第57話 旅立ちの時
目標金額を達成したアブソリュート・ソレイユはついにバニラの町を去ることにした。グレイヴは宿の部屋を一瞥する。これで見納めだ。宿から出るとバニラとメアリーがいた。2人の後ろには赤い布で覆われた大きな何かがある。
「あぁ、バニラ、姉ちゃん。わざわざ見送りに来てくれたの?」
すると、バニラは背後の布に手をかけた。
「これ、皆で作ったんだ。ギルドのお礼がしたくて…」
布が取られると、そこには大きな車があった。冒険者用の大型トラックのタイヤで、さらに天井がない。メアリーは追加で説明する。
「今までこれを作る材料の依頼だけを受けさせてたの。水陸両用で攻撃の機能はもちろん、他にも色々あるわ」
グレイヴは目を輝かせる。そして、自分が羽織っていたマントを取った。
「ついでなんだけど、姉ちゃん見てよ!」
グレイヴは今まで耳と尻尾が残っていたが、ギルドの依頼をこなしたおかげで完全に人間と変わらない姿になれるようになったのだ。メアリーは寂しそうにグレイヴの頭によじ登って耳のあったところをさする。
「ラブリーだったのに…もっと男前じゃない」
すると、ルートが咳払いして挙手をした。
「悪いが、誰か運転免許持ってる奴いるか?俺はないんだが」
するとチェルルがリリーの頭の上に無い鼻を鳴らして飛び乗った。リリーはチェルルを掴んで笑顔になる。
「チェルルは運転できますよぅ。とっても上手でカーチェイスの経験もありますぅ」
全員最後の言葉に開いた口が塞がらない。そんなわけでチェルルが運転することになった。チェルルはバニラからゴーグルを受け取り、ハンドルを握る。続いて全員乗った。
助手席にグレイヴが乗ると後ろのガラガラの後部座席に残りの皆も乗った。
「これ、いい技術だね。僕らのおかげだ!」
エリックはシートに座らず、不安定そうな後ろの部分に捕まる。リリーとルートは普通に座った。
「アルセーヌも乗せられるな。これなら移動は快適そうだ」
ルートは車の状態をよく確認してアルセーヌの鎖を短く持つ。そして、チェルルはゴーグルを装着してレバーを倒しエンジンをかけた。
「…とばすよ!コンパスは?」
「この前の鉱山の方向だ!」
バニラがグレイヴの近くにメアリーを抱えてやってきた。
「出かけるんだね…」
「気を付けて、ギルドは私に任せて、存分に暴れてきて」
それだけ聞くとグレイヴは敬礼に似たポーズをして了解を示した。
「行ってきます!」
「「行ってらっしゃい!」」
町中の人に見送られながら、グレイヴたちアブソリュート・ソレイユは華やかな飾りのある町から砂ぼこりを上げてアクセル全開で去ったのであった。
――これをフードを被った東雲が町で見ていたことを誰も知らない。
「あのコンパスが結界の鍵というわけか…。良いこと聞いたぜ」
そう呟いて町を去った彼を1匹の白い紙狐が見ていた。
*****
町から離れて鉱山に到着すると、コンパスの方向を確認して山の裏に着いた。すると、地面が渦巻き状に割れて地下へと続く螺旋階段が現れた。
「ここが2つ目か」
そして迷うことなく、その階段を降りた。この後アシガルが何人か入ろうとしたが、それは1匹の紙狐が一掃して元の紙切れを加えて姿を消した。
グレイヴたちは迷路に出くわした。入口に何か古代語が書かれている。ルートはすかさず調べる。
「…えっと、『目に見えるものだけが全てではない。その先に宝はある』だそうだ」
エリックは首を傾ける。
「目に見えるもの?どういうこと?」
グレイヴは眉をひそめる皆をまとめる。
「…とりあえず入って迷ってからだ」
重い大きな木製の古い扉が開かれた。迷路はトラップがあった。エリックの足元を見てグレイヴは指を指す。
「エリック、ワイヤー!」
「え?」
足元に張られた細いワイヤーに気づかず引っ掛けてしまい、エリックは反射的に音で伏せた。反対側の壁に3本の矢が刺さっている。
「慎重に行こう!」
「お前がな」
チェルルは心無い言葉をぶつける。その後ボタンやワイヤー、さらにはゴーレムトラップまでたくさんあったが、1つ目の反省も生かしてチームワークで対処していった。しかし、問題があった。
「ここ初めの扉じゃね?」
なんとどの道を進んでも必ずスタート地点に戻されてしまうのだ。ルートは複数の目で迷路を観察した。
「どうやらこの迷路全体にスタート地点に戻る魔法がかけられているようだ。がむしゃらに行けば体力が減るだけだ」
リリーは斧を握りしめる。
「実はさっき、白い石みたいなの見ちゃいました…。あれって」
全員身の毛がよだつ。このままだとアポローンどころか先に自分たちの未来が危うい。ルートは声を出した。
「もしかして入口のヒントじゃないか?」
そして、ルートは深く考えた。全ての音や匂い、五感を完全に使っている。
(”目に見えるものが全てではない”、つまり目を閉じろということか?しかし、壁が――)
そのとき、ルートは考えがよぎった。グレイヴに尋ねる。
「なぁ、月影は使用人の時どうやって歩いていた?」
グレイヴは昔のほこりを被った記憶を掘り起こす。
「カインは、――えっと…。手探りだった。あと杖を使ってた。いつだったか匂いや音でも気配でもわかるとか…」
そこでルートはチームを一瞥する。そして、魔法で姿を透明にした。全員眉をひそめる。
「何するん――アテッ!」
頭の後ろを軽く殴られた感覚がした。次にリリーも頭を抱える。
「痛いですぅ~」
グレイヴは頭をさすりながら空に向かって大声で叫ぶ。
「おい、ルート!どうしちまったんだ!?アルセーヌまでビビってるだろ?」
しかし、返ってきたのは自分のこだました声だけだ。その後チェルルもペショッとなる。
「いった~い」
しかし、隣のエリックだけが銃で透明な何かを防いでいた。すると、チョップを与えていたルートが姿を現してエリックの防いでいた手を握る。
「花屋敷!お前なら迷路から抜け出せる」
皆困惑する。突然仲間を殴ってきた人が何を言っているんだろうという目で。ルートは内心ため息をついて手を離す。
「目に見える壁を信じるな。つまり盲目の人なら辿り着ける。天照寺の言っていたことを考えると――」
リリーはそこで理解した。
「なるほど、気配など勘が冴えている人にしかゴールできない、ということですね!」
グレイヴはリリーの話でやっとルートの見解を理解した。
「それで透明になって不意打ちしたのか!」
ルートはうなづいて自分のネクタイを外す。
「皆手を繋げ。俺は”視える”から最後に並んで目隠しする。先頭は花屋敷だ」
そして、言われるがまま列になって縦になるように全員目をつぶってエリックの感覚だけを頼りに迷路を進んだ。
(本当に大丈夫か…。ここ確か大きな壁が…。いや目を頼るな、だった)
皆それは不安だ。見えないだけで真っ暗というわけでもないのに壁も皆の顔もわからないからだ。
(カインも、こんな気持ちだったのか?)
しばらくすると、まぶた越しでもわかるくらいに眩しい光が現れた。エリックは手を離す。
「皆、ゴールしたよ!台座は目の前だから目開けていいよ」
恐る恐る目を開くとガラス張りのガゼボのような場所に温かい光が降り注いでいた。中央に台座がある。グレイヴはすぐにコンパスをはめるとアナウンスが流れた。
――【認証完了しました。結界発動】
そして眩しい光に包まれると、全員車に雑に戻されていた。グレイヴは態勢を直して文句を言う。
「…もうちょっと丁寧に戻せ、よっと」
そして、コンパスの裏を確認した。すると、8つに放射状に分けられた模様がある。そのうち2つが白く残り6つは黒かった。エリックは後ろから声をかける。
「それ、祠の数じゃない?」
「…わぁっ!急に話しかけてくるなよ。もう少し気配出してくれ」
グレイヴの肩が跳ねた。そして、うなづいた。
「だとすると、残りは6つか…」
(切り替え早いな…)
ルートは少し感心してしまった。チェルルはいつの間にかゴーグルとエンジンの準備をしている。
「さぁ乗って!次行こう!」
こうして、鉱山を後にして3つ目の祠に向かったのであった。
※この物語はフィクションです。




