第48話 祠を解放しよう
グレイヴたちはリッパーがフッ飛ばされてから歩いていき、まだ日の高いうちに枯れ木だらけの森に到着した。国境から離れていて川もあったが、それほど日が経っていないためこの辺りに生命はなかった。
「ここ、スゲー荒れてるな。俺がガキの頃も枯れてたけどここまで酷くなかったぞ?」
グレイヴは昔のことを薄らぼんやり思い出す。葉のつかない木にロープを下げてブランコにしたり、変化でムササビになって飛び回ったりしていたあの頃を。ちなみに彼は覚えてないが、そのときカインは既に崖に落とされて意識を失っていたところだった。
そこでコンパスから一筋の光がスーッと静かにある方向を示し、照らした。それは森で特に大きな木の根元で光で”フッ…”と人が通れるほどの穴が現れた。穴は洞窟になっている。奥まで続いているので中に入れそうだった。コンパスの針もそちらを向いている。
「これが…祠?」
全員首を傾げた。もう少し豪華か、祠らしいオブジェがあると思っていたがそうでもなかった。
「考えてもしょうがねぇ。行くぞ」
グレイヴは顔をさげた皆に声をかけ先頭になり進んだ。
洞窟は下に徐々に下がる構造になっていて薄暗い。しかし、ところどころ明るくなっている。
「なんで魔導灯もないのに明るいんだ?」
ルートが冷静に返す。
「それはな、魔法石で光らせているんだ。コンパスの入った箱と同じくらいの年代の技術で今も少し使われている」
グレイヴは少しわくわくしていた。こういった冒険らしいダンジョンはグレイヴが生まれる前に既に売り払われるか無期限営業停止になっていてグレイヴ自身は経験したことがなかった。しかし、彼もテレビやマジホで情報は得ているので素人レベルならわかる。
「こういうダンジョン初めてだ」
「ダンジョンじゃないよ。これはただの洞窟」
エリックも冷めた目で返していた。さらに眠ったチェルルを抱きかかえたリリーが同様に返す。どうやら聖女の知識のため本の内容を暗記しているようだ。
「ダンジョンは、国か定められた機関の認定を受けた場所を言うんですよ」
「…なんかお前ら、冷たいな。もう少し状況楽しめよ」
グレイヴはスキップを始めると突然後ろのルートがハリセンでグレイヴの頭を叩いた。グレイヴは思わず頭を押さえて座り込む。
「…っ、なんだよ!いきなり!」
「「「シー…」」」
ルートが黙ってハリセンを上に向ける。見上げると天井にトゲのような岩が大量に張り巡らされていた。同時に後ろのエリックがマジホで何か入力する。メモ機能があるアプリの画面だ。
『あれは脆い岩だから大きな音で落ちるよ』
続いてリリーが同じアプリで表示する。
『だから会話は最低限で小声でお願いです』
すると、グレイヴの目の前に砂がパラリと落ちた。グレイヴは予感を察知して狸に一旦戻って後ろに何歩か下がった。天井のトゲ状の岩がグレイヴのいた地面に3本ぐさりと刺さる。グレイヴは人型になって一息をつく。
「あぁ~クソビビったー。そういうことなら早く言えよ。愛想尽きたのかと思っただろ…」
小声でそう言うと全員両手を合わせてジェスチャーで謝罪した。しかし、チェルルが声を上げた。
「ねぇ、そのハリセン殴ったところ…」
洞窟の地面は普通の泥の道だ。しかし、不自然な四角くかたどられた切れ目が先ほどグレイヴが移動する前、すなわちルートが思いきりグレイヴをハリセンで突っ込んだところにあった。ルートが冷や汗をかく。同時に揺れが一気に激しくなって壁が軋む音を立てている。
「…まずい」
ルートがそう言ったあと、皆走り出した。両側の壁が入口から次々にビタリと合わさっていく。このまま追い付かれれば…。どうやらルートが殴ったときにグレイヴの足元の動きの悪くなったボタン型のトラップを勢いで作動させてしまったようだ。
全員走り出していると、今度は壁の動いた振動で天井のトラップの岩が降り注いだ。リリーが両手を組んで詠唱している。上部に半透明の何かが出現した。これは魔法障壁だ。
「…今バリア張りました。まだかかりそうなので交代でバリアを持続させましょう!」
ドーム状のバリアが張られる中、グレイヴたちは走り続けた。「はい、次!」と交代でバリアを保ち壁に両側からつぶされないように乳酸の溜まった足に鞭を打つ。
そうこうしているうちに最奥のトラップのない広間にたどり着いてトラップはもう無くなった。最後にバリアを張っていたエリックが魔法を解除して深呼吸する。
「天井も壁も違うからもう大丈夫そうだね…」
「あれ、台座じゃないか?」
ルートの声で全員滴る汗を拭う中、示す方向を見た。すると確かにコンパスの箱の置かれていた台座と模様が若干異なるものがあった。グレイヴはその台座の溝にコンパスをはめる。
――【…認証されました。これより結界を発動します】
台座の奥の巨大な真っ黒のクリスタルがインクが広がるかのように徐々に虹色の透き通ったものに変化していく。そのままクリスタルの眩い光に辺りが包まれると、気づけばグレイヴたちは入口の大木の前に立っていた。入口は塞がれている。グレイヴは首を傾げる。
「…なんだったんだ?」
状況がわからずお互い顔を見合わせていると、グレイヴは”あの情報”を目にした。
「…カイン!」
すぐに電話をかける。息は上がって心臓の鼓動がうるさい。
「もしもし、カイン!クロエさんからのメールを今読んだ。お前襲われたのか?」
グレイヴが焦る中、カインは冷静に優しい言葉をかける。
『あぁ、襲われた。お前は冒険をしていたのか?』
”冒険”という言葉で流れを掴み、グレイヴは問いかける。
「そうだ。見舞いついでになんだけどさ…」
『…なんだ』
「祠って何だ?説明受けてないからわかんねぇなって話してたんだよ」
カインはそうすると、少しだけ間があった。呼吸音なのか機械音なのかわからないが少しだけすきま風に似た音が聞こえた。そして口を開く。
『…良いだろう。まず祠のことだが…』
グレイヴは「待ってくれスピーカーモードにする」とマジホを地面と平行に持ち替えた。全員熱心に円陣となって耳を傾ける。
『祠は、あれは正確には”結界発生装置”。これはアポローンでお馴染みの勇者が関係している。――まぁ、どちらかというと”被害者に”、か…。』
カインは少し声のトーンが下がった。
「被害者?勇者の?どういう意味だよ。俺の先祖は悪い魔王を倒したんだろ?」
その言葉にその場にいたグレイヴ以外の全員が「え?」と目を丸くした。全員わかってはいたが、実際に知ると驚きを隠せなかった。グレイヴは原因不明の少し居づらい空気を感じた。カインも深いため息をつく。
『あれは恐ろしい存在だ。伝説はいかにも正義の英雄らしく書かれているが、全て噂でまやかしに過ぎない。――それで祠はかつて俺が仕えていた村長であるプラリネ・黒龍院が関係している。――伝説では彼女が”魔王”だ。ただの龍族の少女だったが…』
辺りに重い空気が漂う。グレイヴもこの空気の正体をわかっていた。カインは「話を戻すぞ」と咳払いした。
『プラリネは聖女でもあった。それでアポローンができる前に結界発生装置を作った。場所は俺にもわからない。だが、結界を張れば環境保全はなんとかなるはずだ』
グレイヴたちの靄が少しずつ晴れていった。このときカインにはもう1つ理由があったが、それは伏せることにした。カインは話を続ける。
『勇者の奇襲の際、俺はそのコンパスを拾った。機能自体は知っていたが、祠は全部封印されていた。推測だがプラリネがマサムネに取られまいと祠の封印をしたんだろう。だから俺は”灯台下暗し”でわざとマサムネの建てた別荘の1つで最も値打ちのない屋敷に隠したんだ』
最後に皮肉を言われてグレイヴは少し癇に障ったが、耐えた。
「…な、なるほどな。もう1つ聞いてもいいか?」
『…サービスだ』
カインの苛立った感情がグレイヴには感じ取れた。普通ならこんな風に気軽に話せる存在ではないからだ。
「…ウラヌスってわかるか?」
『…』
カインは黙った。グレイヴはカインの墓穴を掘るようなことをしたかと思ったが、予想に反した声だった。
『まぁ知ってる。だが詳しくない。それこそ噂程度だ。真偽は保証できない。ウラヌスは極悪組織で世界の影として動いている。そして、滅ぼしたルシファーという男は傲慢で血と金を極度に好むらしい』
それだけ言うとカインは「俺は入院患者だからな。電話を制限されている」と切ろうとした。しかし、最後にこれだけ言って切れた。
――『…お前たち、そろそろチーム名でも考えたらどうだ』
※この物語はフィクションです。




