第67話 オリビアの葬儀
――クロエの姉のオリビアが亡くなった。
黒いスーツに黒いネクタイを締めて、カインは葬儀場に向かう。仕事で少し遅くなったのだ。中に入るとクロエが棺を抱えて泣いていた。その近くでティアとノアも黒い服を着ている。
(子供にわからねぇか。死なんてものが…)
カインの胸も締め付けられる。その死を平気で下していた自分を思い出して怖くなった。クロエは棺を垂直に持ち上げる。
「…そんな、お姉ちゃん!起きてよ~」
「おいこら、危ないだろ。お義姉さんも辛いだろ。お前1人の体じゃないんだ」
カインはクロエのお腹を優しく撫でるとクロエはゆっくり棺を元に戻す。カインは棺の中を見る。
(…包帯で顔が見えないな)
近くにいたスタッフに尋ねた。
「なぜ包帯が巻かれているんだ?」
代わりにクロエが説明した。
「交通事故だったんだって…。全身ぐちゃぐちゃだったみたいで修復できなかったそうよ…」
「ぐちゃぐちゃ~」
ノアが笑って復唱したせいで、返ってクロエを傷つけた。カインは咄嗟に2人の口を塞ぐ。
「こら、ここで言っていいことじゃない!」
カインも悲しくないわけではなかった。
「カイン泣いてるの?」
「…違う、これは冷却水だ」
両目から水がわずかに現れている。しかし、そんな中ティアが鼻を引く付かせた。
「なんか、煙の臭いするよ」
カインはすぐに前のろうそくと線香を指さす。
「あれじゃないのか?」
しかし、ティアは首を横に振る。するとカインもその臭いに気づいた。
(これは、線香じゃない…。煙草か!?)
カインは入口の”NO SMOKING”と大きく書かれた看板を確認する。すると、規則正しく並んだ席の後ろで煙草を吸ってマジホをいじっているオリビアの旦那がいた。奥の鏡越しに見えた画面にカインは驚愕する。
「…あいつ、マッチングアプリやってやがる」
泣いてたクロエがその一言に涙が止まって起き上がる。
「それって新しい相手探すってこと?」
カインは目を丸くしたまま、何ともない顔色の旦那を見て呟く。
「いや、チャット機能らしきところで何人も関係を持ってる。しかも5年前から…」
クロエは会場を見渡した。親戚がたくさんいる。でも全然安心できなかった。むしろキレていた。
「あのゴミが、私のお姉ちゃんを…」
カインはすぐにクロエを押さえた。そして頬に口付けをする。
「…!」
クロエは顔が真っ赤になった。カインはクロエを軽くハグする。
「…復讐は何も生まない。それはお前もわかってるだろ」
そのままクロエは顔から湯気を出して静かに座った。カインは少し微笑んだ。
(暴走しかけたクロエにはやはりこれが効くな…)
カインは唇を指でなぞってティアとノアを抱えて席に座った。
*****
それから式は進んだ。クロエの両親が涙ながらに言葉を述べる。しかし、――
「ねえ、ママー!これいつ終わんの?僕疲れちゃったよ~」
「はいはい、いい子でちゅね~」
旦那のマザコンでカインは目から冷却水より口からオイルが出そうだった。こんな感じで式は微妙な空気で進んでいった。途中棺の死者の顔を見るときカインは前のオリビアの旦那の言葉をしかと受け取った。
「――死んでくれて嬉しい」
最悪な言葉だ。
(早く訴訟こないか?アラン)
――式は無事終わり、お通夜になる。
大きなテーブルの上には豪華な食事があるが、誰も手を付けない。喉が詰まって食べることができないのだ。ある一家を除いて。
オリビアの旦那はアプリを開いたままビールをジョッキで飲んでいる。
「…嫁死んだから~、何しようかなぁ。せっかくだから他の子も呼んでパーティーを」
旦那の発言に一同耳を揃える。オリビアの親族はひそひそ話をする。
「今、”他の子”って言った?」
「あれマッチングアプリだ」
「しかも旦那が妻を嫁って…」
そして、ついに酔いの回った旦那は大声で叫んだ。
「「あはは、やっと嫁死んだ!これでママと暮らせる!」」
そのとき、天井に設置されていたモニターに画面が表示された。
――『ドッキリ大成功!』
カインはクロエにこっそり尋ねた。
「ドッキリってなんだ?」
「サプライズみたいなものよ。人が不幸に感じるけどネタ晴らしでハッピーみたいな」
「…ふむ」
すると、閉じられた棺の側面が引き戸になっていて、そこから中の包帯女が出てきた。現場は阿鼻叫喚だ。カインはクロエと子供たちを自分の背後に行かせ、近くにあった果物ナイフを構える。
「ゾンビか!?」
しかし、包帯が緩められると笑顔のオリビアが現れる。クロエは涙ながらに抱き着いた。
「お姉ちゃん!死んじゃったって聞いて怖かったよ」
「これはドッキリ。旦那の素性を暴くために芝居したんだ」
カインはその光景に感動したが、そのときナイフを持っていたことを忘れていた。ナイフを旦那に取られたのだ。そしてクロエたちを人質にする。
「全員動くな!」
皆、両腕を上げて荷物も床に落とす。カインも同じだ。カインは冷静に話す。
「要求はなんだ」
「俺がゲコだって誰にも言うな!」
(そっち!?…というか結構飲めるでしょ、あんた)
目を丸くする2人の一方でカインはため息をつき、静かに拳を握る。
(本当に呆れた。今すぐ大気圏まで送りてぇ…)
カインの黒い瞳はみるみるうちに赤紫色になっていく。しかし、――
――ドガーン!
表で大きな音が激しい地響きと共にした。その瞬間、旦那が離れたのでカインは瞬時に旦那の顎をかすめて気絶させた。部屋に備え付けられたバルコニーから覗くと旅館のあった山が噴火して山の上半分がなくなっていた。大きな煙が上がっている。
「あそこ火山の真上でそもそも土地が売られてなかった。だが、なぜか建てられてたんだ…」
クロエは隣でカインの顔を見る。
「え?火山?」
「ああ、近いうちに別の魔王があの一家をしばきにくるからお義姉さんに言っておいてくれ」
そのままカインは天高く登るキノコ雲を眺めていた。
※この物語はフィクションです。




