第51話 途切れた縁を繋げ
グレイヴはメアリーのことを思い出していた。その日の晩ずっと彼の部屋からすすり泣く声がしていた。全ての愛を独占して自分が無能ということもわからず、その結果、アポローン全体を一層傾けた。だから今さら会いに行けない。
気づけば、日付は翌日の昼でルート以外誰もいなかった。
「皆どうしたんだ?」
ルートは床に敷かれた布の上の山積みのパンをほおばりながら答える。
「少しでも豊かにしようと原料の採集に向かったぞ。お前がよだれ垂らして寝てる間にな。目赤いぞ」
「…う、うん」
ルートが食べているパンを1つもらって横に並んで座る。グレイヴはパンを食べる気になれなかった。カインとメアリーの絶縁から、自分はなんて情けないんだという気持ちが彼の腹の中で渦巻いている。気を紛らわせたくてグレイヴはマジホでリアーナについて調べていた。画面にはあらゆる情報があったが、特に目についたのはカインのことだ。
(やっぱスゲーな…)
カインは2児の父だというのに、多くの会社を立ち上げて経済を回している。月影商会も脈は国境を越えていて、リアーナの経済の心臓と言っても過言ではない。それに比べてグレイヴはいてもいなくても対して変わらない。チームに自分がいなくても正直わからないだろうと思ってしまった。
(あぁ、俺は何のために生まれたんだ。そもそも生まれてこなきゃ…)
そう思いながらマジホに指を滑らせていると、ある記事が目に入った。
――リアーナ・ギルドセンターの告知だ。
「ルート、これなんだ?」
「…んぐっ!」
ルートは突然の質問にパンを喉に詰まらせて胸を叩いていたが、水で無理に流し込む。すぐにキリッとした顔になる。
「それはギルド。簡単に言えば悩み相談を受け持つところだ。例えば…」
(…切り替え早っ‼)
ルートはグレイヴのマジホに手を伸ばしてギルドセンターの公式サイトを操作する。ちょうど事例などがあって具体的に説明されているところがあった。
「『火炎草を10枚集めろ』『ブルーアントを指定数倒せ』…。他にもあるなぁ。バトル以外の錬金術まであるぞ」
「報酬もなかなかいいみたいだな。…見ろ、月影もやってるらしい」
サイトの上部に公式のモデルとして実際に加入者のカインが写っている。このとき、グレイヴの頭の中で電球が光った。同時に前にエリックが言っていたことを思い出す。
――『アポローンはね、”通過点”なんだよ』
グレイヴはルートの両肩を掴んだ。あまりにも突然過ぎて今度は飲んでいた水を噴く。顔を咄嗟に横に向けたのでグレイヴにかからずに済んだ。
「なぁ、通過点なら冒険者は多いよな?」
「…な、何の話かわからんがそうじゃないか?」
このときグレイヴの尻尾は一気に上がった。目も輝いている。
「なんなら、アポローンにギルドを作らねぇか?これで通っている冒険者たちに採集させるんだ」
ルートもハンカチで口を拭いながらうなづく。
「なるほど、それなら採集と製作の流れを作れるな…。だが、そうなると課題があるな」
グレイヴも気づいていた。これは国家ぐるみの政策。だからそれなりの予算とギルドの専門家を必要とする。結局、金銭関係の問題がグレイヴたちを苦しめた。
「あぁ、カインは金出さなそうだし。これじゃ、あては探すしかないか…。先祖がやらかしてないところあったかな」
そんなときだった。外出していたエリック、リリー、チェルルが帰ってきた。
「大変だ!メアリーさんのことわかったよ」
「リーの魔法で魔界と天界に連絡したらわかったんだ~」
エリックとチェルルは真っ先に情報を伝える。そして、リリーが神楽鈴を前に抱えて前に出た。
「メアリーさんは、魔界の悪魔と結婚して自身も魔界に住んでいたそうです」
「…悪魔!?しかも結婚!?なんで?」
リリーは首を横に振る。急な展開にグレイヴはついていけない。リリーはさらに続けた。
「…でもどうやら最近この世界の海外でギルドを設立したそうですが、不景気で倒産」
そこでグレイヴは口を挟んだ。
「い、今ギルドって言ったか?」
「…え?言いましたよぅ。あ、ギルド知りませんでした?」
グレイヴは激しく首を横に振って、さっきまでルートと話していたギルドのことを全て包み隠さず説明した。すると、リリーは神楽鈴を上に掲げる。
「それなら、旦那さんに直接お話してメアリーさんを呼びましょう」
だが、グレイヴには疑問がよぎった。
「…俺がいる故郷の手助け、しかも俺の頼みだけど聞いてくれるかな?」
「あっ…」
全員そこで静止した。リリーの手が下がる。エリックは帽子のつばを掴んで顔を隠した。
「彼女がどんなことをされたかわからないけど、快く受けてくれないだろうね」
「旦那さんは悪魔ですので、いつしっぺ返しがくるかわかりません…」
ここで試合は終了――と思いきや、床から青い煙が立ち上った。グレイヴは驚きのあまり狸に戻ってルートの頭の上によじ登る。
「…か、火事だぁ!」
やがて煙が筋から一定の塊になると、そこから静かで凛とした知っている声がした。
「…俺だ」
煙で騒ぐなか、それから現れたのはカインだった。でも少し青みがかっていて上半身しかないし少し透けてる。
「ギルドの件、俺も勝手ながら聞かせてもらった。盗み聞きしたこと、まずは詫びる」
カインは深く頭を下げた。姿勢がしなやかで品があり、それだけで注目を集めさせる。カインは幻を使って姿を見せていて実際には来ていなかった。グレイヴはまだルートにしがみついて震えている。
「…で、ななな、なんで今回は直接来なかったんだよ…?」
グレイヴの質問にカインは呆れる。目に少しだけ力が入っていた。
「聞くとこそこか?…まぁいい、今回は手短に済ませるためメッセージのみだ。それで天照寺家の長女の件だが、彼女の夫は実は俺の部下なんだ。それに除籍の手続きと脱走に手を貸したのも俺」
そこで全員思わず「えぇーー!!!?」と声を出してしまった。リリーはそこで手を挙げる。
「あの質問よろしいでしょうか?」
「なんだ、大海のお嬢」
「はい、調べた悪魔の――メアリーさんの旦那さんの仕える魔王の番号が”D-7846”だったんですが…」
「魔王の番号?」
リリーとカインは真剣に話しているのにグレイヴが呟いたため、代わりにルートが説明する。
「魔王は複数いるからな。だいたいエネルギー体で実体を持たないが、月影のように肉体を持って多くの世界で直接動く者だっている。だから番号がある」
グレイヴは納得するとカインは咳払いして注意を向けさせた。
「…あぁ俺は”D-7846”の魔王だ。それで今回の件、俺が話を通す。金は部下に任せる。契約だから覚悟しろよ」
それだけ言ってカインの幻は消え去った。バニラの工房の屋根の上に1匹の紙狐がいたが、誰も気づくことなく、それは空気のようにいなくなった。
※この物語はフィクションです。




