71cs 「Keep / To Do」
スマホの画面に、二つのアプリが並んでいる。
Keep と To Do。
使い分けは、最初から決まっていた。
Keepは思いつき。
To Doはやること。
それだけのはずだった。
Keepを開く。
短いメモが並ぶ。
「彼女は、死ぬ前に一つだけ嘘をついた。」
その一行が最初だった。
書いた覚えはある。
たしかに自分で打った。
そう思っている。
指がゆっくりスクロールする。
その下に続きがある。
「その嘘は、誰にも見抜かれなかった。」
息が少し止まる。
これは書いていない。
でも違和感は薄い。
ホームに戻る。
To Doを開く。
整ったリスト。
『原稿を書く』
『告知を出す』
『入稿する』
一つずつチェックしていく。
小さな安心が残る。
「短編を書く」
まだチェックは入っていない。
そのタスクだけが、まだ未完了のまま。
Keepを開く。
メモは増えている。
「彼女は、それで満足していた。」
「彼は、その嘘に気づいていた。」
「だが、指摘しなかった。」
カーソルが一番下で点滅している。
待っているように見える。
スクロールする手が止まらない。
読むことが、作業に変わっていく。
To Doに戻る。
リストの最後に一行増えている。
「彼女の嘘を証明する」
期限は今日。
指が止まる。
これは自分で入れたもの……そう思う。
そう思うことにする。
Keep。
空白の下でカーソルが点滅している。
続きを待っている。
指が動く。
一文字。
また一文字。
文章が増えていく。
その瞬間、軽い振動。
To Do。
「彼女の嘘を証明する」
チェック済み。
触っていない。
それでも終わっている。
ホームに戻る。
KeepとTo Do。
並んでいるだけで、何も変わっていない。
なのに、何かが少しだけズレている。
Keepを開く。
最後の一行。
「なぜなら、その嘘は……」
そこで止まっている。
続きを考える必要はない気がする。
「短編を書く」は、まだ終わっていない。
でももう、気にしていない。
画面が少し明るい。
Keepは思考を残す。
To Doは行動を終わらせる。
次の通知が来る。
「あなたは、明日……」
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