第64話 破壊された祠
車でアブソリュート・ソレイユが6つ目に到着すると、崩壊した古城があった。コンパスの反応もどこかおかしい。針がわずかに震えている。
「祠が壊された?」
開くはずの隠し扉がなかった。あるのは寂れて砕けてしまった城の跡のみ。冒険もここまでか…。そう思ったとき城の瓦礫の奥から魔獣が現れた。魔獣はタコの見た目だが丸い頭に大きな口がある。
「なにこれ、不気味な色だな…」
怖がっているエリックに対して、グレイヴはある違和感を感じた。
(この模様、見覚えが…)
タコの表面は赤黒く、怪しい紅色や青色のようなあらゆる色の模様がランダムに渦巻いている。模様が動いているので気味が悪い。しかし、彼らはこのときわからなかった。
エリックは銃を何発か撃つが、タコの体は酷くうねった。
「…なんだ?」
「柔らかすぎて攻撃が効かないとか…?」
アンジュは薙刀を大きく回す。上空で発生した竜巻を魔獣にぶつけたが、タコは竜巻の形にえぐれてすぐに戻ってしまった。完全にお手上げ状態だ。
――実はこれはディエゴが仕組んだものである。
この様子を魔法の鏡でディエゴは確認していた。その手には1つの空の瓶がある。
「”魔王の血”、なかなかええやん。こんな魔獣を生み出せるやなんて…」
ディエゴは”魔王の血”を使った。魔王の体はかなり特殊である。細胞を自分の力で増やして変化させられる。このおかげで再生もできるうえ、自分の体の一部から大魔法だって使える。今回は血単独で魔獣を作る黒魔術を使用した。ディエゴは残念そうに瓶を見つめる。
「これで血はあと1本、何に使ったらええ…。カインはんが戻れば手に入れ放題やのに…」
この血は100年前に先代がどこかから手に入れたものである。だが、その理由は不明のまま死んだ。ディエゴは思い返す。
(ルシファー、君はほんまにおもろい。感情的になると、もっとええのに…)
彼の脳裏にルシファーが黙って先代のボスの間で血の海の中背を向けて歩く場面があった。しかし、鏡の向こうで異変に気づく。
「なんや、一体!?」
*****
「なんだ?」
「…まさか、爆発!?」
タコが苦しみ始めたのだ。後ろでルートが金属製の瓶を持っている。しかし、蓋は閉じられていた。タコは体をよじらせると蒸気が上がる。そして下からドバドバと黒い液体が流れ出す。
「皆、下がれ!」
ルートの掛け声で皆魔獣から一斉に逃げる。
――そのままタコは咆哮を上げて完全に溶けてしまった。
黒い大きな水溜りも時もあまり経たない合間に蒸発して消えていく。全員ポカンとしていた。全く戦った気がしない。強敵の到来が一瞬でなくなったのだから無理もない。
「こいつ何だったんだ?」
続いてチェルルがアルセーヌの背中に飛び乗りルートの瓶を覗く。
「ルート、それ何?」
ルートは瓶を開けて見せた。真面目そうな顔で発せられたのは――
「ただのお茶だ」
全員空気が崩れる。しかし、ルートは続けた。
「――というのは冗談で、これはかつて強大な悪を退けたとされる秘薬でな。レシピ知っていたから1つ作ったんだ」
「秘薬?」
エリックは首を傾げる。ルートは手帳のメモを見せる。論文の切り抜きだ。
「30年前に大きな力を持った転生者が他国を支配しようとしたところをこの薬をかけて倒したらしいんだが、正直真偽は…」
「わからねーの?探偵はうやむやな情報を信用していいのか?そこはカインとなんか違うな」
煽るようなグレイヴの発言にルートは怒る。
「…探偵だからってなんだ!心配だったんだ、俺は!それと月影とあまり比べないでくれ」
真っ赤にしたルートの顔を見てグレイヴは数歩下がる。
「…あ、悪い」
グレイヴは奥に傾いた台座があったのでコンパスを穴に無理気味に入れた。おかげで6つ目もできた。
「…次、行こうか」
エリックの気の抜けた言葉で全員うなづいて車に乗って走らせた。
*****
それをカインは紙狐を通して見ていた。サミットはもう終わっている。
「あの血、まだ使えたか…太陽光で壊れたようだが…」
少し疑問が残っていた。
(溶ける前、コンパスが光ったな)
コンパスの仕組みはカインにもよくわからない。ある仮説があがった。
(まさか、あのコンパス…)
公園で遊ぶ子供たちをよそに、ただそのことをカインは考えていた。
(俺は、もう…)
そして、改めてその平和な光景に頬杖をついて目を細めるのであった。
※この物語はフィクションです。




