第27話 アビスの大蛇
カインはアレックスの時間管理により、少し時間に余裕を持てるようになった。ある写真スタジオでカインはモデル撮影をする。複数のカメラがカインにシャッターを切る。撮影が終わるとアレックスは目を輝かせていた。
「兄貴!今日の撮影も良かったです。コツはありますか?」
カインはスーツに着替えながら答える。アレックスはカインのことを「兄貴」と呼ぶようになった。
「まぁ、表情をできるだけレパートリーを増やすことだな。同じ顔だと同じ写真ばかりでつまらないだろ?」
自分なりの答えにアレックスは飛びつく。尻尾が上がって可愛らしい。
「なるほど、メモメモ…」
アレックスはかなりメモ魔だった。カインのようなかっこいい男性になるためだ。しかし、カインの気は休まらない。メモを必死に取るアレックスに目を細める。
(こいつがシロだとは思えないな…。東雲)
実は脅迫状はまたあった。今回はスタジオの壁に直接インクで書かれている。
(『地のアビスに架かる橋。その大蛇に絶望を載せる』)
今回はカインも意味不明だった。インクの痕跡は壁に集中しているため、あとは追えない。
(地のアビス…。リアーナに地面の大穴なんてあったか?)
カインはマジホを開いた。するとアレックスが食いついた。
「あの、兄貴ってギルドセンターに行ってるんですよね?」
カインは首を傾げる。
「あぁ、今マイナークラスだが…。」
アレックスはマジホを開いた。そこにはギルドセンターのアプリが入っていた。アレックスは楽しそうに話す。
「俺も行ってたんです。今は退会してますけど…。戦闘苦手なんで」
この何気ないアレックスの一言でカインの濃霧に光が差し込む。
(”戦闘”?…まさか)
カインは地図を確認する。ギルドの会場となるリアーナの所有する地上の領土だ。そこには雪山や砂漠、海など多くのフィールドが存在する。カインが探したのはアポローンの国境付近のエリアだ。
(アポローンの地割れは国境からはみ出るほど酷い。もしかしたら――あった)
カインは見つけた。アポローンとリアーナの国境に大きな地割れがあるところを。カインは口角を上げる。
(…よし、後は)
カインはアレックスに向き直る。
「アレックス、この後の会議のオフィスまでの道のりでどこかマンホールはないか?」
アレックスは変わった質問に首を傾げたが、カインの切羽詰まった表情に、すぐに地図を開いて探す。
「はい、この銀行の前にあります」
カインはうなづいた。
「…恩に着る」
カインは自分のメモ用紙に何か文字を書いた。それはアレックスには読めなかった。ペンに何もインクが見えないからだ。疑問に思うアレックスをよそにカインはそれをヨットの折り紙にして鞄にしまった。
(よし、再現したインクの性能は良し。上手くいけば東雲の策略の真相に1歩近づける…)
カインはその後、アレックスの言ったマンホール蓋を開けて紙をこっそり落とした。その後、カインは電話を始めた。
「もしもし、俺だ。聞きたいことがあるんだ」
カインは少し間をおいて意味を含ませたように謎めいた瞳で話す。
「…グレイヴ」
電話の相手――グレイヴはアポローンで眉をひそめる。
『聞きたいこと?』
カインはネクタイを若干緩めながら続ける。
「あぁ、アポローンのリアーナ側の国境に何か交通機関は通らないか?予定でもいいが…」
グレイヴの声が揺らぐ。目が泳いでいるのがカインにはわかった。だが聞く相手が責任者のグレイヴしかいない。そのときカインはそう思っていた。
『…は?え、えーっと…』
そこで相手が変わった。前にアポローンに大海のお嬢に会ったときに既に聞いていた声の持ち主だった。
『変わりました、エリックです。』
(あのときのグレイヴの仲間の人狼か…)
カインは前にグレイヴに説教したときの光景が一瞬脳裏をよぎった。
『確か大きな断層で渡れなくなったからそこに貨物列車用の線路が通るはずです』
カインはそれでようやくわかった。ガンマンの青年に感謝した。
「なるほどな」
エリックから無理やりマジホを取り上げたグレイヴが電話を変わる。
『どうしたんだよ?そんなこと聞いて…』
「いや、大したことじゃない。じゃあな」
カインは中断するように電話を切った。その顔には笑みがわずかにあった。
「あれ?兄貴なんか楽しいことあったんですか?」
アレックスがカインの顔を覗いて微笑んでいる。
「…あぁ、これから起こすんだ」
カインの瞳は橙色に輝いていた。暁のような輝かしい瞳だった。
※この物語はフィクションです。




