第49話 旧友との再会
カインの説明を受け、日付が変わった後再びグレイヴたちは歩き出した。だが、祠の解放とは別にもう1つ課題ができた。――チーム名だ。
「…チーム名、『英雄団2号』なんてどうだ?」
グレイヴは歩きながら長考して自信たっぷりに自分の最高の案を出してみた。しかし、返ってきたのは当然ながら冷めた目だった。グレイヴ自身は理由がよくわからない。
「な、なんだよ。その目!?かっこいいだろ?」
「センスなさ過ぎて笑える」
声を出したのはチェルルだった。どこか蔑む顔を可愛らしくしている。その次にエリック。
「だいたい、なんで2号?1号何?」
グレイヴは「よくぞ聞いてくれた」と胸を張る。
「1号はマサムネだ!俺らはこのアポローンを復興するから2号だ!」
リリーがそこに冷たく言い放った。
「工夫がなくてダサいですぅ。もっとかっこいいのにしてください。『クラゲ復興団』とか」
「いや、それだとリリーがリーダーみたいじゃねぇか!?却下だ、却下」
ルートの言葉がトドメだった。
「…月影に嫌われるぞ」
それでグレイヴは黙ってしまった。全員内心「面倒くさいな、この人」と思うくらいに面倒な男だった。しばらくしていると集落が見えてきた。活気がなく、どこか寂しい。
「…ここって」
グレイヴの脳裏に何かがよぎった。そのとき背後から「おーい、グレイヴ!」と足音が聞こえた。足音が大きくなるにつれ、振動も大きくなって地面が揺れる。グレイヴはその声の持ち主に心当たりがあった。
やがてグレイヴの肩にボンと強く白い二足歩行の狼の魔族の手が置かれた。
「…お前、バニラか?相変わらずデカいなお前」
「あはは、しばらくぶりだね。僕が手紙出しても全然返事ないから忘れられたかと思った」
バニラと呼ばれた狼に透き通った青い瞳で見られるとグレイヴの顔が引きつった。
「ご、ごめんなぁ。俺、他の奴らとも仲良くするから…」
(本当は手紙丸ごと捨ててただなんて死んでも言えねぇ…)
この言葉を他の皆は勘で理解した。エリックが話の輪に入る。
「え?誰?知り合い?僕と違った人狼族だね。初めまして」
エリックは人間に狼の耳と尻尾が生えた姿なのに対して、バニラは狼が二足歩行している感じだ。グレイヴは顔を赤くして紹介した。
「あっ、ごめんな。俺の小学校時代の親友、バニラ・館林だ」
「今は実家の鍛冶屋を継いでいるよ。ただ――」
バニラの優しい瞳が悲しさを表現する。グレイヴはそれにすぐに感づいた。
「”ただ”?」
「注文がないんだ。せっかく海外の学園にまで行って修行したのに、これじゃあねぇ…」
バニラは荒れた町を顎で指した。全員理解できていたのにグレイヴはまだ理由がわからないようだ。仕方ないのでルートが説明する。
「…つまり、技術があっても材料がないから何もできない。――そうだろ、館林」
バニラはうなづいた。体が大きいのでしゃがんで視線を合わせる。バニラはグレイヴ一行で最も背の高い、ルートよりも大きかった。ルートはカインと同じ背丈で平均男性より頭1つ分高いのでバニラは相当大きい。
グレイヴはやっと状況を理解してアポローンの責任者の自分がとても愚かだったことを思い知らされた。自分だけじゃない。先祖代々、勇者の世代からずっと馬鹿で全く管理をしていなかったから、放置された小さな綻びが大きな裂け目となって今に至っていた。グレイヴは拳を握る。
「俺たちが解決する。俺はこのアポローンの唯一の権力者だからな」
慌ててリリーが口を挟んだ。
「…ちょ、『俺たち』って私たちの拒否権はないんですか?」
グレイヴはきょとんとした顔で目をやる。
「なんだ、やりたくないのか?参加しなくてもいいぞ?」
しかし、ここで背を向ける者はいなかった。皆意見は同じだったのだ。
「ここで解決しないと後で後悔する。それにチーム名だって思いつくんじゃないか?」
ルートの提案もあって、グレイヴたちは一旦祠探しの旅を中断し、バニラの集落に近い町の流通問題の解決に着手することにした。
*****
――しばらくして、グレイヴたちはバニラの工房の一角に集まって情報の整理を始めた。つい先ほどまで町中の人々に聞き込みをしていたのだ。順番に発表していく。まずは耳の垂れたエリック。
「まず店でさ。どこも開店していないし商品はないんだって。聞いたら理由はバニラ君と同じ」
続いてリリー。
「町の長老様に聞いたところ、町は前に異世界転生者によって予算を全て奪われたそうですぅ。本当に転生者は英雄気取りの人が多くて困ります」
少しグレイヴの胸にもその言葉が刺さった。そして、チェルルがリリーのクラゲの頭の上にポンと乗っかる。
「鉱山や山はあるみたいだよ?材料の採取場所はあるけど、そのプロがいないんだって~」
最後にルートが紙の束を持って前に出た。
「アポローンの資料、調べさせてもらった。借金がかなり膨らんでいるな…。理由はわからんが、最近返済が少しずつされているようだが…。」
(それ、たぶん父さんと母さんが借金取りに捕まったからだな…)
グレイヴはカインのことを思い出していた。「私がやりました」と言わんばかりに優しい笑顔を向けるカインを想像している。
「――まぁ、こういうわけだ。外部からの信頼はゼロ。だから輸入など経済的な面では全く解決しない。ちなみに資料は月影が以前送ったという、天照寺邸の無惨にばらまかれたものを参考にした」
「…整理整頓が苦手だって言いたいのかよ?」
「俺はただわかりやすく教えただけだ」
グレイヴは最後のルートの皮肉が強く刺さって、心はボロボロだった。だが、解決案が思いつかない。何しろアポローンの国家予算はゼロどころかマイナスの桁が凄まじい。これではルートが言った、「全てを諦める」という選択が脳裏でちらついていた。
そんなときグレイヴはカインにチャットを送った。今回の報告をしただけで課題のことも説明する。
カイン『…お前長いな。もう少し短くできないか?』
グレイヴ『そんなわけにはいかねぇ。だって大事な思い出だぞ?』
カイン『それは仲間内だけにしてくれ。俺を誰だと思っている』
グレイヴ『そんなことよりもさ~。ちょっと聞いてくれよ』
カイン『(やれやれという顔のスタンプ)』
グレイヴは乗り気じゃないカインに無理やり話を持って行かせ、バニラの町のことを切り出す。以前まで使用していなかったカインのメッセージにスタンプや絵文字が使われていることも気づかずに。
グレイヴ『今日、バニラと再会したんだ。お前いただろ。ほら写真』
グレイヴは再会したときに仲間たちと撮った集合写真を送った。
カイン『馬鹿か、お前。そのとき俺は目が見えなかったというのにどうやって昔の知り合いを音声もない写真から探れというんだ。どいつだ。それとバニラって誰だ』
怒りを隠せないカインにグレイヴは焦っている。
(もしかして間が悪かった…?)
グレイヴはさっき送った写真のバニラの顔を丸く指で囲って送り直す。
グレイヴ『こいつだよ。俺の小学校時代の親友。獣型人狼で鍛冶屋をやっているんだ』
カイン『ほう、それで流通の話が出たわけか。やっと話の筋が読めた。小学校時代の話なんて俺は聞かされてないからわからないぞ』
グレイヴ『あっ、ごめん』『(てへぺろっ♡と可愛く謝るスタンプ)』
グレイヴはこのとき軽い謝罪で済むと思っていた。本当に愚かである。
カイン『お前、一応俺が取引先だってことわかって…いや、なんでもない』
それだけ表示されるとカインは短く言葉を伝える。
カイン『今、忙しい。それにアポローンのことはアポローンで解決しろ。ヒントだけやる。お前の姉貴のことを思い出せ』
これが表示されるとグレイヴは目を丸くした。
「姉貴!?絶縁したあいつを?」
これが大きな鍵となる。
※この物語はフィクションです。




