第45話 ディエゴVSカイン 呪われた2人
カインは完全に拘束されて壁から立ち上がろうにも立てなかった。ディエゴはサバイバルナイフでカインのYシャツを裂いて金属の装甲を露わにする。
「随分ごつそうやなぁ…」
それだけ言うと今度は蜘蛛足で装甲を包み紙のように引きはがした。カインはその光景が腑に落ちない。
(なぜだ…この特注ギアはかなり頑丈だというのに…)
改めて言うが、カインの妻、クロエは鬼である。そのため、怪力を持っている。付き合い始めてから何度かカインのパーツを物理的に破壊した。しかし、カインもそれを指を加えて見ているわけにはいかない。それもあってカインの最も外部にある装甲は工事現場の鉄球をまともに何百回受けても無傷なほど、とことん頑丈に造られていた。
――それをディエゴは赤子の手をひねるように剝がしてしまったのだ。
ディエゴはカインの中の部品を1つずつ確認していく。関節の線もいくつかブチブチと切られて体の感覚が一層薄れていく。そしてオイルタンクにあいた大きな穴を見て、ただ笑っていた。痛みもかゆみもないが、ただ危機感だけがカインの中で駆け巡っていた。泣きたいくらいに。
(うぅ…)
「君の中にリアーナの結界システムの情報の鍵とかないかなぁ思て」
しかし、カインにはそんなものない。確かに少し前にはそんな機能があったが、実業家の身分として最新型のクラウドサービスに変更した。つまり、小さな機械単独に情報は入っていない。
(時代遅れな奴だ…)
カインは今の状況に慣れてきたのか、少しだけ考える余裕ができた。だが脱出方法がない。しばらくしてディエゴは探すのをやめて尻を地面につける。
「…あらへん。つまり――」
ディエゴはオイルで汚れた髪の乱れたカインの顔を覗き込む。蜘蛛足がカインの頬に触れて一筋の傷をつけた。傷口から内部の機械が見えている。
「ようできとるなぁ。生きてる奴らみたいや」
その切れた皮膚を軽く蜘蛛足でつまむ。ゴム製のマスクをかぶせているだけなので少し伸びた。
「なんやぁ~、おもろいわ。そっくりなのにちゃうなぁ」
「な、何が言いたい…」
カインはディエゴの意図はわかっていた。だが、そこには破壊されてはいけない部分が多い。本体ではないがサイボーグとしては精密機械が集中している部分だった。
「大事なもんは…」
ディエゴの言葉にカインの無い身の毛がよだつ。カインは叫びたかった。だが、――
「…ガ、…アァ」
人口声帯をイカれてしまったらしく、声が出ない。さらに呼吸器も弱っていて息もだんだんと荒くなる。オイルが足りず、視界にはノイズが走る。目を開けるのもやっとだった。
「苦しいん?大丈夫や、これ付けたら修理するで」
「…!」
ディエゴが見せたものにカインは声にならない声を出す。ノイズではっきりとは見えないが、小型の洗脳装置だ。しかも流通していない、サイボーグに特化した改造されたものである。
「これ付けたら、君は僕の指示だけ受けられる…」
このままではカインは洗脳される。そうなれば自分を失う。それがカインは昔から怖かった。しかし、何もできない。マジホに触れることもできない。大声も出せない。カインはディエゴの前で両目を閉じて体の力を抜いた。走馬灯が見えてだんだん楽になっていく。
(クロエ、アレックス、ティア、ノア…あと、――)
ディエゴがカインのマスクに手をかけたそのとき、――
「…き、にき!兄貴ー!どこです?あっ、こっちか」
足音と共に若い男の声が聞こえた。アレックスだ。ディエゴは手を離して困惑している。
「…な、なんや?なんで人がここに?」
カインは声を出した。
「こうなることを見越してSOSと位置情報を送っておいたんだ。刺さった直後にな」
「…なっ!」
ディエゴはさらに混乱している。それをカインは察した。
「この声は、『俺自身の声』。声帯なんて俺の細胞からいくらでも作れる」
魔王・カインには、再生能力がある。これは自分の細胞を僅かな魔力や生命力で増殖させるというスキルだ。トカゲの尻尾が切れても元に戻る性質と同じだ。しかし、カインはサイボーグになって魔力の節約をしている。
アレックスの足音は大きく速くなる。位置を完全に特定できたようだ。ディエゴはナイフをしまって立ち上がる。
「…ほな、今日はここでお暇するわ。また会いに来るで」
そして、蜘蛛足で一気に飛び上がって夜のビルの屋上へと消えていった。それと入れ替わりにやってきたアレックスは速めていた足に急ブレーキをかける。
「…どどど、どうしたんですか?その姿!?」
あまりにも悲惨な光景に驚くのは予想できる。いつの間にかネットは溶けて完全に蒸発してしまっていた。証拠隠滅だけはしていったらしい。
「…すまんな、アレックス。サイボーグパーツ狙いに襲われた。オイル漏れてるから足元気を付けろ」
「今救急車呼びます」
「そうか、漏電するとまずいから俺は一旦落ちる」
それだけ言うとカインは自分の電源を落とした。カインはどこか安心しきった顔をしていた。
※この物語はフィクションです。




