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第18話 カインの特別トレーニング

 グレイヴは短期間で仲間を3人も手に入れて少し誇らしかった。鼻息が荒い。


「これなら、アポローンを復興させるのは楽勝だ!」


 人型で飛び跳ねるグレイヴに3人はなんとなく微笑ましかった。しかし、――


「何が、楽勝だと…?」


 並んでいた列の1番後ろから聞き覚えのある低い声がした。あのスパイ映画のような戦闘服姿のカインだ。全員ジャンプして後ずさりする。


「つ、月影様!?」

「ほ、本物だ…」


 エリックとリリーは驚く。チェルルは固まったまま動かない。リリーが口を開く。


「…り、リアーナの大富豪様が、な、な、なんでこんなみすぼらしくて崩壊した国に?」


 グレイヴはリリーの言葉にカチンときた。


「アポローンは再生すんだよ!みすぼらしくて悪かったなっ!?」


 カインは冷静に答える。この困惑にはカイン自身は慣れていた。


「俺はこのアホ狸の元使用人でな。崖から落とされて今じゃ因縁の仲だ…」


 グレイヴは思わずフォローを入れる。かなり焦っていて尻尾も膨らんでいる。


「その、落としたってのは昔の俺で…。今信頼取り戻してるところだ!」


 このとき、チェルル以外の2人の視線が少し冷たくなった。というか哀れみに近い。カインは咳払いをして指を2本たてる。顔は涼しげだ。


「俺が来た目的は2つ。まずは大海のお嬢に用があってな」


 リリーは目を丸くした。


「えっ、私にですか?まさか、祖父に何か…。」


 カインは首を横に振った。


「いや、孫が冒険者のパーティーを組んだことを報告したらよろしく伝えてくれと言われただけだ。改めて言おう、”冒険者の第一歩おめでとう”。これが伝言だ」


 リリーは涙を流してうなづいている。実は大海家はリアーナの有力な聖職者一家で、カインがそこに莫大な出資と魔導インフラの整備の協力をしている。そしてリリーは今現在聖女修行の旅の真っ最中だった。リリーがグレイヴに怯えなかったのはリアーナ出身で、勇者伝説の真実を知っていたからである。この真実をグレイヴはまだ正確には知らない。


 カインは咳払いをして少し肩を回した。


「これが、1つ。もう1つは――グレイヴ!」


 急にはっきりとした声を出してきた。グレイヴは気を付けになる。


「…は、はい!なんでしょうか?」


 カインは整った顔立ちから少し崩れる。


「なんでしょうかじゃねぇよ!お前、何なんださっきの大見得は!?”自分が弱いから周りが強いと助かる”とか思ってんじゃねぇのか!?」


 グレイヴは顔を赤らめて言い返す。


「ち、ちげぇよ!」


 カインは目を細める。


「なんだ図星か?じゃあ、このパーティーでどいつがどんな場面で何に有利とかわかんのか?」


 グレイヴは1歩前に出る。


「要らねぇだろ。そんなコンセキ!」

「分析って言いたいのか?」


 またしてもカインはグレイヴの誤字に静かにツッコミをいれる。カインは頭の後ろに片手をやる。


「仕方がない。俺がお前の相手をしてやる。それで()()を見定める」


 カインはグレイヴただ1人を見ている。他の3人なんてどうでもいいように。グレイヴはうなづいた。


「やってやるよ!おい、チェルル!審判してくれ」


 チェルルは敬礼する。


「ガッテンショウチ!」


 こうしてカインとグレイヴは1対1で戦うことになった。しかし、勝敗の行方はエリックとリリーには明らかだった。


 チェルルが短い手を挙げる。


「…よーい、GO!」


 グレイヴは早速剣を抜いてカインに近づいた。完全に間合いは取れている。


(か、勝った…。)

「おし、そこだ!”ゴウエン――”」


 グレイヴは剣を縦に勢い良く振った。しかし、――カインはそれを鋼の腕で止めた。そして剣の刃を握り返し、投げ飛ばす。


「…遅い」

「ぐわっ!」


 カインは腕のわずかな焦げ跡が特殊なコーティングで細い白煙と共に癒えていくのを横目にグレイヴを睨む。


「お前の”ゴウエン・ソード”という技は幼い頃のチャンバラで開発したものだったな。懐かしいが、その程度じゃ全然通らないぞ」


 ――この世界の攻撃や魔法は、自分で考えて”開発”することで習得できる。それには相応の魔力と特訓、知識が必要だ。しかし、グレイヴはこの「炎を剣にまとわせて切り付ける技」”ゴウエン・ソード”以外何も開発してこなかった…。


 グレイヴは地面に叩きつけられる。その一方でカインは左腕を構えた。長い手袋は煙のように消える。


「こっちもいくぞ…。」


 左腕は機械音を立てて変形して銃口のようになった。そしてそこから出たのは真空波だった。連射で放たれた突風がグレイヴをさらに追い詰める。グレイヴは炎魔法で対抗しようとした。しかし、風がそれを一瞬で消し去る。カインは表情は変わらない。だが、圧は感じる。


「お前の攻撃はその程度か。これでよくあんなことを…」

「うるせぇ!俺は勇者の血を引く者だぞ!黙って倒れろ!」


 その瞬間、グレイヴは思考が固まった。自分が言ってはいけないことを言ってしまったのだ。カインは両腕を刃のように変形させて疾風の如くグレイヴに瞬時に間合いを詰める。グレイヴは反射で剣でクロスになったそれを防いだ。カインは笑みを浮かべる。まるで今にも喉を引き裂こうとする美しい獣のように。


「いい反射神経だなぁ。それだけ取り柄だったよな、お前。勘で動いて都合の悪いことから逃げ出す。だから――」


 カインはグレイヴのケモ耳の近くで優しく言い放つ。


「お前だけ借金取りに捕まらなかったんだな。」

「え?」


 グレイヴは聞き間違いと思った。いや、そうしたかった。カインは続ける。


「俺が5年前、借金をしてるお前の両親の居場所を貸した奴らに情報を流したんだ。まぁ、息子は逃がすよう言ったんだが、まさか留守番とはな」


 グレイヴは思い返していた。5年前、旅行好きの両親が普段のように出かけてから約束の日になっても帰らなくなり、それ以来音信不通だということを。カインはグレイヴの青い顔に口元を歪める。


「たまたま宿が俺の所有でな。そこにいるという情報を俺の長年積み上げてきたパイプに流したら一気に解決した。あいつら散財癖が酷すぎたからな。たんまりもらえたぜ」


 カインはグレイヴの力が緩んだ拍子に体当たりでグレイヴを倒して、みぞおちを片足で踏みつける。そして素早く腕を元に戻して手刀をグレイヴの首に素早くかざした。金属のわずかな温もりがグレイヴの背筋を凍らせる。


 その一瞬の光景にチェルルは目を丸くしていたが、カインに「おい、審判!」と呼ばれ目が覚める。


「結果、月影様の勝利!」


 これは当然の結末だ。初心者よりも半人前でも足りないほどの未経験者のグレイヴが魔王に勝てるわけがない。グレイヴは人型で顔をこわばらせて涙を流す。


「く、くそ…。心理戦かよ」


 カインは無表情で冷徹にグレイヴを見下ろす。


「お前は、まだ世界を知らない。俺の導く道だけが全てではないことをよく覚えておけ」


 そういうとエリックとリリーに近づく。2人は一緒に戦闘の特訓をしていた。ちょうど輝く笑顔で汗を流している。


「…おい」


 カインは重々しい空気だ。無表情だから余計に緊張する。エリックとリリーは別の汗を流す。


「「は、はい何ですか?」」


 すると、カインはエリックとリリーの肩をポンと両手で添えた。綺麗な笑顔だ。


「なかなかいい筋してる。このままあいつを頼んだぞ」


 そういうと、カインは宙を浮かんでそのままアポローンの分厚い雲に消えていった。グレイヴは鈴を見つめることと、カインの謎にしか思考が及ばなかった。


 グレイヴは起き上がって地面に座り込み地面に拳を叩き付ける。


「あぁ、くそ!」


 リリーがそんなグレイヴにエリックと駆け寄る。


「思ったんだけど、魔獣討伐だけじゃアポローンの復興は果たせないんじゃない?」


 グレイヴは目を丸くする。


「は?だって、カインは…」


 エリックは顔を下げて帽子のつばで顔を隠しながら銃のリボルバーを回す。これはエリックが文句を言うときの癖だ。


「君って本当に箱入りだね。今は魔力の流れを独占する魔獣を消してるだけ。これじゃ国民の生活の安定もできないよ」


 グレイヴはそのエリックの一言にあることを思い出した。前にカインが直談判に来たときに持ってきた大量の調査記録だ。


「俺の家に行こう…。」


 エリックとリリーは眉をひそめる。グレイヴはすかさず付け足した。


「そこにアポローンの現在の状況がわかる資料があるはずだ」


 それを聞くと3人とも顔が明るくなる。


 ――こうして自分の未熟さを改めて思い知らされたグレイヴはカインの言いなりになるまいと一旦仲間を引き連れて天照寺邸に向かうことにしたのであった。

※この物語はフィクションです。

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