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第26話 捨て猫のアレックス

 リアーナの総合病院でクロエは両手を組んでいた。目の前のガラスの向こうには、複数のコードで繋がれたカインがいる。彼の瞳は真っ黒のままだ。クロエの涙は止まらない。自分の選択に後悔の色が混じっていた。


「私のせいで…。でも私が助けなかったらあの子は…」


 すると、カインがむくりと起き上がった。視界に【リローディング】の文字が一瞬映る。ボディの修復の確認をして自分のYシャツを着る。ズボンは始めから履かされていた。カインはドアを開けてクロエに尋ねる。


「クロエ、無事か?」


 クロエはうなづいていた。足の包帯を見せる。


「私は転んで捻挫しただけ。でも男の子は…」


 カインはクロエの案内でサイボーグ用病室から一般人用病室に到着した。看護師が現れて優しく言う。


「アレックス君は無事ですよ」

(…アレックス?救助者の名か?)


 カインとクロエは病室のアレックスという少年を訪ねた。アレックスは猫の耳と尻尾が生えていて、三毛猫のような髪色だ。種族は猫の魔族で、年齢は10代だろう。


 アレックスはとっくに目を覚ましていた。頭に包帯が巻かれていて片腕も骨折している。このときカインとクロエは同じことを思った。


(全然無事じゃない)


 アレックスは起き上がろうとしたが、体がまだ痛む。クロエは押さえて静止した。


「ダメよ。高い所から落ちたから、動かないで」


 アレックスは少し首を動かした。


「あなたは?確か、俺ツリーハウスの頂上に登って…突然グラッと」


 このときカインはアレックスと目を合わせられなかった。


(元は俺のせいだ。俺のせいでこのガキに怪我を…)


 東雲の笑い声がカインの頭の中で蘇ってカインも架空の頭痛を感じた。


「す、すみません。こんな俺のために…。」


 クロエは安堵した。


「良かった~。紹介するわね。私はクロエ・月影。こっちは旦那の――」

「カイン・月影ですか!?俺、大ファンです!」


 アレックスはクロエの言葉を遮って興奮する。カインはやっとアレックスに目を合わせて1歩前に出る。


「そうか、ところでお前は何をしていたんだ?」


 アレックスは顔が暗くなった。


「俺、アレックス・松原と言います。この前海外の魔法騎士学園の試験で落ちて、家から追い出されたんです。『1発合格できない出来損ないは不要』と。それで思い出のツリーハウスに上ったらこんな目に…」


 カインとクロエは顔を見合わせる。アレックスは訳ありのようだ。すると、アレックスは痛みに耐えながら体を起こして頭を下げた。


「月影様、俺あなたのような俳優兼モデルになりたいんです!弟子にしてください!」


 カインはすぐにアレックスを無理やりベッドに横にさせる。カインは少し質問した。


「いいのか?行く当ては――」


 アレックスは熱い眼差しで即答する。


「ありません。俺は本気です」


 その言葉に偽りがないことをカインは見抜き、心を打たれた。彼はゆっくりうなづく。


「わかった。弟子にしよう」


 アレックスはその場で喜ぶ。


「やった!――って痛てて…」


 アレックスは体の痛みで涙を流す。しかし、カインは目を細めた。


「ただし条件がある」


 アレックスの鼓動がうるさくなった。緊張感が静かな病室を包む。


「俺はスケジュールだの約束だので多忙だ。マネージャーを頼めるか?難しいことはやらせない」


 アレックスはうなづいた。


「それならやります!」


 カインは微笑んだ。クロエは小さく拍手する。


「決まりね、おめでとうアレックス君!」


 アレックスは満面の笑みだ。


「俺、この上なく幸せです!」


 カインは少し笑った。


「大袈裟だな。良いアパート紹介するからそこで生活しろ。何かあれば俺に相談してくれ」


 クロエはなんだか微笑ましかった。カインとアレックスがまるで兄弟のように楽しそうに話し合っていたからだ。


(この光景、グレイヴが見たら嫉妬するわね)


 *****

 こうして、カインはアレックスという一番弟子が配下についた。だが、彼の心にはウラヌスの東雲の策略のことばかり考えていた。


 ――東雲の策略はまだ終わっていない

※この物語はフィクションです。

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