第66話 カインとアラン ~2人の魔王~
電話のあった翌日カインは実家の近くの小さな喫茶店である人物とあっていた。カインは優雅にコーヒーを口に含む。
「久しぶりだな。T-3298の魔王」
テーブルの向かいに座っていたのは大きめのサイズのフードを被ったパーカーの子供だ。片目がふわふわの髪で隠れていて目はつぶらだ。彼はココアを飲んでいる。袖も手が出ていない、可愛い男の子だ。
「その呼び方しないでよぉ。今は、”アラン・桜咲”だよ?君も随分変わったね」
アラン・桜咲は魔王番号T-3298の魔王である。カインはコーヒーのカップを静かに置いた。
「こうやって話すのも200年ぶりだな。どうだ、お前の方は」
「僕はね、今ギャルの極みを目指してる。可愛い僕が今インフルエンサーなんだ。シャルベットで働いてるよ」
カインは首を傾げる。言葉の意味がよくわからなかったのだ。シャルベットとはアポローンの北にある国で1年中冬である雪国だ。芸術の国として知られている。
少し間を置いて質問を変える。
「…つまり、職種は?」
「動画クリエーター、君とどこかでぶつかるかもね~。月影様」
お互い、現状を知れたところでカインは鞄の中身を探る。
「…それで、本題なんだがお前昔この辺りに温泉を出したか?」
カインはテーブルの上に小さめの地図を広げて、例の温泉旅館がある場所を指さした。しかし、アランは首を横に振る。
「いや、そんな覚えは…ってこれもしかして録音とかしてる?」
「…念のためだ」
カインは液晶マスクを取り付けて”●REC”という赤い文字を表示させた。瞳も赤い。
「こんな可愛い僕の声が取られちゃうの~?」
ここでアランは自分が可愛いアピールした。可愛いのは事実だがカインは冷めた表情のまま。
「続けてくれないか?」
カインは冷たく言い放つとアランはシュンとなる。
「はい、ごめんなさい…」
カインは短く息を吐く。
「それでだな、ここの地主覚えてるか?」
「…あぁ、あの自慢話大好きな――あ!ここもしかして最近そのバカな地主が建てた、全然サービスのなってないクソ旅館だ!」
アランは可愛いけど生意気で口が酷く悪い。カインは言いたいことをアランに代弁されて首をゆっくり縦に振った。
「正確には、”バカで無能な、地主の孫”だな」
「でもその孫が今の地主でバカで無能でドブ野郎なんでしょ?」
(…表現が汚いな)
カインは200年ぶりのアランの悪口に心が痛かった。正直あまり話したくない人物だ。そしてカインはテーブルに手をバンッと叩く。
「言い分はわかったから、話を進ませてくれないか?T-3298の魔王…」
影の落ちた笑顔のカインからただならぬオーラが発生する。店の照明が一瞬点滅した。アランもあざとい笑顔で背の高いカインを上目遣いで見る。彼からも同等のオーラが発せられて店が小刻みに揺れる。
「地震か?」
「いや、外は無事みたいよ?」
「…魔王様の見合いだよ」
店の中で人々は口々に話始める。しかし、2人ともすぐに落ち着いたので大事には至らなかった。
「今回は俺の元にその温泉を引けと依頼されてな。だが、俺の担当は金銭で、魔力や加護はな…」
アランは背もたれに小さな体を預ける。
「まあ、そうだよね~。僕も噂のこと上書きしてる。やっとなんとか大半は信じさせたけど、あそこ火山が噴火直前だよ?そこに建てるなって…」
「そうだよな。俺も知ってた。ただでさえ尊い歴史を持つだなんてホラばらまいておいて、無断で建設だなんてな」
カインは1枚紙をテーブルに置いた。”魔王加護訴訟状”と書かれている。カインは鋭い目つきでアランを貫く。
「…俺はあの山の担当じゃない、訴えるか?」
アランは黙っていた。しかし、質問を投げかける。
「訴えるにしても証拠が必要だね。――あるのかい?」
カインは静かに通話の録音装置を取り出して、さらに、あるスケッチブックを取り出す。アランはページをめくると、――
「これって…」
「現在の地主の妻が俺の親戚でな。彼女がこっそり送ってくれた。子供たちが明らかに父親から離れたい、さらに脱税の証言が細かく日記のように記されている。他にもあるぞ」
さらに6つのスケッチブックをテーブルに置いた。全て名前が書かれていてその日の天気やニュースなどもあったので信憑性は高い。
「これなら訴えられそうだね。で、そっちの機械は?」
カインは録音装置を起動する。まだ初対面でマザコンも闇も知らなかった頃の会話だ。
『初めまして、月影様。俺が地主っす』
『ああ、旅館を開くとはな。土地は持ってるのか?山奥だが…』
ここで決定的な発言を耳に入れる。
『――えぇ?地主はこの土地の主っすよ?地主は神様、だから何してもいいんす』
カインはそこでボタンを押して止めた。
「俺は常日頃から業務では記録をしている。最近になって録画になったが当時はまだ予算が無くてな。音だけだ」
アランも笑みを浮かべる。
「いや、充分だよ。日記はさらに信憑性を引き出してくれる。――訴えよう」
カインは待ってましたと訴訟状の側にペンを置いた。
「使い捨てだ。消えないから大丈夫だぞ」
「君も法律に詳しくなったね。昔の狂戦士はどこへ行ったのか…」
「何か言ったか?」
カインが鋭く睨むとアランは黙ってサインした。これで準備は万端――と思いきや…
――プルルルル…
カインのマジホが鳴った。
「電話だ。誰からだ…――クロエか」
「20年前に結婚した奥さん?」
「違う、7年前だ」
カインは電話を軽い気持ちでかけた。
「もしもし、クロエか?」
『…』
何も聞こえない。いや、すすり泣く声が聞こえた。クロエが精神的ダメージを受けてるのは確かだった。カインは目を細めた。
「どうした!クロエ!」
カインは心配で怖かった。ただでさえ妊娠中だ。パートナーの自分が全力で助けなくちゃいけない。やっとクロエが答えた。
『…お姉ちゃんが』
「お義姉さんがどうした!」
次の言葉がカインの胸を鋭く、一瞬で貫いた。
『お姉ちゃんが、死んじゃった…』
「なっ…」
店のドアのベルが静かに鳴っている。気まずくなったアランはカインの絶望的な表情を見てカインが渡した資料を回収して静かに店を出た。自分のココア代だけそっとテーブルに残して。カインはそれにも気づかないほど目の前が真っ暗だった。
※この物語はフィクションです。




