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第34話 運命は断ち切れ

 動画の件の翌日、カインは月影商会で配信者のマジホの情報を探っていた。カメラとマイクに相当する部分が物理的に壊れただけで、中のデータは無傷だったのだ。探っていたのは、動画の削除のためにリアーナの警察から許可が欲しいと言われたからだ。


「全く、いつの時代も真面目だな…」


 少しカインは飽き飽きしていたが、渡されたデータを自分のパソコン型魔導端末で片っ端から入念に見ていく。本当はあの場ですぐに消したかったが、この手のものは法の関係で手続きが面倒なのだ。


「アポローンじゃ、法なんてないようなものだからな…。羨ましいぜ」


 そんなことを言いながらデータを読んでいると、ある情報に目が止まった。


「これは…」


 ――『リアーナのハードウェア装置の点検。バイト募集』


 ランダムでメッセージでよくやってくる、怪しいバイトの募集だった。ブロックしたようだが、データはしっかり残されていた。カインは至急魔界に調べさせた。前の調査報告は既に得ていて東雲の正体のおおよその目星はついている。


「魔王番号D-7846、度々悪いが今から送るメッセージを洗い出してくれ」


 向こうの承諾を受け取るとカインはスーツのネクタイを締める。この一連のシナリオにケリをつけるときが近くなってきたのだ。


「これで間違いない。後は報告と天気だが――天気はしばらくあの辺りは快晴か。やってやろう」


 そのままカインは流れるようにチャットを開いてクロエに送った。


『今週末、仕事が入った。悪いが水族館はまた今度な。できたらアレックスを向かわせる』

『いいわよ。頑張ってね』


 この短い会話で済ませて、今度はアレックスに送った。


『アレックス、子供たちの子守を任せてもいいか?娘たちに顔を合わせたいんだ』

『いいですよ。いつですか?』

『今週末、俺のマンションに行ってくれ。前みたいに連打するなよ?』


 最後に可愛いスタンプで「OK」と出てきた。カインは驚いて質問を投げかける。


『それなんだ?絵か?』

『スタンプですよ?使わないんですか?』

『あ、あぁ…』


 カインの流行の疎さがここにも現れた。カインは少し目をそらす。


『それなら今度教えますよ』

『あぁ、恩に着る』


 ――そんなこんなで、”作戦決行の日”は刻一刻と近づいていた。


 ◇◇◇◇◇

 ――それから3日後、カインは工事の作業員に扮してある場所に来ていた。


 それは例の断層の、例の極秘ルート用線路の建設現場だ。カインはあの怪しいバイトに偽名で参加していたのだ。全ては”東雲の野望の阻止”のため…。


 カインは黙って作業を進める。他にも一般人のバイトは複数いた。バイトの給料がなかなか良く、名前を言えば必ず通るような緩い採用基準なので、その分多いのだろう。


(線路の件よりも、一般人の安全を…。)


 カインは手元の箱を台車に載せて次々に運んでいる。彼は今紺色の短髪でさえない顔のただのフリーターの姿をしているので誰もカイン・月影だとは思わないだろう。箱の中身をカインは透視で確認する。大量の銃や武器、弾丸、さらにはかなり複雑な軍事用サイボーグパーツまである。これはクロで確定だ。


 しかし、カインの手にはもう既に勝利への切符が握られている。


(やはりか…。)


 ここで前の魔界からの報告もカインの脳内で電撃のように伝わった。それは彼の予想と1点の狂いもなかった。カインは声を変えて大声を出す。その声は普段の理性的なものではなく、どこか抜けた感じの若者の声そのものだった。


「「この箱、釘取れかかってるんで一旦作業部屋に持ち込みまーす!」」


 カインはそのままさりげなく作業部屋に入った。洞窟の中のその部屋には工具が所狭しと並んでいる。しかし、カインは迷いなく地面に耳を当てた。拳で軽くノックをして定まったところで魔法で一時的な落とし穴を作って下の階に降りた。天候が雨だと地盤が緩みやすくなる地帯だったので落とし穴の修復に時間がかかってしまう。だから天気は確認したのだ。


(到着成功…。)


 カインの着地した先は、――放送室だ。洞窟内のスピーカーと繋がったマイクが目の前に色とりどりのボタンが複数ついた操作盤に設置されている。カインは指を軽く鳴らすと、洞窟内の数か所で小さな文字が輝きだし、――大爆発を起こした。


 ――ドゴーン!


「な、なんだ?」

「地震!?火事!?雷!?親父!?」

「いや、地震だろ…。」


 洞窟内の作業員たちが騒ぎ出す。そしてスピーカーにハウリングが走る。


 ――≪警告!魔力の流れの変化により地殻変動が発生。速やかに避難を。繰り返す――≫


 カインは東雲の声を使ってアナウンスを開始した。作業員たちの仕事の説明が東雲の録音を使っていたので司令塔の声を使用したのだ。


「…ち、地殻変動!?」

「地震よりやべーじゃん!」

「に、逃げろ!」


 整然としていた洞窟内が一気に足音で満たされる。それらは決して途切れることも一致することもなかった。


(…このまま逃げれば計算上、上手くいく。…少し遅いか?)


 ――ピュー!


 カインは口笛に似た音を口から出した。すると洞窟の下層から風が吹き込んできた。その風は上の階層の出口へ逃げ込む人々の背中を後押しする。


「これで時間の短縮ができるだろ…。」


 カインも放送室から出て上層部に走り出す。現在地は最下層なのでかなり全力だ。背後では岩がどんどん崩れていく。しかし、カインの生み出した風のおかげで前方に人の姿が見られることはなかった。


 このまま行けば全員の命を救いつつ、線路の破壊もできる。


 ――カインの作戦は、断層の工事現場が螺旋状の洞窟になっていたため、線路のある下から破壊していって極秘線路の破壊と共に再建を不能な状態にするというものだった。


 しかし、――


(なぜだ?崩れるスピードが速すぎる…)


 壁の崩れ方が速かったのだ。地面の性質、含水率、さらに魔力の流れの微調整までして練った作戦だ。どこかで誤算があるわけがない。でも突き付けられた現実にカインはただ疑問を持っていた。

※この物語はフィクションです。

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