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第19話 アポローンの危機

 日を跨ぎ、天照寺邸になんとか到着した一行は、さっそく応接間に向かった。そこには散らばった資料たちがほこりを被っている。グレイヴは片付けの習慣がないのだ。しかし、供給がわずかでゴミもないので家中はほこりまみれのがらんどうだ。グレイヴは顔を赤くする。


「ごめんな。汚いところで…。」


 3人は黙っていた。返す言葉がないのだ。リリーが資料をかき集める。


「早く状況を確認しましょう~」


 彼女の特有の柔らかい声が少しだけ塩辛い何かを感じさせた。全員でカインが持ってきた資料を集めた。改めてみると、たとえ文字が読めない人でもグラフや字の色で状況は一目瞭然だった。


 狸姿でテーブルの上に立ちグレイヴは言葉を探す。


「この状況は…」


 エリックは銃のトリガーを指にはめてクルクル回す。


「もう2文字で完結っしょ」


 チェルルが体をぽよぽよ動かしている。


「ほこり、いや~」


 どうでもよかった。リリーが資料を1つの束にしてまとめてテーブルの上に鈍い音を立てて置く。


「結論は、”最悪”です♡」


 場を和ませるためか、リリーは可愛く返した。しかし、胸に大きな引っ搔き傷ができたような感じがした。リリーは咳払いをして詳細を述べる。


「まず資源を得るダンジョンがない。水脈が不安定で近年は地下水で汲み上げたことがない。日射は日によって極端に変わり土壌は酷く焼けて土は死んでいる。さらに明確なのは魔獣による被害者の数値…。」


 エリックは銃を回すのをやめる。


「明確なそれを、今解決してるわけか。」


 リリーはうなづいてグレイヴの首の鈴を外す。


「この魔読鈴は魔力の吸収の流れの風見鶏。つまり魔力の流れを整える準備段階に今立っています!」


 チェルルは頭にはてなが浮かぶ。


「よくわからないけど、鈴は信用して良さそうだね♡」


 グレイヴもチェルルと同意見だ。人型になり鈴をリリーから返してもらった。そして先日のカインの冷え切った顔を思い出す。それと微笑んでいつもそばにいたジルの姿を重ねた。グレイヴは鈴を静かに握りしめる。


「俺はあいつを信じる。そして復興させる」


 このとき、日が高いうちにグレイヴ一行は冒険に出た。鈴の示す魔獣はまだ多いからだ。


 ――しかし、このとき彼らは知らなかった。このアポローンにさらなる脅威が迫ってきていることを。


 *****

 リアーナではカインが月影商会で酒を飲んでいた。飲酒はカインが魔力を回復させる手段の1つだ。魔王のカインは酔わないので酒は子供のいないところで嗜んでいる。


 ――カラン…


 グラスの氷が溶けて音をたてる。カインはデスクの水晶が赤く光るのを確認して目を細めた。


「ついに来たか…」


 カインはダークブラウンのデスクの下の引き出しの奥の黒い紐を手に取り引っ張った。すると、引き出しの奥の壁が四角く切り取られてデスクと全く同じ色と材質の小さな立方体の箱を現れた。隠し仕掛けだったのだ。カインはその箱を開けてデスクに両手をつく。


「あの蜘蛛に、アポローンを奪われるわけにはいかねぇ…」


 ”D7”――ディエゴ・七宝が何をしてくるのか。それでカインは頭がいっぱいだった。もちろん仕事は完璧にこなしていた(何気にカリスマ)。カインは水晶越しに吞気に喋りながら歩くグレイヴ一行を見ていた。しかし人工的な彼の歯からはギシギシと音をたてている。


「ウラヌス…」


 この言葉が天変地異の前触れだということを、まだ1人の男以外誰も知らない。

※この物語はフィクションです。

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