第52話 絶対的な太陽
グレイヴはギルド設立のため、バニラと相談した。すると、バニラは手を叩いて喜んだ。
「それなら、空き地がいっぱいあるからそこ使ってよ。軽いテントくらいしか作れないけど部屋割りはするね」
そして翌日、メアリーが来る約束の日になりグレイヴは村の中央で1人待っていた。目の前には「建設予定地」と書かれた看板がある。風は冷たく、グレイヴは俯いたままで青い瞳は少しだけ揺れている。両手には指の爪が強く食い込んでいた。
(…姉ちゃん、本当に来るのか?カインの命令とはいえ承諾するかは――)
「…ふぎゃっ!」
グレイヴの頭上にボールが落ちた。その弾みで反射的にグレイヴは狸に戻る。グレイヴはボールから抜け出す。
「痛てて…。なんだよこれ」
「実の姉にそれはないんじゃない?…男前になったわね、イヴ」
ボールの正体はメアリーだった。話だと上空にワープしてしまいクッションが間に合わなかったそうだ。しかし、目が嘘だと言っている。
「…姉ちゃん、なんで?」
「なんではないわよ?私もゼロからギルドの基礎を練り上げたかったから…。でも、まさか二度と来るはずのなかった故郷が職場とはね…」
メアリーは丸いボディをひねらせて、どこか大人の女性らしさを醸し出していた。昔の影の薄い内気な少女とは大違いだ。呆然とするグレイヴにメアリーは手を叩いて目を覚まさせる。
「さて、契約書なんだけど…。旦那はあなたの未来を違約金として取るそうよ?だからペンを入れたら――」
「後戻りできない、か」
グレイヴの目には少し涙がにじむ。もう優しかった姉はもういない。今目の前のアルマジロはただの商売相手だ。
(…まぁそれはカインも変わらないんだけど)
しかし、グレイヴは涙を袖で拭い、迷うことなくメアリーの出した分厚い契約書を奪い、1番上の羊皮紙にサインをした。あまりにも即決だったのでメアリーは1歩下がる。
「…中、読まなくていいの?」
グレイヴは即答した。
「どうせわからねぇ。だから読まなかった。俺は全部捨ててでもアポローンを救うんだ」
メアリーは少し笑った。そしてパラパラと契約書の分厚い束をめくった。それを見てグレイヴは目を見開く。
「な、何も書いてない…」
「…うふふ」
実は契約書の束は1番上以外白紙だった。初めからグレイヴに危害を加えるつもりはなかったようだ。驚いたのはグレイヴだ。契約書をもう1度めくって見た。だが何度指を滑らせても、目をこすっても、狸に戻っても白紙であることに変わりはなかった。
「なんで…?姉ちゃん、俺のこと嫌いじゃないの…?」
「本当に子供っぽいわね。可愛い♡」
メアリーは我が子を愛でるような笑顔を向けていたが、すぐに横髪を指でよじって冷静になる。
「確かに嫌いよ?でも、私にもあなたとの楽しい思い出がある。だから、これが”姉の最後の仕事”。これからは、”ギルドの総責任者”になるからね。呼び方は『姉ちゃん』のままでいいわよ?」
「姉ちゃん…」
グレイヴは自分の体にたまっていた力が一気に抜けてその場で座り込んだ。カインと違ってメアリーは、血縁者でありグレイヴとの思い出は多い。彼女も”勇者の子孫”であることに何も変わりはなかった。グレイヴはやっと青空に目をやった。メアリーも丸い背中を地面に預け、コロンと寝転がった。
「アポローンにもこんな綺麗な青空があったのね。いつも黄土色なのに…」
「俺たちの成果だ!まだ隙間からしか見えねぇけど、これから目いっぱいに見えるデカい青空を見せてやる!」
グレイヴは気合いバッチリだ。それにメアリーは少しだけ微笑んだのだ。
*****
――かくして、ギルドはバニラの町に見事完成した。なんとメアリーの夫が建設まで関わってくれてボロボロのテントにはならず、立派な赤煉瓦造りの大きな建物が町のど真ん中にできた。
清潔感のあるカウンターではメアリーが木製のチェアに座って1つ1つ依頼をチェックしている。
このアポローンで初めてのギルドは、世界中に知れ渡る大ニュースとなり、魔王・月影の耳にももちろんそれは入った。彼はこの情報に曖昧な笑顔を見せていた…。
ギルドの大きな看板にグレイヴは圧倒される。
「これを、俺が…」
すごく嬉しかった。なぜこの機関をマサムネは設立しなかったのだろう。こんな人の心と物を動かすものを。物思いにふけっていると、後ろからエリックが声をかけた。同じく満足そうだ。
「…グレイヴって、すごいよね。太陽みたい」
グレイヴはその言葉に耳を赤くする。慌ててエリックに体を向けると満面の笑みが視界に飛び込む。
「…なんだよ、いきなり。それはお前らだって同じだろ?皆に平等に光を与えて幸福をもたらすってのは太陽の務めなんじゃないかって、俺は思うんだ」
グレイヴの発言に近くにいたリリーが上を一瞬見上げてすぐに視線を落とした。
「それならチーム名は、太陽をモチーフにしましょう!」
エリックは親指を立てた。グレイヴも同意見だ。後から来たルートも賛成だ。ルートはマジホを使いながら考える。
「それだとどうするか…。”太陽”だと地味だな。”サン”、”ラー”、”アマテラス”…。」
すると、チェルルが真ん中にやってきた。
「”ソレイユ”は、どう?チェルルのいた国でね、太陽と、輝きの意味があるんだ!」
(ソレイユ?ソレイユ…)
グレイヴは顔を下に向けて、手をポンと叩いた。
「”アブソリュート・ソレイユ”なんてどうだ?ダサいか?」
少し自信はなかった。先日のやり取りでグレイヴはネーミングセンスが絶望的だと感じていたからだ。しかし、実際は違った。
「いいんじゃない?かっこいいし」
「老若男女、種族問わずに加入できそうです!」
「ソレイユ、すごい!」
「”アブソリュート・ソレイユ”…。”絶対的な太陽”か。同一人物とは思えないほどいい名前だ」
こうして、グレイヴたちのチーム名はギルド完成と同時に”アブソリュート・ソレイユ”に決まり、早速ギルドに登録した。
――これから、グレイヴたち――アブソリュート・ソレイユはアポローン初のギルドの最も歴史あるチームとなる。
※この物語はフィクションです。




