第38話 覚醒!白龍断悪漸
エリック、リリー、チェルルが後ろの窪地に身を隠して回復魔法で癒している間グレイヴは荒れ狂う強風に負けじと剣を前に構えて1歩ずつ確実に歩み出していた。
(俺は立派なカインの自慢の兄に、なるっ!)
心には温かい何かを秘めていた。だんだんとそれは熱をあげていき、グレイヴ自身に力を与えていく。
(…俺の、正義)
グレイヴは最初こそただ貴族生活をより快適で裕福なものにしようという目的でカインに頭を下げた。しかし、今ではそれに加えてもう1つ、取り戻したいものができた。それはかつて自分の傍らに必ずいた相棒、いや兄弟のような存在だ。グレイヴは短い時間で仲間と出会い、少しだけ自分のなまけ心を改善できたような気がしていた。
「これからお前を、ぶった切る‼」
グレイヴは自分の剣を地面に突き刺すと地面が盛り上がって宙のプテラに続く坂ができた。そしてグレイヴは風など吹いてないかのようにそれの上を勢いよく走り出し、剣をプテラの胸の紋章に突き刺した。
「ギエェェーー!!!」
プテラが痛みに咆哮するとグレイヴは剣により力を入れる。全ては麓の村の村民たちのため、アポローンの国民の笑顔のため。ここでグレイヴは自分がアポローンの総責任者の立場にいることを初めて自覚した。
「これで、終わりだ!」
グレイヴの気合いの一言の後、プテラの体から激しい光が辺りを満たす。全員目を瞑って体を丸くする。まぶしすぎて失明しそうだ。わずかに体に熱も感じる。
「まぶしっ!何?」
このとき全回復したエリックは窪地から出るとプテラからの強烈な光で引き返す。リリーはどこから取り出したのかサングラスをかけてチェルルにも小さいものを渡す。
「うわ、ずるい!僕もそれ欲しい!」
しかし、光で一同体を丸めたのでその発言も受け流されてしまった。やがて光は山の頂上で閃光のように一瞬光って消えた。その様子は麓の村どころかアポローン中、さらにリアーナを含めた隣国の国民の目にも止まった。これがやがてカインの東雲戦の後で世界的ニュースになる。
光がやんでグレイヴは目を開いた。いつの間にか地面についていてプテラは跡形もなく消え去っている。しかし、それよりもグレイヴの剣が神々しい光を放っていることに気付く。
「…なんだよ、これ」
展開がすごすぎて理解が追いつかない。しかし、リリーはすぐにわかった。淡々と説明する。
「…進化ですよ」
「し、進化?」
リリーは地面に可愛いプテラとグレイヴの剣の絵を枝で描く。
「どうやらプテラちゃんの魂がグレイヴの剣に宿って進化したようですぅ。おめでとうございます!」
グレイヴは未だに信じられなかった。でも剣は確かにプテラと同じ輝きを放っていて金属の質も変わっている。さらに柄は龍の装飾と黄昏のような橙色の大きな宝石が埋め込まれている。
「なんかすごく軽いぞ…。前のは代々受け継がれてきたマサムネの剣だったのにな」
エリックは剣を見て興奮する。
「せっかくだから試し振りしようよ。その”白龍断悪漸”で」
「”白龍断悪漸”?」
「名前だよ。これから武器はどんどん進化するから記録残そうよ」
エリックの提案にグレイヴはうなづく。
「あぁ、そうだな。でも名前は俺が決めたかった…」
少し耳が下がった。エリックは尻尾を勢いよくあげる。かなり焦っていた。
「あっ、ごめん!」
「いいよ、名前痺れるからな」
グレイヴはそう言うと剣を高く上げた。そして目を閉じて剣の魔力を自分の体を通して感じ取る。
(なんか温かい。でも熱い!)
その熱はグレイヴの心で起こされたものだ。グレイヴは剣を大きく振り下ろす。
「おっし、はきゅ…白龍断悪漸!」
(あっ、噛んだ…)
3人はグレイヴのセリフを嚙んだ瞬間噴き出しそうだったが、なんとかこらえる。それを横目にグレイヴは魔力を解放した。
「お前の力見せてみろ!」
すると、大きな地震が発生した。しかし、音がする。
――ゴゴゴ…
まるで地下から湧き出るような音だ。するとエリックは何かを察知して窪地にいたチェルルとリリーを窪地の外に突き飛ばした。
「危ない!」
「「キャー!」」
すると、窪地に巨大な亀裂が入り大量の水がそこから激しい噴水のようにわきあがった。そして山の頂上から四方八方に太い川が流れて麓に衛生的で豊富な水をもたらしたのであった。ある意味伝説は本当だったようだ。グレイヴたちは山から下を見てその様子を確認した。ガッツポーズとハイタッチが止まらない。
「よっしゃー!悩み解決」
「これはアポローン発展の大きな1歩だよ!」
「これで水問題は…。――って見てください!」
「?」
リリーの指の示す方向を見るとさっきまであった東の大きな地割れが無くなっている。全てグレイヴがやったのだ。
――しかし、彼らは何も知らなかった。これから起こる、身近な強い厄災のきっかけになるということを…。ただ笑い声がアポローンの空をこだまさせたのであった。
※この物語はフィクションです。




