第59話 アンジュ復活!
3つ目の祠を終えて、アブソリュート・ソレイユは4つ目の祠を解放するためアポローンの北部にある時計塔跡地に到着した。全員コンパスを手がかりに周囲を探す。
「そういえばこの時計塔、100年前に異常な魔力減少が発生したらしいですよ?」
リリーの言葉にグレイヴはぞっとなる。時計塔は朽ちていたが、どこか物理的に破壊されたような痕跡が残っていたからだ。すると、グレイヴはコンパスの異常を察知した。
「うわっ、アッツ!針がめっちゃ回ってるぞ!」
コンパスが突然高熱を出して針が激しく回転し始めたのだ。すると、瓦礫の向こうから何者かがやってきた。鎧武者の恰好で顔が液晶のサイボーグだ。
「私はウラヌスの幹部、アンジュ。100年前に死んだが新たな主様の命により黄泉の国から舞い戻った」
声から女性だとわかるが液晶に2つの光しかないので表情がわからないせいか、女性騎士っぽさが強い。ルートは解析した。
「これは精神憑依タイプのサイボーグだな。肉体がない。しかし、どうやらコストに制限があったようだな」
エリックは銃を構える。
「…つまりボディは弱いってこと?じゃあ、勝ったも同然…」
エリックは真正面からアンジュに突進したが、アンジュは持っていた兜を被って尾を締めて薙刀で一瞬でエリックを叩き落としてしまった。
(はえ叩き…?)
皆あまりの単純さに思考が停止したが、アンジュの動きで我に返り次々に攻撃をしかけた。しかし、全て薙刀1本で対応されてエリック同様飛ばされてしまった。
地面に鈍い音をたてて叩きつけられたグレイヴは機転をきかせて剣を握る。
「…これならどうだ!」
グレイヴは剣に宿る魔力を全身にめぐらせて突進した。力で押し切る算段だ。しかし、アンジュはひるむことなく薙刀で受け止め弾く。しかし、今度はグレイヴが魔力で向かい風を起こしたため近距離は保てた。
「…遅い」
短くアンジュは言うと薙刀を上から振り下ろした。グレイヴは咄嗟に防御壁を作るがミシミシと音をたて壁が悲鳴をあげているのを感じた。
(…なんだこいつ。強い、というか重い!)
窮地に陥っていたグレイヴにルートはアルセーヌに指示を出す。
「アルセーヌ、突っ込め!アンジュの気をそらすんだ」
アルセーヌは電光石火の如くスピードでアンジュの横を突進したが、これはアンジュが体当たりでアルセーヌに反撃してしまったのでアルセーヌは地面に転がった。苦戦していると時計塔の大きな瓦礫の横から1人の男が現れた。
「…おーい、まだ指示話してないぞ」
やっと食い込んだ上半身を地面から抜いたエリックはその男に先に気づいた。
「…おじさん誰?」
「はぁぁぁあああ!?誰がおっさんだ!俺はまだ若いぞ。東雲と呼べ!ウラヌスの幹部だ。…なんでどいつもこいつも俺をおっさん呼ばわりして」
東雲は持っていたスパナを片手でへし折って怒る。その間にグレイヴはベルトを使って遠心力を利用してアンジュに蹴りを与えようとしたが、アンジュの薙刀の突風で大きく飛ばされた。
「クソ、手強いぞ。こいつ…!」
飛んだ拍子にルートに強くぶつかってしまった。
「うわっ…!」
「ごめん、ルート!」
そのとき、――バチン!
何もなかった空間に突然青い稲妻が走って、それがちょうどルートの背後に大きな青い穴となって現れた。そのまま穴は勢い良く2人を吸い込み始めた。
「「…うわっ、おおっと?」」
理解できずただ口を開く2人をついに完全に吸い込んでしまった。アルセーヌもリードに引っ張られて穴に遅れて吸い込まれる。穴が消えるとその場は静かになった。
*****
気がつくとルートとグレイヴは地面に倒れていた。どこか綺麗で背後の時計塔は全く破壊されていない。2人は辺りを見回す。
「なんだここ?」
「時計塔、こんなデザインだったのか…」
そのときグレイヴは巨大なゴブリンに捕まってしまった。大きな手は人型のグレイヴを容易に掴んでしまう。何か言ってるようだが言語が違っていてわからない。
「…なんだよお前?」
すると、ゴブリンがやってきた道からもう1人男がやってきた。
黒いコートを羽織った年上の男性で烏のような黒い短髪で体も鍛えられている。コートの内ポケットから現れたのはルシファーの仮面だった。男が仮面を付けると瞬時にグレイヴたちが知るルシファーの姿になり、風の如く速さでオーラをまとった手刀でゴブリンの首を落とした。グレイヴはゴブリンの体が倒れた拍子に自力で脱出した。ゴブリンの大きな首がゴロリと地面に転がる。
「…こいつがルシファーなのか?」
仮面を外して変身を解除したルシファーはグレイヴたちに歩み寄る。
「大丈夫か、冒険者たち」
ルシファーの言語はわかった。いや実際はテレパシーで言語を合わせているのだ。グレイヴは足元の血だまりとルシファーの右半分の血を見て言葉を失った。
(…え、えぐい)
すると、黙って見ていたルートが声をかける。
「あの、さっきのゴブリンは何かしたんですか?」
ルシファーは折っていた膝を伸ばす。そして転がった首を見る。
「こいつはうちの下っ端でな。ネズミだとわかったから始末したんだ」
「ネズミって何だ?」
グレイヴはルートに小声で尋ねる。
「スパイを意味する隠語だ」
このときグレイヴはルシファーの立ち振る舞いに既視感を覚えた。しかし、ルートは構わず質問する。
「あの、今っていつですか?」
ルシファーは一瞬背後の時計塔を見る。
「今は5時だが?」
「そうじゃなくて何年ですか?」
「…?アンタレス紀12年だが…」
ルートはそれで思わず後ろに倒れてしまった。キョトンとした顔のグレイヴに説明する。
「大変だ。俺たち100年前にきてしまったようだ…」
「はあぁ!?」
ルシファーは2人の様子に笑みを浮かべる。
「そうか、お前らは時空被害者か、通りで時間の歪みを感じるわけだ。俺のことは”ルシファー”でいい」
しかし、その優しい笑顔は静かな殺気に変わる。
「――ネズミの始末を見られたのと、俺を”ルシファー”と呼んだからな。お前らを骨の髄まで削ってやる」
――こうしてグレイヴとルートは、ルシファー――過去のカインと出会った。グレイヴたちは正体を知らないまま…
※この物語はフィクションです。




