第31話 ワイルド・ジョーカー
アレックスは自分のアパートに戻っていた。カインのタワーマンションからは電車で5駅も離れているが、家賃も手頃で広さもセキュリティも申し分ない。既に引っ越しは済んでいて掃除も行き届いている。スケッチブックを目の前にアレックスは考え込んだ。自分のブランドのイメージをまとめたかった。しかし、大事な問題を思い出す。
「そうだ!スターローズ!」
このときアレックスは箱を置いてってしまったことに気付き、後悔した。
そのとき、――ピンポーン
インターホンがまた鳴った。アレックスが出ると誰もいない。しかし、目の前には――スターローズの箱があった。アレックスの血の気が引いていく。
「1日1回じゃないの!?それに2箱…」
アレックスは肩を落とした。流石に”衣服の形のゴミ”を頻繫に渡されると困る。仕方がないので箱を玄関に置いた。アレックスはマジホで返品について調べた。
「なるほど、開封せずそのまま一定期間内に郵便局で…」
返品はなんとかなりそうだったが、よく見ると箱に宛先や宅配業者のロゴがない。アレックスは床に突っ伏した。
「これじゃ返品も使えない…」
アレックスはブランドよりスターローズの件を解決することを優先した。
「やめろって言う?でも相手が…。――ブログに書き込む?いや相手がわからないと何してくるか…。」
アレックスは頭を抱えて体を丸くする。自分の尻尾を両手で握りしめてベッドに横になった。
「だからって捨てると終わりがない…」
アレックスはゴロゴロして自分の血液を脳に集めるようにした。できるわけないのに。
「あぁ、どうしよー!」
そのままアレックスはマジホを開いた。現実逃避だ。天気予報なんて見ている。乾いた笑いが口から漏れ出る。
「あれ?明日スーパーで卵安いじゃん…行かないと…。」
そのとき、アレックスはマジホのある画面で思いついた。
「これはリスキーだけど…。上手くやれば解決できるし、俺の認知度も増やせる!」
アレックスはマジホで”ある操作”をした。
*****
――2日後
アレックスはスターローズの被害から完全に脱却した。実はマジホの広告に”新米の本音”を伝える小さなテレビ番組の応募受付があったので応募した結果、見事に合格。そしてたまりに溜まったスターローズの衣類を全て会場に持っていき、自分の試着の体験談を合わせて感情的に細かく話したのだ。
その結果、番組はリアーナ中に知れ渡り、スターローズの箱は全く来なくなったのだ。
この日、アレックスのアパートでインターホンが鳴った。眼鏡をかけて帽子を被って髪を束ねているが相手はすぐにわかった。
「兄貴、俺やりましたよ!」
アレックスはインターホンを返さずにドアを開ける。カインは眼鏡を外して微笑んだ。
「あぁ…。よくやった」
アレックスは尻尾をゆらゆらさせてカインを中に入れた。
(グレイヴと違って礼儀作法がなっているな…。)
「お前、良い俳優になれるぞ」
カインは思わず声に出してしまった。アレックスはお茶を出しながら肩をわずかに跳ねさせる。
「え?まだ迷惑案件片付けただけですよ…。」
「謙遜するな。この前の番組でお前の存在は知れ渡った。充分良い1歩だ」
アレックスは苦笑いする。
「いや、セリフ棒読みでしたし…。まだまだですよ。あ、お茶どうぞ」
「あぁ、ご丁寧にどうも」
カインは出された紅茶を飲むとアレックスがじっと見ている。
(飲みづらい…。)
1口飲んでテーブルに置く。そしてカインは少し目を細めてアレックスに話しかける。
「今は俺だからいいが、他の奴にやるなよ?鼻息がかかって飲みづらいだろ…。」
アレックスはすぐに我に返った。頭を下げている。
「すみません!憧れの兄貴に自分の紅茶飲んでくれると嬉しくて…。――というか兄貴って飲食できるんですね」
「知らずに出したのか…」
カインは咳払いをして紅茶を再び飲む。
「俺はサイボーグだが、飲食ならできる。本体が使えるからな」
アレックスはメモを取ろうとしたが、カインはそれに手を添えた。冷たい感触がアレックスの舞い上がった目を覚ます。
「このことはメモするんじゃない。ただ食えるサイボーグだと書いておけ」
カインの真っ直ぐで冷静な瞳にアレックスはメモをやめた。このとき、アレックスはカインが普通の魔族どころか生物とも大きく異なった存在だということを再認識したのであった。
――アレックスのブランド名は『ワイルド・ジョーカー』
※この物語はフィクションです。




