第20話 イルカ忍者隊、参上!
天照寺邸を出てからグレイヴ一行は魔獣討伐を繰り返していた。歩きながら仲良く話し合っている。とてものどかで平和な光景だ。
「いやあ、さっきの奴強かったな」
グレイヴが額の汗を拭うと、リリーが笑う。
「はい!あの蛇の鱗、斧で10枚しか割れませんでしたぁ」
「いや、充分強いだろ…。リリーも」
エリックはつっこむ。しかし、エリックの表情が暗くなった。
「…そういえば、さっき別のパーティーから変な話聞いたよ」
グレイヴはキョトンとした顔で聞き返す。
「…なんだ?この世の終わりみたいな顔しやがって」
「いやそんなオーバーに言わないでくださいよ。せいぜい”嫌な予感がする”程度ですよ?」
リリーは可愛らしくつっこんだ。グレイヴは眉をピクリと動かす。
(なんだよ。んな可愛い外見で斧で大男並みの怪力見せる癖につっこめるのかよ…。)
グレイヴの脳裏には今までのリリーのゴリラパワーを笑顔で披露する光景があった。しかし、エリックの話に意識は自然と移った。
「なんか最近イルカの面を被った2人組の奴がアポローンに入ったんだって」
リリーは問い返す。
「また個性的な冒険者さんたちがアポローンに来たんじゃないんです?」
(――いやお前が言うなよ)
グレイヴはリリーの天然な言葉に内心つっこんだ。エリックは帽子に手を添えて続ける。
「それがさ、彼らにあった人は皆――」
そのときだった。目の前の切り立った岩の横にクッキーが道になって落ちている。まるで誘い込むように…。グレイヴ一行は悟った。
「いや明らかに罠だろ」
「「うん」」
グレイヴの言葉にエリックとリリーは同じタイミングでうなづく。しかし、チェルルは目を輝かせていた――。
「く、クッキー!」
チェルルはリリーの手から離れてクッキーを拾いながらいなくなってしまった。そのスピードは普段のマイペースなチェルルからは想像できないほど速い。リリーは頭のクラゲをピンクにする。
「あ、待ってください。チェルルー!」
「なっ、おっと…。おいちょ待てよ!?」
チェルルを追いかけたリリーをグレイヴとエリックも追いかける。岩が森のように切り立った場所で光も少なく、見通しも悪い。しばらくしてチェルルはクッキーを全て拾い上げて口いっぱいにそれらを放り込んで止まっていた。やっと他の3人も追いついた。3人はへとへとでチェルルだけ幸せそうだ。
「クッキー食べる?」
吞気な顔のチェルルにグレイヴが怒鳴る。
「いらねぇよ!なんで動いた!?――ってアテッ!」
リリーが後ろからグレイヴを斧の柄で殴り、グレイヴを地面に引っ込めさせた。地面に下半身がめりこんでしまい、なかなか抜け出せない。
「ぬ、抜けねぇ…。」
グレイヴはエリックに勢いよく手を振った。
「エリック、ちょっと引っ張ってくれないか?」
すると、エリックは少しだけグレイヴの両手を掴んで引っ張った。だが、びくともしない。グレイヴの肩が痛くなる一方だ。
「動かないね」
「吞気に言うなよ」
エリックの頭の中の電球が光った。
「狸に戻ってみたら?」
グレイヴがつっこんだ。
「それ早く言えよ!気づかなかった俺も悪いけど!」
グレイヴは狸に戻り、穴の壁を蹴って抜け出した。
脱出後、リリーはチェルルにお説教していた。
「勝手に道に落ちたもの食べちゃ、『めっ!』ですよ?」
「は~い」
チェルルは園児のように返事をする。グレイヴはエリックと一緒にリリーとチェルルに”来た道を戻ろう”と言おうと2人に近づいたそのとき――
地面から無数の金属の柱が生えてきた。全員の思考が停止する。
「なっ!」
柱はグレイヴたちを包み込み――気づけば巨大な鳥かごに閉じ込められた。グレイヴは慌てて剣を振るが、鈍い金属音が聞こえるだけであった。
「エリック、銃かベルトでいけないか?」
しかし、エリックは銃の引き金に力を入れ、ベルトの金具は滑って触ることもできない。
「だめだ。これ魔法式の檻だよ!結構強力だ!」
リリーも詠唱するが魔法陣も光も現れない。それどころか斧や神楽鈴の輝きも消え失せている。
「ダメですぅ。魔法は全て封じられて使えません」
すると前方の岩から2つの人影が現れた。それは忍者の装いにイルカの面だった。全員の喉からつばを飲み込む音が聞こえる。
赤いマフラーの忍者が元気よくポーズをする。
「拙者、”ウラヌス”の幹部イル!」
青いマフラーの忍者も同様だ。
「同じくルカ!」
「2人合わせて、”イルカ忍者隊”!」
2人はポーズを決めた。グレイヴたちの頭上にはてなが浮かぶ。グレイヴは体の力が抜けた。
「なぁ、エリックの言ってた奴らってこれか?こんなごっこまがいが…。」
エリックの顔は青かった。
「どうしよう。殺される…」
「は?」
グレイヴはエリックの変な言葉に驚いた。イルカ忍者隊は全く殺意のあるそれには見えないからだ。例えるならば、ショッピングモールのそこまで売れないヒーローショーの主役2人組と思った方がいい。
「こ、殺されるってどういうことだよ?こいつら弱そう…」
しかし、エリックが嘘をつかないことを信じるグレイヴは檻を見て思い出した。
(この檻、形は違えけど前にクロエさんたちを閉じ込めたトラップにそっくりだ…)
グレイヴはカインのような特殊な瞳を持たないが、見た目の色や自分たちの効果によりなんとなく感じた。イルは威勢よく声を上げる。
「拙者らは主様により命じられたのだ!」
ルカが言葉を継ぐ。
「貴様らの始末をな!」
エリックは血相を変えて息を吹き返すように話した。
「こいつらにあった奴らは、誰1人行方がわからなくなったんだ…」
グレイヴ一行は血の気が引くのを感じた。すると、空間が歪んで巨大なカメレオンが出てきた。尻尾にはチェーンソーが禍々しい雰囲気を放っている。イルは怪しく笑う。
「さぁ、こやつらが今日の晩飯じゃよ?」
ルカも同じ笑みだ。さっきまでの売れないヒーロー感は見た目だけで不穏な空気とカメレオンが全ての体中の筋肉を震わせる。イルとルカは同時に命じた。
「「やれ!!」」
グレイヴ一行は全ての”終わり”を感じた。冷たい汗が生きてる感覚を彼らに感じさせる。
(終わった…)
檻の中の者たちが迫りくるチェーンソーを前にそう思ったそのとき――
――ガンッ…、バキッ!!
機械の砕ける音が聞こえた。
「?」
目を見開くと、謎の男がチェーンソーの回転していない板を蹴ってチェーンソーを破壊したのだ。男は黒いYシャツに若干ダボダボの白いズボンに金色の装飾のあるブーツに白に近いグレーのフードつきのロングコートを羽織っている。そして地面に届きそうなくらいに長い銀髪に顔にはスポーツサングラスのような黒い烏の仮面が夕陽を受けて怪しく輝いている。
「…なんだお前?」
グレイヴは男のことを知りたかった。だが、――
「…」
仮面の男は黙ってグレイヴたちに背を向けてただカメレオンの魔獣をにらみつけるのであった。
※この物語はフィクションです。




