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第33話 蝶のように舞え

 ――リアーナでカインは仕事をしながらトラップをくぐり抜けていた。


 カインは少し首を回して空を見上げる。


(今日はやたらと体を動かすな…)


 周囲の視線がやけに自分に集まって気になる。カインは知名度があるが瞳の色を真っ黒にすればなぜか誰にも話しかけられないという謎の論理があった。仕事のときは瞳の色をその都度変えているからだろうと本人は考えることにしている。


 カインは少し小走りになる。腕時計の針の音が鳴る中、息を切らすことなく進んでいく。


(月影商会で資料、そして”あれ”の隠滅…)


 やがて月影商会の前に来た。すると、入口付近で不審な動きをする男性がいた。見た目は20代の人間のようで短い茶髪で少し青みがかった灰色の瞳だ。さらに白いYシャツに黒いベスト、深い緑色の光沢のあるネクタイにベージュのコートを着ていた。


(なんだ?あの刑事ドラマによく出そうな格好の男は…)


 よく見ると彼の左手には輝く黄色の魔法の鎖があってその先にドーベルマンに翼と角が生えたような見た目のドラゴンがいる。


(魔獣使いか…。だがなぜここに?)


 カインは記憶を遡るが、取引先にも過去の知り合いにもいなかった。完全に初対面だ。しかし、一瞬で胸騒ぎがカインの中でこみあげる。


(東雲か!?)


 考えてみればカインは東雲の姿を知らない。知っているのはトランシーバー越しの声だけだ。未だに魔界の調査班はまだ報告していない。だからカインは酷く焦っていた。


(…落ち着け、俺。冷静に…)


 カインは目を閉じて少し考えた。そして結論は出た。


(カイン・月影として声をかけよう)


 早速カインは男の近くに迷いなく歩み寄り話しかけた。心の中で軽く咳払いをして気持ちを整える。


「こんなところで何をしている。ここは俺の商会だ」


 男はゆっくり向き直った。ドラゴンが暴れ出しそうになったので男は頭を撫でて座らせる。


「…アルセーヌ、ステイ」

(声が違う…。)


 カインは声の波長を並べて見たが全く異なるものだった。男は東雲ではなさそうだった。カインは深呼吸して再び鋭い眼差しを向ける。この男が不審な動きをしていたのは事実だ。


「…お前は誰だ。ここで何をしている?」


 すると、男は深々と頭を下げていなくなった。まるで逃げるように…。


(…なんだったんだ?)


 しかし、背後からの気配にカインは気づいた。咄嗟に伏せると真上を黒服が飛び越える。あのドッキリ動画の人物だ。カインは目を丸くする。


(まさか、ウラヌスか!?)


 しかし、すぐに首を横に振る。


(…そんなわけない。あいつらはこんな白昼堂々姿をさらさない。…もっと静かだ)


 そのとき、通りすがった人物のマジホに自分の姿が映っていることに気づいた。このとき初めてカインは今現在自分が無許可で動画をライブ配信されていることを知ったのだ。


(なんだ、そういうことか…。それなら――)


 カインは月影商会の本社の脇にある細い道に走り出した。そこには黒服が5人待ち構えていたが、カインは瞳を一瞬キラリと光らせると全員バタリと眠ってしまった。構わずカインは走り出す。どんどん薄暗く走りづらくなっていく。黒服が後ろから3人で飛び掛かってきたが、カインには問題ない。


「…ふっ」


 カインがわずかに笑うと体を瞬時に後ろ向きのままエビぞりの態勢で真後ろに体を滑らせて一気にかわした。山積みになった黒服たちを踏みつけてカインはさらに走り出す。とうとう道を抜けて大通りに出た。黒服たちが狭い道からカイン目掛けて向かってくる。その数は両手両足じゃ到底数え切れない。カインは黙って考えて指を鳴らす準備をした。


(こいつらを無傷で…)


 ――パチン!


 指を大きな音で鳴らすと地面に巨大な穴があいて、黒服たちは全員落ちた。カインは微かに勝ち誇った笑みを浮かべる。


「さっき俺を落とそうとした罰だ。そこで反省しろ」


 そしてマジホで例の動画を見せて空に向かって叫ぶ。


「おい、配信者!俺はこんなの許可してない。今すぐやめろ。さもないと――」


 言いかけたそのとき、配信者が現れた。かなり目が血走っていて滝のような汗をかいている。


「やっと現れたか…。大人しくやめれば俺はお前に危害は加えない。だから――」

「黙れ!」


 カインの冷静な言葉は頭に血の登った相手には通じない。片手の鉄パイプを強く握っている。


(これは、無理か…。)


 カインは機械義肢で指の関節を鳴らす動作をして関節の動きを確かめる。


(関節、よし。弾はある…。後は…)


 カインは軽く跳んで相手との距離を見定める。かなり離れていて車1台は通れそうだ。そして相手が足に力を入れた瞬間を狙って、カインは一気に間合いを詰めて腹部にパンチを決めた。魔法も技術もない普通の物理攻撃。一般人をスタンさせるために力を緩めたのだ。


「――ぐわぁ!?」


 配信者はわけがわからず地面に叩きつけられた。それと同時にパトカーのサイレンの音がカインの背後から聞こえた。カインはすかさず配信者のマジホを手にとって、紙くずのように握り壊した。


 *****

 ――その頃アポローンのグレイヴたちは…


 マジホの破壊により動画が砂嵐になってしまったのでグレイヴたちは固唾を飲んで見守っていた。


「おい、カイン!」

「向こうでマジホが切られたのかな?」

「月影様、最高~」


 グレイヴたちは胸の中の靄が晴れなくて怖かった。チェルルだけはかなり吞気にあくびまでしている。目の前で壮絶な(?)戦いが繰り広げられていたというのに…。そのときマジホの上でニュース記事が現れた。


「は?」


 グレイヴは目を丸くした。どうやらさっきの配信者が名誉毀損で逮捕されたようだ。全員一安心した。


「まぁ当然だよな」


 グレイヴは「やれやれ」と座り込むとエリックは冷ややかな目で見る。


「いや、グレイヴだって前に月影様の奥さんと子供を人質にとったでしょ?」

「あ…」


 グレイヴの思考はここで停止してしまった。体の内側を北風が吹くような感覚がして背筋を凍らせる。


 ――このとき、リアーナのカインは破壊したマジホの動画からある有力な情報を得ることになる。

※この物語はフィクションです。

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