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第12話 太陽と月に迫る蜘蛛

 リアーナのある企業の会議室。そこではあるプレゼンテーションがあった。それを熱心に聞くカインの脳内には信頼度や融資額が飛び交っている。


「――これで弊社のプランは以上です」


 主導者がお辞儀をすると、拍手が静かな会議室を満たす。


 会議が終わり、カインは鞄に資料を滑り込ませていた。他の者は既に部屋から出ている。大きな窓ガラスが一方の壁を占める、その空間にはカイン1人――ではなかった。


「…そこにいるんだろ。――ディエゴ・七宝(しちだから)。」


 振り向かない。しかし声ははっきりと部屋の一角にある束ねられた大きなカーテンに向けられていた。カーテンから1人の男が現れた。年はグレイヴと同じくらいで顔も良い。紅色のチャイナ服に肩を見せるように着た白い上着、栗色の長髪を1本の三つ編みにして胸元には蜘蛛を模したタトゥーがある。全体的にチャイニーズマフィアって感じだ。


 男は口を開く。


「なんや、気づいとったのか?ほんまにルシファー――いや、カインはんには敵わへん」


 京都弁のようなその口調はさらにその男――ディエゴを恐ろしく思わせる。カインは全くひるまず、視線をディエゴから外さない。


「…お前、なぜ今になって俺の前に現れた?復讐なら100年経っているだろ」

「せやな、確かに時効や。ただ――」


 ディエゴは扇子を開いて仰ぐ。扇子には大きな青い蝶が羽を広げている。


「僕は宣言しに来たんや。『世界を支配するんは、このディエゴ・七宝様や』ってな」


 カインは目を細める。


「――ほう、それで俺を再び”ルシファー”として勧誘しに来たのか…」

「その通りや。君の暴れっぷりはどこか計画的で正確、おまけに幹部の中で最強。もはや君しかおらへん」


 ディエゴは「ククク…」と扇子を口に当てて優雅に笑う。しかし、カインは首を横に振った。


「悪いが、俺は足を洗った。それに組織の壊滅原因は――」


 カインはそこで言葉にブレーキをかけた。同時に眉をひそめる。ディエゴは待ちくたびれていた。まだ時計の長針は1目盛りしか動いていない。


「…アポローン、あそこは良い根城になりそうや」


 カインの肩がわずかに跳ねる。


「俺があれを復活させようとしてると思ってるのか?根城にするなら俺は止めない。宣言ならあの無能狸に言ってくれ。――専門外だ、俺は」


 ディエゴは大きく両手を開く。背中から8本の蜘蛛足が生えて、部屋の照明が落ちる。魔力の流れが変わったのだ。


「…僕は冷酷な奴が好きや。特に君のようなものは糸で捕らえたい。今のカインはんは、身体のほとんどが機械。なかなかおもろいわ。もはやルシファーの面影もあらへん」


 カインは静かにYシャツの袖をまくってファイティングポーズをする。その目はわずかに赤紫の輝きを放っていた。これは魔王のカイン特有の”魔眼”だ。ディエゴは嘲笑う。


「闘うん?僕は強いで?そんな重そうなから――」


 ――シュッ!!


 ディエゴの腹に強い衝撃が走る。同時に電撃が全身の神経に走った。ディエゴが鈍い音を立てて床に転がる。カインは右手の拳を稲妻を走らせて前に出していた。カインは口角を上げる。


「気づかなかったのか?重そうな俺の一撃に。物理と電気魔法の基本的な合わせ技だぞ?」


 悔しそうに立ち上がるディエゴをカインは睨む。無表情で。


「俺はサイボーグだ。この場で俺に手を出せば、すぐにリアーナの特殊警察が駆けつける。証拠も残っているしな」

「…ぐっ、それは大変や」


 ディエゴは棒読みのセリフで立ち上がって窓に向かった。すると、窓が勝手に開いてディエゴは振り返る。カインは黙ったままだ。


「そろそろお暇するわ。こういうのは雑魚から倒すべきやもの。また会いに来るで、カインはん」


 窓からディエゴは飛び降りた。カインは急いで窓の下を見るとそこにはビル風が吹き抜けるだけだった。カインは右手を押さえる。電撃はカインにもダメージを与えていた。口から煙も出始める。


「…はぁ、戦闘向きにギアチェンジした方が良さそうだ」


 カインは鞄から白紙の束を取り出して、机で整える。シャツの胸ポケットから万年筆を手に取り一番上の紙に魔法陣を描いた。


 ――バサッ…


 片手でその紙の束を崩すと、額に魔法陣の描かれた紙を貼り付けて顔を隠した白狐が複数現れた。カインは指示を出す。


「紙狐よ。半分はリアーナの警備を、もう半分はアポローンを監視しろ。異常は即座に俺に通せ」


 紙狐たちは透明になり昼間の空に散らばって消えていった。カインはその空を見つめる。


(女郎蜘蛛族のディエゴ。まさか、まだ存命だったとはな…。)


 カインは口を歪める。


「…まぁ、俺はアポローンがどうなろうとも、何とも思わないがな」


 彼の瞳は黒に戻り、静かに部屋をあとにした。ここで戦いをしなかったのはリアーナに余計な火を出させないためだった。”争い”という火種を。


 ――しかし、もう1つ別の理由があったのだが、それはまだ先の話。

※この物語はフィクションです。

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