな村の平和を保ちました。守衛騎士としての仕事が多く、とても正義感の強いお方で――」
「ベルゼさんがそんなに好きなのですね!」
リリーはマグネに温かく微笑んだ。一方でルートはマグネに尋ねる。
「魔王?番号はわかるか?」
マグネは顎に手をかける。
「番号?確か――」
そのとき、――ズドーン!
巨大な黒い剣型の物体がアポローンのある場所に刺さった。
「なんかが父さんが売り払った古城に刺さったぞ?」
グレイヴの父親が金のため売ってそのままになっていた城の真ん中に刺さった。そして柄の部分から紫色の霧が発生する。それはやがてある姿になった。それにアブソリュート・ソレイユは目を見開いた。
「…カイン」
「ベルゼ将軍!」
「「「え?」」」
ベルゼはカインの昔の名前だったのだ。マグネは号泣している。
「…あぁ、姿はかなり変っていますがそのオーラは将軍そのもの。ご生存だったのですね…」
大きく写されたカインは白いスーツだった。しかし、敵意があるような目つきだ。
『アポローンの民よ。私はリアーナの政府の代表で来た、カイン・月影』
カインは背中の権力者のマントを翻す。
『リアーナの要求だ。アポローンの地を全てリアーナの領地として譲渡しろ!』
そこでホログラムは消えた。グレイヴは固まっている。
「なんで…」
「月影様はグレイヴの味方じゃ…」
「…だが、リアーナの要求だよな」
「カイン様自身の声ではないはず…」
皆、突然のことに聞き始める。マグネは口を尖らせた。
「何言ってるんだ。ベルゼ――カインはこの地を憎んでいる。だから声がどうとかわからないだろ」
「いや、お前の言ってることがわからねーよ…」
グレイヴは鞘に収めた剣を強く握っていた。
※この物語はフィクションです。




