第65話 月影のある一日
7つ目の祠を攻略しているところをカインは紙狐越しに温かく見ていた。場所は実家だ。
クロエの実家は昔から絹糸の名産農家で、今はクロエの弟でアナグマの獣人のクリス・氷室が継いでいる。彼は地方の大学院生で絶賛婚活中。氷室はクロエの旧姓であり、クロエは3人兄弟の真ん中である。上には姉で人間のオリビアがいて彼女は結婚している。両親は母親が大柄なゴブリンで父親がドワーフ。クロエが前世の記憶を取り戻しても態度を変えない、素晴らしい家族だ。
――今回は、そのオリビアのお話。
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カインは実家で持ち込んできたパソコンを開いて仕事をしていた。そこへ義母が部屋に入ってくる。
「…いいかい、カイン君」
カインはパソコンの手を止めてドアの方を向いた。義母は少し眉を潜めている。
「どうしましたか。お義母さん、また電球でも切れましたか?」
カインはここでは敬語を使っている。また、呼び方の年齢はクロエに合わせているのでクリスは「クリス」、オリビアは「お姉さん」と呼び、両親は「お義父さん」「お義母さん」と呼んでいる。ため口でもいいと言っていたが、口調が荒いのでやめている。
話は戻って、義母の頼み。義母は「ちょっと下に」とカインを部屋から出した。すると、電話がかかっていた。オリビアの嫁ぎ先からだった。現在、クリスが受けている。
「あのすいません、今姉の旦那は――」
カインはため息をつく。受話器で相手がわからなくても、ネガティブな性格のクリスの挙動不審な顔と「姉の旦那」で全てわかった。カインは受話器にそっと近づく。
「…代われ」
「へ?」
クリスの同意の前に受話器を奪い取る。そして冷静に語る。
「お電話代わりました。こちらは――」
『ああ、ツッキーじゃん』
この品のないチャラ男は、オリビアの旦那だ。かなり名の知れた銘家で大地主から始まって今は旅館を営む。カインも結婚当初は家族の吉見で資金を出していたが、ある問題によりすぐにやめたのだ。それは――
『ねえママ~』
それを聞いただけでカインは吐きそうになる。この男、極度のマザコンなのだ。自分の脳みそがない。しかもカインにとって家族に依存する人物は汚物同然だ。カインは横にあるトイレのドアを確認すると、苦しい笑顔で話す。
「なあ、話すなら早くしてくれ。今見たいテレビが…」
『そうそう、実はさ。こっちにある温泉が枯れちゃったんだ』
「だから?」
『なんとか引いてもらえってママがさ~』
(うぅ…。気持ち悪い)
顔色が余程悪かったのか、義父が水の入ったコップを持ってきた。
「代わるか?」
「いえ、俺じゃないとダメなので…。水、いただきます」
カインは片手で両手を合わせる仕草をして水の一気に飲み干す。そして冷静に戻った。
「何度も言うが、無理だ。何せあの温泉は――」
『魔王様でしょ?温泉は魔王様ならいくらでも引けるでしょ?』
「どういう理屈だよ!――話は変わるが、さっきから赤子の泣き声が駄々洩れなんだが…」
オリビアのところの子供はなんと7人いる。全員女の子で種族は人間。しかし、旦那は女を見下して男が産まれるまで妊娠し続けた結果、現在に至る。
旅館には多くの従業員や親族がいるというのに誰も子育てを手伝ってくれない。おまけにクロエの話だとその旦那が愛する母親が裏で支配しているらしい。
(お姉さん、大丈夫なのか?結婚式で発狂してたぞ…)
カインは最後に見た、オリビアの結婚式の光景を思い出す。オリビアが酔ってもないのに暴れて、しまいにはカインが眠らせたのだ。旦那は平気そうだ。
『いいんだよ。女は泣かしときゃいいんで。まあ最後に嫁になればいいから。早く男生まれないかなぁ』
「気は確かか?俺だったら、声がうるさくてノイローゼだぞ」
『のいろーぜ?大丈夫だよ、嫁は女なんで』
「だからどういう理屈だよ…」
カインは呆れている。もう受話器の手が離したがっていた。カインははっきり述べた。
「お前、もう少し自分で考えろ!」
――ガチャン!
受話器を強制的に切った。そして、金属の爪先を速く床に叩きながら怒る。
「ああ、なんでわからないんだ…。本当にあいつとは馬が合わん」
グレイヴのことをなぜか思い出した。
(うるさくて、しつこくて…。似てるのになぜかあいつは良いな。――っ、何考えてるんだ)
カインは首を激しく振る。そして上の階段を上がりながら最後に言った。
「今後、お姉さんの旦那の電話は強制終了してください!」
クリスはそのとき言った。
「でも月影様、この問題は…」
カインは怒りを交えて即答する。
「あそこはそもそも別の魔王が担当している!契約書よく読めって話だ!」
(契約書?)
そのままカインは「外の空気吸ってくる」と踵を返して玄関に向かったのだ。それと入れ替わりにクロエがやってきた。
「カイン、電話大丈夫だった――って、あれ?」
「クロエ、カイン君なら外だよ」
クロエは大きなお腹を大事に抱えてリビングのソファに座る。そしてクロエはため息をつく。
「またお姉ちゃんのところ?懲りないね。」
クリスはクロエに膝掛けを持ってきた。窓の外ではティアとノアとカインが合流してバドミントンしている。それを眺めながらクロエは微笑む。
「耳でしか聞いてないけど、温泉だった?あそこ、温泉じゃなくてただのお湯だって話よね」
それを聞いて驚いた。義母が尋ねる。
「それ、本当なの?」
「ええ、昔なんか別の魔王様がね?海外の温泉の話をしたの。それを当時の地主さんが丸パクリして噂流したそうよ。今その魔王様が噂が偽りであると各地で話してるって」
クリスは顔をひきつらせた。
「じゃあ、なんで止まったの?」
「…さあ」
一家全員首を傾げるのであった。
※この物語はフィクションです。




