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第41話 旅する探偵

 ルートはドーベルマン型ドラゴンを落ち着けていた。焦って足踏みをしているグレイヴを見てルートは事情を尋ねる。


「この自称貴族、急ぎですか?」


 グレイヴに直接聞かない。聞く価値がない。ルートはそう感じていた。カインは代わりに口を開く。


「あぁ、実はな…」


 事情を包み隠さず説明すると”損じ手紙(インクゴースト)”がすぐそこまでやってきた。


「しまった!おいグレイヴ、走るぞ!ルートもだ」


 ルートも促されて足を速める。グレイヴを半ばひきずる形でカインは走っていた。しかし、相手のスピードは加速していく一方。


(このままじゃ、勝ち目はないか…。)


 カインはグレイヴに手をかざすと、グレイヴが強制的に狸に戻った。そして、隣で走るルートに目を向ける。


「ルート、パス!」

「はい?…おっと」


 グレイヴをボールのように軽く投げてルートに渡した。ルートも咄嗟に受け取る。そして、カインは後ろ向きで走り始めた。カインは自分の服の胸部を開いてボディに大きな窪みを出現させる。これはカインのボディに取り付けられた魔法連動型の砲台だ。サングラスを外して、おろしていた黒髪も後ろで束ねて両手の拳を体の前でゴツンと合わせる。


「新型のこいつを試すか…。」


 窪みに青白い光がほんのりと現れて徐々に光を強くする。カインの視界にはエイム機能がついていて相手を完全にロックオンした。


 ――【魔導砲、発射準備完了。下半身関節を固定します】


 カインの両足が岩のように固まる。もう自分はしばらく動けない。胸部の大きな光は窪みを満たしていた。


「凍えろ」


 カインのその短いセリフの後、光は”損じ手紙(インクゴースト)”に向けて撃ちだされた。反動がカインの体を後ろに動かす。光が一瞬で晴れると魔獣は凍り付いて霜がキラキラと舞っている。


 ――【発射完了。固定関節全解除】


 カインもやっと動けるようになり、服のボタンを締める。振り返って呆然と立ち尽くすグレイヴを抱えたルートに向き直った。


「これで一時的な足止めはした。このまま走るぞ」


 しかし、ルートは手をあげた。わからないことがあったのだ。


「…ただ逃げるだけではいけないのでは?」

「…良い質問だ」


 カインは走り出して「走りながら説明しよう」と2人を呼んだ。カインは向こうに見える太い川を指さした。


「最近アポローンにも河川ができたようだ。あの魔獣は元は紙とインクだから水に弱い。だから――」


 カインの話を遮るようにルートは答えた。


「そうか、巨体だから川に落とせばいいんだ――ですね?」


 ルートはため口になりそうだったので、すぐに敬語に軌道修正する。カインはルートの必死そうな顔に一瞬口元を歪める。


「その通りだ。…言いにくいだろ、ため口でいい」


 カインはルートの思考と性格が自分に似ていることに少し仲間意識を持っていた。しかし、グレイヴが人型になって一緒に走り出す。カインはまた態度を崩す。


「狸で運ばれた方が良かっただろ…。ノロマ」

「失礼だな?俺だって足は速いんだ」


 カインは少し上から目線になる。現役で俳優をやっているからか走っているとは思えないほど余裕だ。単にサイボーグだから呼吸が上がらないこともあるが…。


「訂正しろ。”逃げ足だけは速い”だ」


 グレイヴはカインの一言にイラッとしたが、言い返さずマジホでエリックたちに連絡する。


『俺の行った旅商人の集落の南にある太い川に行け』


 具体的な場所はわからなかったのでそれだけ入力した。しばらくして川にたどり着いたがまだ魔獣は来ていない。


「早すぎたか?」


 カインは視界のデジタル時計を確認する。


「いや氷魔法はそこまで強力にしてない。気休め程度にしか…。」


 すると、ルートのドラゴンが吠え出した。向きは決まっている。グレイヴたちが走ってきた道だ。魔獣が追い付いてきたのだ。ただ体がさっきより大きい。


「なんかデカいな?」


 ルートはドラゴンの頭を撫でる。


「アルセーヌが吠えてるなら危険だ。”損じ手紙(インクゴースト)”は無機物を吸収して強化される。周りのものを取り込んで安定させたんだ」


 カインは説明をルートに取られて少し残念だった。しかし、エリックたちはまだやってこない。カインはその場を離れることはできなかったのでもう一度前に出てボタンをはずそうとした。しかし、――


 ――【魔力が一定値を下回りました。回復を待ってください】


 これでは魔導砲を使えない。カインは魔王だが実は昔ある理由で魔力のほとんどを使ってしまったせいで、連続して魔法を使えない状態だったのだ。しかも魔導砲はかなりの魔力を使うため本人のダメージも大きい。


「誰か、足止めできないか?」


 グレイヴは剣を抜くが体がインクのようなので効果がない。


「あぁ、エリックの水魔法なら…。」


 そこでグレイヴのマジホに着信が来た。エリックからだった。


「よっしゃ、応援だ。グッドタイミング!」


 しかし、内容は――


『場所わかんないから、匂いで追ってるとこ~』


 グレイヴは肩を落として全ての終わりと自分の先祖の愚かさを強く感じた。


「バッドタイミングだったな…。これだから天照寺家は…」


 グレイヴはルートの胸倉をいつの間にか掴んでいた。ルートの自分への態度が気に食わなかったのだ。


「さっきからオメー何なんだよ?俺を見下しやがって」


 ルートはまだ冷静だ。ドラゴン――アルセーヌはグレイヴに向かって鬼のような形相で激しく吠える。


「…見下すさ。お前は滅ぶか滅ばないかのちょうど間にいる。その性格ならとっとと失せればいいものを…。実際、月影に頭を下げたのは自分の保身と酒池肉林のためじゃないのか?推測だが」


 グレイヴはルートの的を射た話にグゥの音も出ない。確かに自分は現在進行形でカインに頭を下げている。しかし、カインが実は先祖どころか自分へも恨みを持っていることを知り、それでカインが首を縦に振れるように冒険した。だが、――


「…違う」

「なんだ?開き直るどころか嘘をつくのか?」


 グレイヴの絞り出した発言をルートは一蹴する。しかし、グレイヴの意思は明確になった。


「俺は、自分の弟を取り戻したいんだ!」


 驚いたのはカインだ。身に覚えのない話に飲んでいた水筒の茶を噴き出す。


(…弟?あいつ、兄弟は…?)


 グレイヴの言葉にカインは動揺しつつもありもしない記憶を必死に探るのであった。

※この物語はフィクションです。

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