第54話 ワンダーラテックスを手に入れろ!
前回のブラック鉱石で報酬は得られたが、その日の食費でまたしても一握りほどしか残せなかった。ルートがパンをほおばりながら白い目で残った金銭を見ている。
「…なんでこんなに減るんだろうな」
全く悪気を感じられない彼の様子にグレイヴは怒る。
「お前が言うなよ!だいたい食費が高いんだよ。もう少し自制しろ!」
飛び掛かろうとしたグレイヴをエリックとチェルルが全力で押さえて、訴えかける。
「…自滅エンドしないでよ!起こったことはしょうがないし、だいたい僕らが金銭管理してなかったのも悪い」
「おかげでチェルルたちはもっとギルドの依頼、受けられるよ?楽しいよ」
グレイヴはしばらくして頬を赤くして動きを止めた。チェルルはともかくとしてエリックの言うことは最もだ。
「ま、まぁ、そうだな…。リリー、今度はお前が管理してくれ。俺とルート以外なら誰でもいいけどリリーがしっかりしてそうだからな」
リリーは喜んでうなづいた。その横でチェルルを抱えたエリックが2人で頬を膨らませていた。早速町の宿からギルドに向かう。近所なので助かっている。ギルドには他のチームもカウンターで話していた。メアリーは1人で切り盛りしているが、大変そうだ。メアリーはグレイヴたちに気づいて手を振った。
「あ、今空いたから来てー!」
(…?)
このときルートはわずかな違和感を感じた。メアリーは何かを隠している。待合室にはまだ人が残っているのに真っ先にアブソリュート・ソレイユを呼んだのはなぜか…。そうこうしているうちにメアリーは依頼の紙を出す。
「今度は”ワンダーラテックス”をこの壺いっぱいに入れるの。この村の南にある森から採れるわ。工具はこれ。使い方読んでね」
メアリーはカウンターに小さなハンマーと金属製の短いパイプを置いた。チェルルは1つ尋ねた。
「…”ワンダーラテックス”ってなあに?」
質問のし方が可愛すぎる。メアリーは少し目を奪われたが、図鑑を取り出して見せた。
「”ワンダーラテックス”は、主にゴムを作る樹液でとても安価だけど加工に優れていて作り方次第で耐久性も上がるの。樹木はこういう赤い細長い木に黄色い渦巻き模様があるもので葉がないものが取れやすいわ。これはね他にも薬や――」
メアリーの長い説明にグレイヴは手刀で切る動作をした。
「ちょっと姉ちゃん、しゃべりすぎ…。日が暮れちゃうから」
メアリーは気づいて黙った。「ごめんね」と深く頭を下げた。丸くなって可愛い。そして、アブソリュート・ソレイユは南の森に進んだ。この町の南には大きな自然の温室がある。魔力の流れの偏りによって生じた”自然の奇跡”である。その中は森で葉もついている、アポローンで希少な自然を楽しめる場所だ。グレイヴは列の先頭でシャツの第一ボタンを外す。
「あぁ暑いな。ここ」
アポローンの気温は秋ぐらいに寒い。そのせいで体の慣らされたグレイヴは滝のような汗をかいていた。他のメンバーはなんともなさそうだった。ルートはアルセーヌに何かを嗅がせている。
「何してんだ?ルート」
グレイヴはルートの肩を叩く。ルートは私物であろう、ゴムボールを見せて説明する。
「アルセーヌのおもちゃで、ラテックスの場所を探すんだ。天然素材で同じだからな」
すると、アルセーヌは地面を嗅いである方向に走り出した。ルートはリードを外し忘れたせいで引きづられる。両足で踏ん張っているので、靴底がすり減りそうだ。
「アルセーヌ、見つけたか!?」
「おい、待てよ!」
続いてグレイヴたちも走り出す。アルセーヌは森中走り回った。時々1本の木を何周したり立ち止まったり、崖を行ったり来たりして明らかに遊んではいたが、全員追いかけ続けた。
「アルセーヌって、体力あるな…」
そろそろ体力の限界が近づいてきた。ルートだけはまだ涼しい顔だ。そして、アルセーヌはついに特定の場所で止まった。
(…走るか?動くか?)
皆止まった。アルセーヌは動かない。木があった。赤くて黄色い渦巻き模様でしかも葉が少ない。このとき、どこからか歓喜の「うぅ~」という声が聞こえた。誰でも良かった。
「…この木だ」
ルートの静かな声で全員涙を流した。汗が目に沁みる。
「やったー!もう走らなくて済む~」
こうして足の筋肉痛に耐えながら樹木から樹液を壺に移した。荷物はリリーの魔法の鞄でどんな大きなものでも入るので、壺はその場で出せた。今度は鞄に空きがあったのでグレイヴは台車にならずに済んだ。
「リリー、鞄の整理くらいしろよ。体が痛いんだぞ、あれ」
「ごめんなさいぃ。私も雑にゴミ袋代わりにしないようにします」
こうしてワンダーラテックスは無事にギルドに届けられて、報酬をもらえたのだった。しかし、――
「今回は少ないな…」
金銭が少なかった。前回の3分の2くらいだろうか。メアリーは説明する。
「ギルドの報酬は、もののレア度、距離、危険度で変わるの。でもアポローンにはその条件が満たしづらいの。やり繰りしてね」
目標金額までの道のりはまだまだ遠い。
*****
――その頃、リアーナでは…。
カインは自分の黒い革製の高価な椅子でペン先を嚙んでいた。月影商会の彼の部屋のデスクにはアブソリュート・ソレイユ結成の新聞と、もう1つ――断層の事件の原因が書かれた調査結果があった。カインの瞳は煮えたぎったワインのように赤かった。歯ぎしりもしている。綺麗に並んだ白い歯の列には人工物ではない小さな牙が輝いている。
「グレイヴ、やはりお前は…」
さらに監視カメラの役目を果たす紙狐により祠探しの旅が中断されていることを知っていた。カインは両腕を組んで足も組む。
「…少し絶望させてやるか」
カインは指を鳴らして背後に1体の紙狐を召喚して振り返り、それに息を吹きかける。すると白い紙狐が禍々しいオーラと共にみるみるうちに黒く染まった。魔法陣も黒から血文字を連想させるような赤に変わる。
――そのまま紙狐は姿を消した。
※この物語はフィクションです。




