表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
56/85

第56話 エターナルクリスタルを手に入れろ!

 ――アポローンのギルドでメアリーは舞い込んできた依頼に目を通す。まだ外は暗く、日付は変わったというのにランタンを必要とする。しかし、誰もいないはずのメアリーの背後から声がした。


「…死にたいのか」


 カインだった。黒いスーツにサングラスをかけて髪を束ねている。しかし、その右手は銃口の形でメアリーに向いている。しかし、どこかのアホ狸と違ってメアリーは焦ることなく、紙の束を机に置く。


「私は職場の責務を全うしているだけ。魔王様に指図される筋合いはないです」


 カインは目を細める。彼からは今にも目の前の相手の喉を引き裂かんとする気配がした。メアリーに数歩歩いて近づく。


「…俺は確かにこの国を捨てた。業務に私情を挟むことを好まんのはよくわかる。だが、ここで足止めしておいてただで済むと思っているのか」


 声ははっきりしていて、まるで一筋の稲妻だ。しかし、メアリーは全く動揺しない。椅子からちょこんと降りてカインの足元に近づいた。そして上目遣いで静かに話す。


「D-7846の魔王様、何度も言うようですが、ここは私の職場です。ここで考えを改めれば、イヴたちは金欠で野垂れ死にます」

「それは少しオーバー…」


 カインの話を遮ってメアリーは続ける。先ほどの稲妻に負けないような強い言葉を。


「いえ、イヴならあり得ます。私の職務はギルドの基礎を練り上げること。そしてアポローンの経済の基礎を作る準備をすること。これにはイヴたちが必要です。それに仮にここで私が月影様の命令に従えば、それこそ月影様は私情を業務に挟んだことになります」

「…」


 カインは黙る。カインはさらに歩き出した。確実にメアリーにぶつかったはずの足が空気のように透き通る。カインはメアリーの背後の依頼の紙の山を一瞥すると、「ふっ」と静かに笑い、メアリーに顔だけ向ける。


「…勝手にしろ」


 そのままカインは霧のように姿を消した。その入れ替わりにグレイヴたちがやってきた。


「姉ちゃん、この前はありがとう!ボーナスと一緒に報酬宿に送ってくれて」


 グレイヴの溌剌とした声にメアリーは営業スマイルを向ける。重かった空気が一瞬で軽くなった。


「その様子じゃ、朝宿の主人に怒られたわね?入り口で倒れたら迷惑だから当然だけど」

「姉ちゃんも知ってたの?」


 グレイヴは驚いて数歩下がった。メアリーは微笑んだ。


「…届ける時に見たからね」


 グレイヴは顔を赤らめる。他のメンバーはその光景に笑っていた。そしてメアリーは紙を出した。


「これが今回の依頼よ。ちょっと難易度高めだけど、大丈夫かしら?」


 リリーは報酬金額に目を通す。そして、金銭メモを取り出して計算した。


「これで目標金額達成しそうです!ボーナスが役に立ちました!」

「…本当!?マジで!?」

「本当です。マジです」


 それを聞いた皆は喜んだ。祠探しの旅をすぐにでも再開したかったからだ。そして依頼を読んだ。


 依頼内容は、”エターナル・クリスタル”という魔法石を手に入れること。それは原始的な動力装置を作るときに必要な一次電池だが、現在、他国では使用されていない。町の北にある鉱山で採れるが地下にあってさらに有毒ガスという難関によって誰も採取したがらなかったのだ。メアリーはガスマスクを人数分置く。


「これ使って、あと鉱物採取セット。クリスタルは濡れると砕ける性質があるからこの瓶に入れてね」


 大きめのガラスの瓶を渡されてグレイヴたちはガスマスクを受け取ってギルドを立ち去った。ギルドのドアでグレイヴたちが見えなくなるとメアリーは少し涙をにじませた。


「…これで、最後」


 *****

 地図アプリを使ってなんとか鉱山にたどり着いた。しかし、鉱山の前に大きな看板があった。


 ――『崩れやすいので人数は1人まで』

「マジかよ?全員入れねーじゃん!」


 グレイヴは思わず声を荒げた。聞いてみたがエリックは湿気が嫌いでリリーは暗いところが苦手だ。


「チェルルはどうだ?」

「可愛いスライムにはできないよ」


 要するに嫌らしい。グレイヴはムッとした顔になる。


(なんかムカつくな…)


 ルートに目をやったが、ルートはそもそも体が大きいので体重を多い。


「俺は重量オーバーだ…。それにアルセーヌも使えないとなると不利だ」


 グレイヴは深いため息をついて、1歩前に出る。


「俺が行くよ。リーダーだし」


 全員しぶしぶうなづいてグレイヴが洞窟に入っていくのをハンカチを振りながら涙を噛み締めて見送った。まるで永遠の別れみたいだ。


(オーバー過ぎるんだよ…)


 そう思いながらガスマスクを装着して暗い洞窟をマジホの光を頼りに進んだ。それを紙狐が姿を消して密かに追っていた。マジホアプリでエターナル・クリスタルの特徴を調べる。


「…えっと、黒っぽい深緑の石で鋭く尖っているのか…。磁石があれば探しやすいのか」


 グレイヴは近くの石を拾ってそれをコンパスに変えた。これは冒険の成果で無機物を一定時間別のものに変化させる技。”無機物変化”とグレイヴは名付けた。予想通り、コンパスはある方向を示した。洞窟の奥の方だ。


「…こっちか、他はなんか白っぽいから見分けやすそうだな」


 グレイヴは奥に進んでいく。しばらくしてそれらしき石が大量にあった。グレイヴはあるアプリを開く。エリックから教わった、カメラでかざしたり音声の質問に対応したりする、”モントル”というアプリだ。これなら図鑑や検索にいちいちかける必要なくスムーズに冒険のヒントが得られる。


「…モントル、この中にエターナル・クリスタルはあるか?」


 すると、カメラ機能で体をぐるりと一周しその写真の黒い岩に赤く半透明に塗りつぶされる。


 ――【赤い部分が対象です。湿気や水に気を付けてください】


 音声で通知があると、グレイヴは早速採掘セットでクリスタルを瓶いっぱいに詰めた。さらに直射日光を避けるため、瓶を布で覆う。そして帰ろうと来た道を戻ろうとした。しかし、ここで紙狐が速やかに岩の柱を数本崩した。そのせいで道が塞がってしまった。


 ――ガラガラッ…


 グレイヴは崩れた瓦礫に手をかざす。


「噓だろ、壊せねぇ!…閉じ込められた!?」


 グレイヴはパニックになる前に深呼吸する。


「…落ち着け、俺。マジホで連絡すれば――」


 しかし、電波が来ておらず、圏外だった。洞窟の中に閉じ込めた犯人は言うまでもないが、グレイヴはそれを知らない。


「…まさか、ウラヌス!?」


(いや俺だよ…)


 その頃カインは紙狐でその慌てふためくグレイヴを見ていたが、彼は頬杖をついて口角を上げているだけだった。


(…さぁ、どうする)


 カインはグレイヴの完全な味方ではない。それどころかアポローンの復興なんて興味の対象外だ。彼の黒く何も感じ取れない瞳にはグレイヴがどう映っているのか…。


 *****

 グレイヴは完全に閉じ込められて真っ暗闇で座り込んでいた。マジホも真っ暗な画面を見せていて連絡もできない。


「…はぁ、なんで満充電だったのにこうなるんだよ~」


 それもカインだ。魔力で動くマジホのエネルギーを紙狐に吸収させたのだ。ざまぁされた元クズの名誉挽回の冒険ももはやここまでか――。しかし、ここでこの男は折れない。


「こうなったら、強行突破だ!」


 グレイヴには手段があった。瓶を抱えて宙返りする。


「変化解除!」


 狸に戻って剣の柄にしがみつき瓶を自身の体で覆うように持つ。そして剣を地面に突き刺して一気に炎の噴射した。


「これでジェットパワーだ!」


 なんと剣の刃から噴き出た炎でロケットのように真上に飛んだのだ。天井にモフモフの体が強くぶつかる。


「…ぐっ!」


 背骨に伝わる痛みが強い。だが、メンタルは鋼だ。そのまま火炎放射の勢いのまま天井を突き破って、真上に突き進んだ。


 *****

 その頃、鉱山の入り口ではアブソリュート・ソレイユのグレイヴ以外のメンバーが待っていた。


「遅いね」


 エリックは砂いじりしている。リリーはチェルルと遊んでいる。


「中で崩れる音がしましたけど、大丈夫でしょうかぁ?」


 ルートは寝ているアルセーヌを傍らに袋に詰まったおにぎりをたくさん食べている。


「平気だろ。あいつは絶望を知らん」


 皆グレイヴの危機に気づいていなかった。しかし、鉱山のてっぺんから「ドゴーン!」と大きな音と共に大量の砂利がなだれ落ちる。皆山の頂上に目がいく。ルートは両手の食べかけのおにぎりを口に押し込んだ。


「…な、何事だ!噴火か?――いや火山じゃないか」


 グレイヴがそのまま皆の上空に落下してきた。


「…う、うわあああぁぁぁーーー!!!誰か受け止めてくれぇー!」


 グレイヴは狸のまま大号泣している。すると、チェルルが即座に動いて落下地点に急いだ。


「チェルルが助ける!」


 チェルルは大きく空気を吸い込むと巨大化してグレイヴをクッションのように捕まえた。グレイヴは人型に戻ってバランスを安定させる。


「あぁ、背中が痛ぇ…」


 グレイヴはしぼんでいくチェルルから降りて瓶の布を外して中のクリスタルを見せた。


「やったね!」

「大きいですぅ」

「ボーナスもらえるかなぁ?」


 そしてルートはグレイヴに手を差し伸べる。


「瓶はエリックに持たせる。…傷だらけじゃないか、おぶってやる」


 そういうとルートはグレイヴをおんぶして帰り道を急いだ。それを追いかけるようにエリックたちも歩き出した。ルートはグレイヴから瓶を受け取り、エリックに投げる。


「…ほらよ」

「ちょ、待って!おっと…危ないでしょ?」


 エリックは自分の帽子で瓶を間一髪で受け止めた。しかし、ルートはお構いなしに歩いたのであった。


 *****

 ――それを紙狐は山の頂上から見ていた。

※この物語はフィクションです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ