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第14話 可愛いものには敵わない

 グレイヴはエリックと歩いていた。森から一度宿に泊まったが、ベッドしかない。屋根は東屋程度でグレイヴは驚いた。しかし、エリックが「こんなのアポローンじゃ普通だろ?」とキャンプセットを持っていたおかげで助かった。食料は多いがいつ尽きるかはわからない。


 翌日、貴族学園で寝坊常習犯だったグレイヴをエリックが鍋で殴って起こし、エリックは自分で歩くよう反発した。流石に吞気なエリックでも、グレイヴのだらしなさには声を荒げる。


 グレイヴも申し訳なくなり、眠い目をこすって鈴の方向へ歩いていた。歩幅が広がるよう、人型になっている。すると、後ろで口笛を吹いていたエリックが口を開いた。


「…ねぇ、その鈴って魔道具だよね?リアーナの魔王、カイン・月影の」


 グレイヴはその言葉に目が覚めた。


「そうだ。あいつは魔王だけど別に悪い奴じゃないぞ?」


 エリックは首を傾げる。「何を言ってるんだ?」とでも言うように。


「当たり前でしょ?だいたいマサムネって人が無知だったんだよ。魔王は本来神様とか天使とかの類なのにそれを倒すって、頭おかしいんじゃない?」


 グレイヴの顔が引きつる。


「そ、そうなのか?…ちなみに、その”おかしい”は誰に対してだ?」


 エリックは即答した。


「マサムネだよ。子孫にも変な入れ知恵を持ってくるからアポローンは”通過点”なんだよ」


 グレイヴは感じたことのない罪悪感が沸き上がった。もはや”呪い”だ。頑固な油汚れのような。以前なら、他人事のように受け流して名誉を保ちつつ怠けることに全力を尽くしてきた。


 ――でも、もうそんなことはできない。


(…カインが転生者を嫌う理由、これか)


 グレイヴは考え込んでしまった。しかし疑問が浮かんだ。


(…ん?待てよ。じゃあなんで異世界転生者のクロエさんと結婚したんだ?)


 そのとき、鈴が鳴った。


「…ここだ」


 グレイヴは目の前を見ると岩場に大量のハムスターがいる。山積みになっていて、1匹コロンと転がり落ちる。それにグレイヴの心は鷲掴みにされる。


「…か、可愛い」


 しかし、エリックは帽子のつばをつまんで戦闘態勢に入る。


「気を付けて!こいつらは”ムゲン・ハムハム”ってモンスターだ!弱いけど無限増殖して数で初心者探索者たちをねじ伏せるんだ」


 すると、ハムハムが起きて山がグレイヴたちめがけて崩れてきた。グレイヴは剣を抜く。実は昨晩、エリックに剣術の基本を教えてもらったのだ。おかげで剣の基本的な構えができるようになった。しかし、――


(…やっぱ、重い!)


 筋力は流石に上がらなかった。


 グレイヴは剣と炎魔法でモンスターを薙ぎ払う。エリックは銃で1体ずつ確実に打ち抜く。


 しかし、増える。増える――


 グレイヴは呼吸が荒くなり、エリックに声をぶつける。


「このままじゃキリがねぇ!…こいつら弱点とかないのか!?」


 すると、エリックは速やかに答える。


「水に濡れると、増殖が止まるよ!」

「それ先に言えよ!」


 簡単過ぎてグレイヴは突っ込んだ。しかし、砂漠化の進むアポローンに水はないことをこのとき彼は初めて実感した。遅いよね。


「…エリック、水魔法使えないか?俺、使ったことないんだ!」

(使ったことないから使わないのは、変じゃ…)


 エリックは心の中にその言葉をしまいこんだ。せっかくの友情に亀裂は入れたくないからだ。


「…できるよ。今出す」


 エリックは銃を両手に持ち、真上に向かって連射する。すると、小さな水の弾が集まって巨大な水の塊を生み出される。


 グレイヴは剣を構えて狙いを定めた。


「よし!そこを動くな!」


 グレイヴは一閃を決める。滝のような水がハムハムに降り注いだ。ハムハムの毛がしぼんで山自体が空気の抜けた風船のようにしぼんでいく。


「今だ!行くぞ、エリック」

「こっちも準備万端!」


 グレイヴは剣に炎をまとわせてエリックはバズーカを構える。


「”ゴウエン・ソード”!」

「”コンドル・バズーカ”!」


 2人の攻撃がハムハムたちを一掃した。黒煙が上がるとそこには影も形もない。グレイヴとエリックはまたしても喜んだ。鈴の方向は別の向きになっている。グレイヴは喝を入れる。


「おっし、この調子で行くぞ!」

「…その前に」


 エリックが使いこまれた本を取り出した。それは海外の魔法小学校の教科書だった。


「水魔法は基本中の基本だよ?ここで特訓しようか」


 エリックは遠慮なくグレイヴに視線を貫く。その笑顔は似ていないが、どこかカインと似た冷酷さが宿っている。


(…ぐっ、カインほどじゃねぇけど視線が痛い)


 その日、グレイヴは死ぬほど基本魔法の特訓をエリックからさせられた。それは大の大人がやっていて本当に恥ずかしい光景だった。

※この物語はフィクションです。

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