第43話 魔王の隠し財産
グレイヴたちはカインからの連絡があって天照寺邸に向かっていた。しかし、ルートも加入することが決まり、途中の村の店で歓迎会をしていた。ちょうどルートにアポローンの復興とウラヌスのことを完全に説明しているところである。
「…なるほど、100年前に滅んだ極悪組織が現在息を吹き返して、なぜかアポローンを狙ってると」
「そうなんだ。それでさっきの仮面男がそのウラヌスを壊滅させたルシファーって奴ってわけだ」
山盛りのカレーをほおばりながらルートは耳を傾けている。しかし、どこか半信半疑だった。このままではまずいと思ったエリックは話を転換する。
「それにしても東祭さんが入ってくれて良かった」
「…ルートでいい。俺はこの見た目だが歳は君らと同じだ。あと、”あずまつり”だ」
ルートは年季の入ったテーブルに置かれた名刺を軽く指で叩く。『旅人探偵 ルート・東祭』と短く明確に記載されている。チェルルが目を爛々と輝かせてルートに近づく。
「ねぇ、タンテーさんなら難事件解決してるの?」
ルートはスプーンを皿に置いてチェルルの頭を撫でる。どこか力の抜けた表情だった。
「メディアの罪だな…。探偵とはいえあんな風に謎解きだらけじゃない。やってるのは迷子のユニコーン探しとか地脈の分析とかだな」
「”ちみゃく”?」
チェルルは可愛く問いかける。口にクッキーをほおばっている。
「簡単に言えば、どの場所で建物を建てられるかとか温泉が湧き出るところはどこか調べるんだ」
「いや、スゲーよ」
グレイヴは少し前のめりだった。ルートならアポローンの復興に役立てるかもしれない。しかし、1つ気になっていたことがあった。言うタイミングを逃していたのだ。
「なぁ、お前結構食うな…。それ6杯目だろ」
実は会話の間にルートは同じカレーを既に5杯完食していた。でも顔色からするとまだ腹八分目どころか三分目といったところだ。それでスタイルは細身のままキープされている。
「そうか?」
「そうか、じゃねぇよ。そんなスタイリッシュな見た目でさ」
「それで腹筋割れてたら化け物…」
エリックもグレイヴと同様に驚いていた。見た目と食べ物の量があまりにも釣り合わない。そんな2人をよそにルートは少し腹部の服をめくった。
「…普通割れてるだろ」
ルートは結構体を鍛えていた。グレイヴとエリックは目の前の光景に悶絶している。
「なんでぇ?」
「ありえねぇ…」
(…男って面白い)
リリーとチェルルは生温かく2人を見守っていた。すると、ルートは6杯目も平らげてスプーンを置いた。
「代金のこともあるからこれで我慢するか。申し遅れたが、俺はルート・東祭。種族は百々目鬼」
グレイヴとエリックも喚くのをやめて座りなおした。切り替えが早い。ルートは首筋に色とりどりの瞳を持つ目を一瞬生み出して自身の種族を証明する。さらにボウガンとアルセーヌが繋がれた魔法の鎖を見せる。
「戦闘職は魔獣使い。俺はボウガン。魔獣はアルセーヌだ」
アルセーヌは尻尾を振って犬のように喜んでいる。
「よろしくな」
そこで全員拍手する。こうしてグレイヴの冒険のメンバーはさらに有力なものとなった。皆が喜ぶ中、グレイヴはマジホを取り出した。
――『これで第0フェーズは終わった。この後は過酷なものになる。覚悟があるなら今日中に天照寺邸に来い。来なかったら拒絶とみなすからな』
カインのメッセージだ。文面だけでもかなりの圧を感じさせる。グレイヴにはこのときカインがどうしてここまでアポローンに気をかけるのか、自分のことを大事に思ってるからだと思っていた。窓の外は赤く染まっている。アポローンにも青空が見える機会が少しばかり増えた。しかし、感じたのは焦りだ。
「やっべ!夜になるぞ」
「ここから天照寺邸は近いでしょ?」
エリックは吞気そうに椅子の背もたれにもたれようとした。しかし、椅子に背もたれはなく真後ろにひっくり返った。ルートはマジホで何か地図と異なるアプリを開いていた。体にも目を複数出す。
「なるほど、この辺りは夜になると方向感覚を失うんだな?」
グレイヴは激しくうなづく。今いる村は呪われていて、日の光がないと全員方向音痴になってしまうのだ。昔グレイヴも経験があったのでそれはわかっていた。
(あのときはジルが目が見えないのに頑張って案内して…)
ここにもグレイヴの思い出はあった。アポローン全てにあるわけではないが、思い出があるのはアポローンという箱に入ったままだったからだ。
グレイヴたちは会計を済ませて店を出た。
「お、おせーよ。エリック!」
「いや、あのレジのおばちゃんのポイントカードの話長くて…」
途中、お得な情報に滅法弱いエリックが長話に付き合いそうだったが、総出で話を断ち切って走って天照寺邸に向かっていた。
*****
――着いたとき、カインは帰り支度をしていた。すっかり暗い。
「遅いから、諦めたかと思った」
(あのウイスキー、樽5杯も飲むと応えるな…)
息を切らしているので誰も反論できない。カインはやる気のない目でグレイヴたちを見つめる。
「ここで首を振れば、拒否できるぞ?」
しかし、グレイヴの首は縦に振られた。遅れて他のメンバーもうなづく。カインは背を向けて「ついてこい」と歩き出した。やってきたのは天照寺邸の裏庭にある巨大なケルベロスを模した黒い彫像だった。
「確か、550年前――俺はここに宝を隠した。勇者にバレないようにな…。」
カインが彫像の台座の花を模した部分に手をかけると、それを下に動かした。すると、彫像の真横の石畳の蔓がブチブチと切られて石畳が動いて地下へと続く階段が現れた。カインはマジホのライトで暗闇を照らしながら降りていく。グレイヴたちも続いて降り始めた。
中は広い石造りの部屋があり、中央に台座があった。その上には古びた金属製の箱があった。
「これは、600年前の最高級の箱ではないか?」
ルートはその年季のある箱にわずかに感銘を受ける。カインは台座の脇に立つ。
「…受け取れ」
グレイヴはその言葉に体が自然と動き、箱に手をかけた。そして開くと中にはコンパスが入っていた。どこかアンティーク調のデザインで古いが華やかさがあった。
「それは鍵だ」
「?」
突然発せられたカインの言葉に全員注目する。
「このアポローンには至る所に祠がある。そこでこいつと同じ台座にコンパスをはめろ。そうすれば解放される。祠の順番には規則がある。赤い針の示す方向を進め」
グレイヴは鼻を引くつかせた。ずっと感じていた違和感だ。
「…なぁ、なんか焦げ臭くね?」
(グレイヴのくせに鋭い…!)
カインは気づいていた。さっきの変身で内部パーツが焼けていることを。煙が今出てるのだが、細く暗闇で視界不良のため見えづらかった。だが、今は言わない。
「俺だ。アポローンの砂が関節に入って部品がお釈迦に…」
そう言うとカインは階段を上がり始めた。
「俺はもう無関係者だ。過去には戻らない。だから――」
カインの口調は一気に重くなった。
「――勝手に俺を弟扱いするな。このフィクション野郎」
――こうして魔王・カインは自身の最後の宝を勇者の子息に託した。
※この物語はフィクションです。




