第53話 ブラック鉱石を手に入れろ!
アブソリュート・ソレイユはすぐに祠探しの旅に出ようと思ったが、ギルドの依頼をいくつか受けてから去ることにした。理由は冒険の資金の調達だ。特にルートの食費がすごい。メアリーは早速1枚の紙を渡す。
「このディーアウト山の麓にある鉱石、”ブラック鉱石”をこの箱いっぱいになるまで採取するの。できる?」
依頼人はバニラだった。だからこそ、全員意見は一致した。
「…やるよ、姉ちゃん」
グレイヴの決意は硬かった。これは幼馴染だからという理由だけではなかった。
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そして、ディーアウト山に着いた。町から結構歩いたので全員疲れている。
「これじゃあ戦闘で体力温存できないよ…」
全くエリックの言う通りだ。体力が無ければ戦えない。魔力よりも物理的にそっちの方が大切だ。リリーはマジホで地図を確認した。メアリーからもらった鉱脈の地図だ。
(…話だとマジホからアプリで直接受けられるギルドが一般的って姉ちゃん言ってたな…。でもアポローンの技術的にアナログって…)
グレイヴの心の傷は深かった。アポローンはリアーナと比べると雲泥の差だがそれは他国と比べても技術的にかなり遅れている。マジホを持っているのはグレイヴか、バニラのような海外に行った経験のある者だけだ。
「グレイヴ、行くよ?こっちだって」
エリックの声に我に返り、グレイヴはエリックたちに続いた。やってきたのはゴツゴツとした岩だらけの場所だった。
ブラック鉱石はこの世界のごく一般的な鉱石で、価値はそこそこあり、加工にも優れている。鉱石の鉱脈は魔力の流れと直結しているため、アポローンでは採集可能かどうかわからない。そのため、手の付けられていなかったディーアウト山でしか取れなくなっていた。
「ブラック鉱石って、これか…。この辺りらしいけど」
グレイヴはマジホの検索画面から地面に目を凝らす。だが、鉱石特有の黒光りした物はなく、薄いグレーの岩しかなかった。しかし、ルートはボウガンを手に持っていた。
「馬鹿かお前。この下だ。ブラック鉱石は日光を嫌うって書いてあるだろ…」
そう言うとルートは引き金を引いた。矢がグレイヴの頬ギリギリを掠め、わずかに風を感じた。グレイヴの背筋が凍るのが目に見えてわかる。
――ボカーン!
爆発性の矢だったらしく、矢が刺さった大きな岩が爆発した。グレイヴの背後で距離が近すぎる。
「…ぐうぅ!」
爆風と砂ぼこり、さらには砂利が大量に舞って辺りを包む。グレイヴは手を真上に上げると風が発生して、それらを一気に飛ばした。ガッツポーズして笑顔になる。
「よっしゃ!いっちょ上がり!」
ルートはその様子に両腕を組んでため息をつく。
「…やはり監視役で俺が来て良かったな。こんなアホをリーダーにするだなんて…」
実はルートは未だにグレイヴのことを完全に信用していない。加入した理由も「監視役」という理由からだ。いつグレイヴが悪行を起こすかわからない。それが他のメンバーとは異なるところだ。
話は戻って、煙が晴れて岩のあったところには黒光りした鉱物がゴロゴロと転がっていた。ルートは地脈を読み慣れていたので地図から全て予測して、最も鉱石の集中した岩を狙ったのだ。グレイヴはメアリーからもらった箱を取り出して、岩に駆け寄る。
「皆集めろよ!箱デカいからさ」
箱はスイカが5個は入りそうなほど大きい。だから鉱石選びだなんて流暢なことはしていられない。
「チェルル、頑張る!」
意気込むチェルルに続いて他のメンバーも鉱石拾いをした。そして、しばらくして箱いっぱいになるまで鉱石は集めた。――しかし、問題はここからだ。
「クソっ、重てぇ…」
箱が重すぎて持ち上がらないのだ。リリーはルートに頼む。
「ルートさんは鬼ですよね?運べます?」
しかし、ルートも顔を曇らせていた。コートを脱いで袖を捲り上げ腕の包帯を見せる。血が滲んでいて痛々しい。
「さっき岩に爆発性の矢を撃ったときに、飛んできた破片で腕を怪我したんだ…。すまん」
エリックは頭を抱えた。
「じゃあ、交代で運ぶの~?」
しかし、チェルルはケロッとした顔だった。短い手をぴょこぴょこ動かす。
「まだ方法ならあるよ~」
その言葉を聞いてグレイヴに全員視線が向いた。グレイヴはわけがわからない。
「…は?方法?」
チェルルに耳元で話を聞いたあと、グレイヴは理解し、深呼吸して”あるもの”をイメージした。
「…変化!」
グレイヴが変化したのは台車だ。しかし、耳と尻尾がなくなっていたのは良かったが、カブトムシの角のような棒1本付けられた木製の板に車輪2つだけのものだった。エリックが文句を言う。
「ちょっとー、もう少し安定したものにしてくれない?」
グレイヴは台車のまま喋る。車輪と車体がガタガタ動く。
「どんなだよ!?」
「車輪は4つで、囲う壁が欲しいな。あと取っ手は棒1本じゃなくてコの字がいいと思うよ」
「…”こ”?こんな感じか?」
グレイヴは今度はクワガタの角のような棒2本に変化し直す。思わず全員地面に倒れた。
「…ありゃー、違うって!こういう形!」
エリックは”コ”をジェスチャーで表現した。グレイヴは全て理解して変化しなおしてリクエスト通りの台車になった。リリーが箱をグレイヴに載せて、後は皆で動かして移動する。
「なんでリーダーの俺が台車?…ゼッテーにくすぐんなよ、変化崩れるからな」
グレイヴだけが不満でしょうがなかった。そして、ギルドに戻ったところ、依頼人であるバニラがいた。バニラは大きく手を振った。
「…あ、おかえりー!グレイヴ大活躍だね!」
グレイヴは荷物を降ろされてやっと元の人型になる。両肩をグルグルと回してメリメリ言う腰をそらす。
「あぁ、重いもん長く乗っけられると全身痛ぇ…」
ギルドからメアリーもやってきて、氷袋をいくつかグレイヴの体に当てる。
「大変だったわね。言っとくけど、登録者の治療もギルドの役目だからやってるだけだからね!」
彼女は照れ隠しをしている。すぐに冷やされたおかげで、回復魔法もなしにグレイヴの痛みは少し楽になった。グレイヴは頭もさえてくると、バニラに問いかけた。
「そういや注文ないのに、これどうすんだよ?」
しばしの沈黙が漂った。しかし、バニラは笑顔を作る。
「…内緒~」
「?」
アブソリュート・ソレイユはこのとき誰もバニラの思考がわからなかった。
※この物語はフィクションです。




